64 南門外の戦い
南門での戦いは他と比べて激しいものになっていた。それというのも複数のPKギルドやイリーガルギルドが帝国軍の援軍として現れたからだ。
既に十数人のプレイヤーが戦闘不能となり救護所に運び込まれて、内数名が死に戻りとなった。
不幸中の幸いだったのは、NPCの冒険者たちに被害が出ていない点かな。帝国軍の前線を粉砕した時点で、自分たちの出る幕はないと悟ったのか、彼らは別の場所へと移動して行ったのだった。
生き返ることのできるプレイヤーや、死にそうになると魔道具が発動して逃亡する帝国の兵士たちとは違って、NPC冒険者たちはそのまま死んでしまう――らしい――。そうなると、例え帝国軍に勝てたとしても素直に喜べなくなる。
多少の戦力の低下にはなったけれど、周りに気を使いながら戦う必要がなくなったから、彼らの撤退は結果的にプラスに働いたと言えそうだ。
「『処置』そして『治療』。……はい、終わり!」
そして門のすぐ脇に作られた救護所――大きなテントよ――で、私、メイプルはひっきりなしに訪れる怪我人を回復していた。回復薬などのアイテムが充実しているためか、回復魔法を使える人は少なく、そのため私のような初心者まで動員されることになったのだ。
「おい、まだ完全回復していないぞ!?」
「プレイを始めたばかりの私に何を期待しているのよ。あなた上位職になっているから二十レベル以上でしょう?そんなあなたを三レベルの私が全回復できると思っているの!?」
いくら回復魔法『処置』に回復系魔法のブースト効果が付いているとはいっても、限度というものがある。
「あ、はい。ごめんなさい……?」
「分かればいいのよ。ほら、動けるようになったんだから、さっさと行く!」
「いえす、まむ!」
ビシッと敬礼してから出て行くプレイヤー。なんだ、十分元気じゃないの。そう思った瞬間、ぐらりと目の前が揺れる。
いけない、MP枯渇の状態異常が出てる。急いで失敗作のMP回復薬を取り出すと、一気に飲み干す。薬師のプレイヤーが調薬に失敗したものだけど、能力値が低い私には十分な回復量となる。低レベルの私でもそれなりに活躍できる秘密がこれだった。
まあ、ヒーラー一筋でやってきた人たちとは比べ物にならないけれど。
うん、状態異常の方も完治しているようだ。MP枯渇の状態異常は、その名の通りMPが極めて少なくなる――MP総量の一割か、三十のどちらか少ない方を下回った時――と発生するもので、目眩と能力値のランダム低下が主な症状。
魔法が実在する『アイなき世界』では、HPだけでなくMPも生存するために必要な要素だという、ある意味世界観の補完のための代物となっている。
回復するには発生条件となるMPの数値を上回ればよいので、MP回復薬を使うのが一番簡単。ない場合は時間がかかるけど、MPの自然回復に任せるという方法もある。
ちなみに、HPの方はその減少割合に応じて能力値が低下するという状態異常があったりするのだけれど、凶悪過ぎるということで、ベータ版で選択制になり、今ではごく一部の玄人プレイヤーにしか使用されていないという話だ。
それにしても新しい怪我人が全くやってこなくなったわね。もしかして戦況に変化があったのかしら?
いそいそと救護所から外に出た私が目にしたのは、相変わらず続いている激しい戦闘だった。
「メイプルさん、どうしたの?MP回復薬が足りなくなった?」
「ううん、足りなくなったのは怪我人の方よ」
私の姿を見て駆け寄って来た製薬師――薬師の上位職ね。分かり易い――のジュンちゃん――あの失敗作を作りだした張本人でもある――に冗談交じりに現状を伝える。
「そうだったんだ。実は今、他の三つの門での戦闘に勝ったっていう連絡が入ってきたの。それですぐに援軍を送ってくれることになって、一気に攻勢に移ったのよ」
言われてからもう一度戦場に目を向けると、確かにこちらが圧倒的に押しているように見えた。
「でも、普通こういう時には援軍が来るまでは耐えていて、到着と同時に反撃を始めるものなんじゃないの?」
「それが、援軍が来たらその分経験値が減るとかで、急に張り切る人が増えちゃって……。で、ちょっとの怪我くらいでは戦線から離脱しないで戦っているみたい」
「はあ……。なんのかんの言ってもそういうところはやっぱりゲームね」
戦場では次々と、帝国の兵士たちが打ち倒されて消えていく。そして彼らを盾にしてこちらを奇襲しようとしていたPKプレイヤーがその姿をさらすことになり、大した反撃もできないままにやられていた。
背後から忍び寄っての一撃必殺を攻撃の中心に据えているせいか、正面切っての戦いでは劣るようだね。中には最前線攻略プレイヤーと殴り合えるような規格外なPKプレイヤーもいるそうだけれど。
「うーん、結構皆、無理しているわね……」
一見すると、こちらが勢いに乗っていて優勢に見えるけれど、それぞれかなりのダメージを負っている。HPが半分を切っているプレイヤーもちらほら見受けられるし、MPも枯渇の状態異常になる直前、つまりは打ち止め状態になっている人も相当数いる。
たった一つの小さな出来事を切っ掛けにして、戦況がひっくり返されそうな危険性が潜んでいるように思えた。
「前線に出て回復して回った方がいいかな?」
「止めた方がいいよ。私もやろうとしたけど、かえって邪魔になっちゃった」
ジュンちゃんがダメなら、私ではもっと無理だ。
「それじゃあ攻撃魔法は……、大した威力じゃないから効果がないか……。あ!あれはどうかな」
と、思いついた方法をジュンちゃんに説明してみる。
「それ、面白いかも!位置関係も良い具合だし」
二人して顔を突き合わせてにんまりと笑みを浮かべる。男どもにはとても見せられないね。特にジュンちゃんのファンの男の子たちが見たらきっと卒倒してしまうだろう。それほどの悪ーい顔だった。
「それじゃあ、やってみましょうか!」
使用する魔法を選択して、と。今回は範囲が広いからできるだけMPを使う。
ぐんぐんと体の中から力が吸い取られていく。そして準備完了。
「いくよ『閃光』!」
カッ!と眩い光が辺りを包む。
「な、なんだ!?なにが起こった!?」
こちらに背を向けていた味方の皆はちょっと眩しいくらいで済んだはずだけど、逆にこちらを向いていた帝国軍やPKアンド非合法ギルドの人たちはというと、
「ぐあああ!目が、目が見えねえ!」
「ひいぃ!どこだ!?寄るなあ!」
とんでもない騒ぎになっていた。
あれ?半分くらいを無力化できたら御の字だと思っていたんだけど……。
その後は酷いものだった。一方的なこちらの攻撃が始まり、わずか数分で敵軍は壊滅したのだった。
皆、勝てて良かったとホッとしながらもどこか納得がいかない、という顔をしていた。
どうしよう、この空気?
インフォメーションが流れたのはそんな時だった。
〈南門攻防戦限定イベント『胎動する闇ギルド』を見事壊滅しました。おめでとうございます。参加プレイヤーには後日ボーナスが支給されます〉
「な、なんだってーーーーーー!!!?」
これは!?
乗れということね!
このビッグウェーブに!
「やっぱりね!PKの連中が出てきた時点で何かがあるとは思っていたのよ!」
自信満々に言い放ち、芝居がかった大仰な仕草でふぁさぁ、と肩にかかる髪を払う。すると、
「きゃー!お姉さまー!!」
「うおー!女王さまー!!」
と、歓声が上がる。
やった!上手く誤魔化せた!これでプレイヤーの皆から恨まれずにすみそう!
その後、『闇ギルド』と称された連中から付け狙われてしまうことになるのだけれど、この時の私はそんなことを知る由もなかったのだった……。
時折発生するビッグウェーブに乗って、世間の荒波を華麗に乗り越えていく……。
メイプルさんはそんな人です。たぶん(笑)。




