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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
5 帝国との抗戦
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62 東門外の戦い 上

 全く、何故こんなことをしなくてはならないのか……。

 現在私は同僚の神殿騎士数名と共に、古都ナウキの東門外での帝国軍との戦いに――何故か――参加していた。


「新しい冒険者たちがやってくる頃に合わせて、冒険者たちが祭りを企画しているそうなのだが、警備の人間が足りないらしい。魔王の元への潜入は一旦中断してそちらに回ってくれ」


 と、唐突な辞令を受けたのが二週間ほど前のことだった。なんでも、先日神殿騎士見習いになった者からの要請だという。

 最近は、魔王の誕生や何やらでごたついてきている。これを機に優秀な人材を確保しておきたいという思惑もあり、私を含め少なくない数の神殿騎士が送り込まれることになったのだった。

 加えて、『神殿』上部の破戒者どもが怪しい動きを見せているという噂もある。愚か者たちの策を潰し、力を奪うためにはある程度の実力者が現場にいた方が良い、ということもあった。


 祭りの期間中は、乱入してきたPKギルドを返り討ちにしたり、イリーガルギルド所属の犯罪者どもを捕まえて回ったりと、それなりに忙しくも充実した日々を送ることができた。

 プレイヤー、NPCを問わずに向けられる尊敬の視線は、長らく潜入任務を中心にこなしてきた私には面映(おもは)ゆいものではあったが。


 そして今、私は何故かプレイヤーたちに指示を出しながら、帝国軍と相対しているのだった。


「森の中は視界が悪い。必ず数名で組んで行動しろ!向こうは個々の技量も隊としての錬度も低い。焦らず一つ一つ対処していけば我々が負ける道理はない!」

「オス!!」

「今回のデスペナにはイベント再参加不可が付いているから、無理は禁物だ!生き残ることが最重要項目だぞ!」

「はい!!」


 こちらにやって来たのはギルドに入っていない者たちばかりであった。中には本当にパーティーを組んで戦ったことがあるのかと、疑いたくなる者もいたのだが、ここにきてようやく連携が取れるようになってきた。

 それというのも、森――正確にはナウキの林業組合が管理する植林区域――の地形を利用しての急襲といったゲリラ的な攻撃が上手く決まっていることが大きい。


 既に得ていた情報の通り、帝国軍はほとんどが新兵で構成されていた。数の利を生かせない森のような障害物の多い場所に誘い込まれてしまえば、御覧のとおりと言う訳だ。率いている将の質も低いのかもしれないな。


 更に帝国兵たちが身に着けていた帰還のための魔道具も、こちらの士気を上げることに一役買っていた。

 いくらゲームとはいえ、PKを好む者でなければ人を殺したことなどない。よって、下手をすれば平和なリアルでの経験が止めを刺すという行為に歯止めをかけてしまい、逆にやられてしまう可能性すらあった。


 しかし、魔道具の自動発動によって、死なない、言い換えれば、殺してしまうことがないということが分かり、全力を出せる状況になったのだった。

 皮肉な結果だが、これはプレイヤーとNPCの感覚の齟齬からくるものなので、プレイヤーの参謀でもいない限りは帝国側が気付くことはないだろう。


 戦況は常にこちらの優勢で進んでいた。しかし、相手はこの大洞掘のほとんどを支配する巨大帝国だ。何か切り札や奥の手や隠し玉や秘密兵器を持っているかもしれない。

 先ほど言ったように、実はプレイヤーの参謀が既に付いていて、その人物の策にまんまと乗せられているかもしれない。

 油断は禁物なのだ。


「こりゃあ、楽勝だったな!」

「帝国とはいっても俺たちの敵じゃないぜ」


 だが、他のプレイヤーたちはそうは思っていないようだ。もう勝利したかのような台詞を口にしている。これは少し引き締めておく必要があるな。


「君たちはリアルで何かスポーツをしていたことはあるか?」


 手近な場所にいた二人のプレイヤーに尋ねた。


「え?あ、あるけど……?」

「俺もあるよ……」


 私の問いかけの意図が分からなかったからなのか、怪訝そうに答えた。


「それなら、相手の油断を突いて逆転したことや、少しの油断から試合をひっくり返されたという経験がないかね」


 諭すように言うと、二人は「うぐ」と言葉に詰まっていた。該当するのは嫌な思い出の方だったようだ。


「そういうことだ。今更帝国に勝ちを譲ってやりたくはないだろう?少しでいい。緊張感や集中力を維持し続けろ」

「はい!」

「分かりました!」


 二人だけではなく、周囲にいたプレイヤーたちも直立不動で返事をしてきたのだった。




 心配していた反撃もなく、帝国兵たちは帰還用魔道具の自動発動によって着々と送り返されていた。じりじりと進んだ先に見えた敵の本陣には百人ほどしか残っていなかった。


「皆、よく頑張ってくれた。残すはあそこに見える連中だけだ。これまで通り油断することなく、最後まで倒しきろう」


 演説は得意ではないのだが、私の想いは伝わったようだ。揃って力強く頷いていた。

 そして再び敵陣へと目を向けた時、私は信じられない姿を目にした。


 それは白を基調とした外套であったが、随所に宝石を縫い込んで――それも金糸や銀糸で――いたのだが、そのバランスが悪く、煌びやかと言うよりは成金趣味的な下品さを感じさせた。そこまでは良い。あくまでも個人の趣味、感性の問題だ。

 しかし、その外套を身に纏い、ぶくぶくと肥え太ったその人物が頭に頂いていたのは『神殿』の紋章が描かれた高司祭の身分を示すものだった。


「そうか、お前の仕業だったのか……」


 はっきりとしたことは分からないが、この高司祭の男が甘言を弄して皇帝を焚きつけた結果、今回の侵攻と相成った可能性がある。

 そして、私が得てきた魔王に関する情報が使われたかもしれない。どす黒い怒りが腹の底からわき上がってくる。


「皆に最後の作戦を伝える。……まず私が突っ込み敵陣を混乱させる。後はその隙を突いて各個倒していって欲しい」


 怒りの波動が漏れていたのか、全員揃ってコクコクと首を縦に振っていた。

 さて、それでは愚かな破戒者の掃除を始めるとしよう。


「『業火』」


 敵陣の背後に炎の壁を作りだし逃げ道をふさぐ。多少は周囲の木々に燃え移ってしまうかもしれないが、水属性魔法で鎮火できるだろう。

 突如展開した火の壁に驚く敵陣に向かって真っすぐ走る。途中、私に気付いた兵士たちが数名躍りかかってきたが、すれ違いざまに手にした剣で斬り伏せていく。目指すはただ一人、高司祭の男のみだ。

 敵陣の中に入り、襲ってくる者を斬り、邪魔する者を殴りとばしていると理想的な混乱具合となってきた。


「今だ!」

「おおおおおお!!!!」


 突撃の合図を出すと、槍を構えた者を先頭にプレイヤーの一団が大声で叫びながら突進してくる。敵兵たちは揃って恐れ慄いているので、任せてしまっても問題ないだろう。

 私は目的の男の元へと向かって行った。


「な、何奴じゃ!?わしを『神殿』の高司祭と知ってのことか!?」


 驚き過ぎて、神殿騎士の装備にすら気が付いていない。この程度で慌てるとは小物もいいところだ。小物なら小物らしく細々とした企みをしていれば良いものを。

 魔道具で逃げられてはいけないので、私は剣を捨てて拳を握りしめた。


「平和を導くべき『神殿』の司祭が、騒乱に手を貸すなど、恥を知れ!!」


 一足で間を詰めて殴りかかる。極めて大振りな隙の多い動きだが、目の前のメタボにはそれを避ける能力すらなかった。


「めきょぷ!」


 謎な悲鳴を上げながら吹き飛び倒れると、意識を失ったのか、そのまま起き上がってくることはなかった。


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