61 西門外の戦い
西門外での戦いは魔法が――一方的に――乱れ飛ぶド派手なものとなっていた。
戦闘開始早々に帝国の兵たちは死なずに魔道具によって逃げているという情報が伝えられたためだ。
「それじゃあせっかくの機会だし、めったに使うことのない範囲魔法もイッちゃいましょうか!」
と言って、まっ先に水属性最強魔法の『瀑布』を発動させたのは、先日知り合いになった灯さんだ。それに触発されるように『魔法美女ビューティーレイ』のメンバーたち――主にお姉さま方――が次々に強力な魔法を撃ち込み始めたのだった。
ここで、ギルド『魔法美女ビューティーレイ』、略して魔女レイについて少し説明しておこうかな。
ギルド長はレイラさん。熟練の光魔法の使い手で、上級職の光魔道士に就いている。
副ギルド長は基本四属性を自在に操るエレメンタラーの灯さん。ああ見えて実はすごい人なんです。
そして正式な役職はないけれど、実質的にもう一人の副ギルド長と言われているのが光輝さんで、彼女は水・風・雷の三種を使いこなすトライマジシャンだ。
この三人が中心となって魔女レイは作られた。そして彼女たち以外にも、光属性と闇属性のダブルキャスターである超人闇光や、無属性魔法を極めようとしているフォースアタッカー、無明など、魔法職のトッププレイヤーたちが所属している。
さらにラジア大洞掘での未踏破地区発見数一位という実績もあって、世間一般からは攻略ギルドだと勘違いされているのでした。
ちなみに、名前に『魔法』と付いているけれど、物理職のメンバーもいるし、『美女』だけでなく男性プレイヤーも所属しているよ。
「ロヴィンくぅん、ボーっとしてどうしたのぉ?頑張らないと、全員うちのギルドが追い払っちゃうよぉ」
緩ーく軽ーく尋ねてきたのは件のギルド長であるレイラさんだった。こんなゆるふわなお姉さんが最強の一角だなんて……。世の中って不思議だ。
ふと我に返って戦場を見回すと、帝国軍の兵士たちが当初の半分以下になっていた。まあ、その分地面も大穴が開いたり、逆に隆起しているところがあったり、びちゃびちゃになったり、焦げていたりと酷いことになっているけど。
しかも現在進行形で地形の変化は続いていたりする。
「なんだか、今更僕の出る幕なんてないような気がするんですけど……」
「そんなことないよぅ。ロヴィン君が持っているすっごい矢、お姉さん見てみたいなぁ」
コテンと小首を傾げるレイラさん。しかし、その仕草は自分の持っている武器をしっかり理解した上でのものだ。リアルで姉妹のいる僕にはよく分かる。
ここは毅然とした態度で臨まなくてはいけない。
「これです。無限弾という効果が付いていて、撃ってもすぐに手元に返ってくるんですよ!」
「へえ。これがそうなんだぁ。……しかもとってもレアな素材で作られてない?」
「分かっちゃいますか?詳しくは言えないけど、かなり貴重な素材で作られているんです!」
……あざと可愛いお姉さんには勝てませんでした。男って悲しい生き物だよね。
とはいえ、さすがにこの矢は僕の切り札でもあるから、そう易々と使う訳にはいかない。修繕費も洒落にならない金額だし……。
「こっちの矢で良ければ、無限弾の付加効果を見せてあげますよ」
これを機に魔女レイでも無限弾を使う人が出てくれば、僕の儲け――イナッハ商会から開発料として無限弾効果付き武器の売り上げの五パーセントを貰っているのだ――にも繋がる。
取り出したのは僕が自分で作った無限弾矢だった。
「うん。お願ぁい」
そんな僕の思惑を知ってか知らずか、レイラさんはぽわぽわの口調を変えることなくお願いしてきた。
「なになに?何か面白いことをやるの?」
と、やって来たのは灯さんだ。なんという嗅覚の鋭さ!むう、やっぱりこの人も侮れない。
おっと、それはともかく、お披露目といきましょうか。
ラーメン騒動後に新調した弓に、無限弾効果付きの矢をつがえる。一旦頭上に掲げたそれを降ろしながら、弓本体を前に押し出し、同時に弦を引く。
敵兵のさらに奥にいる魔法使い風の人物に狙いを定めて――放つ!
距離があったので、軽く弧を描いた矢は狙い通りにその人物の胸へと突き刺さった。
バタリと仰向けに倒れたと思ったらその姿が消えていく。逃亡用の魔道具が発動したみたいだ。そして僕の手には放たれたはずの矢が握られていた。
「それって別の矢じゃないの?」
灯さんはジト目で僕を見ていた。
「同じ物ですよ。それじゃあ、もう一回やりましょうか?無限弾の効果が付くと、耐久度が減っていくから、それを見れば一目瞭然ですよ」
疑われてついムッとなってしまった。
「それじゃあ、もう一回撃ってもらってもいいかなぁ?今度は私もみておくわねぇ」
……あ!二人にしてやられた!
イナッハ商会で販売している無限弾効果付きの矢は、これよりも一段階ランクが下がるものなのだ。つまり、極秘と言うほどではないけれど、それなりな企業秘密をまんまと確認されてしまったのだった。
「ふふふ。勉強になったでしょう?授業料としてこの矢の情報はもらっておくわねぇ」
「お、女の人って怖い……」
さっきと変わらない笑顔のはずなのに、さっきと違ってとても妖艶なものに見える。
ガクブルしている僕を見て、灯さんが苦笑していた。
「うちのレイラがごめんね、ロヴィン君。それで、いつになったらもう一回撃ってくれるの?」
あなたも一緒になって煽っていたくせに!
ええい、こうなったら自棄だ!
怒りにまかせて弦を引き絞り、再び敵陣の奥の方にいる魔法使い風の格好をした人物を狙い撃つ。
トス。
今回も見事に命中。その人物は倒れて消えていった。
そして僕の手に戻って来た矢を見た二人は、
「確かに耐久度が減っているわねぇ」
「それでもメリットは多そうよ。弓を使える子たちに持たせておくと、保険になるんじゃない」
うむ。それなりに高評価のようだ。
その時、この場にいる全てのプレイヤーにインフォメーションが表示された。
〈西門攻防戦限定イベント『悪魔召喚士』を見事撃退しました。おめでとうございます。参加プレイヤーには後日ボーナスが支給されます〉
「な、なんだってーーーーーー!!!?」
と、僕たちが叫んだのは仕方のないことだと思う。




