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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
29 北西地域の闇
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537 多分ボス、だと思う

 魔王様にステータスを万全に戻された上に異常なバフで強化させられたと思ったら、今度はどこかよく分からない場所に転移させられていた。

 ありのまま以下略並みに何を言っているのか分からない困った状態だったが、そういうより他ないのだから仕方がない。


「ええい!いきなりわらわの支配する空間に入り込んできたかと思えば、主であるわらわを無視するようなその態度!まことに不敬じゃ!」


 あー、困ったことといえば私たち以外の第三者がいたのよね。

 まあ、言い回しや言葉尻から察するに、私たちがルーマ国イベントのラスボス候補筆頭だと予想しているノースフェル大公と王妹の肩書を持つカルミルなる御婦人だろう。


「支配する空間、ねえ……。つまりは真っ当な人間ではないと考えて間違いないってことよね」


 権力者として支配しているという風に取れないことはないけれど、わざわざ『空間』などという単語を使用していることから、ここは恐らくはジュンちゃんの言う通りだと思われる。

 私たちにレッサーヴァンパイアが差し向けられたことから考えると、その格上であるヴァンパイアをさらにイベント用に強化した存在ではないだろうか。


「まあ、仮に正体が何であったとしても、私たちの敵に変わりはなさそうだけど」


 なぜなら、その女のすぐ近くにはラーラさんがあられもない格好でぐったりと横たえられていたからである。

 ……うん?あられもない恰好?


「ちょっ!?ミロク君!今すぐ目を(つむ)って!」

「うええ!?ボスの前で目を瞑れとかそれなんてハードモード!?」

「そのボスの近くに倒れている女の人がかなり際どい格好になってしまっているからよ言わせないでよ恥ずかしい!」


 いやもうホントに恥ずかしいから。

 いくら青少年で異性に興味津々なお年頃とはいえ、それくらいは察して欲しいところだわ。


「近くに倒れている女の人って……、もしかしてそこのメイドさんのこと?」

「……ノースフェル大公家に奉公に上がるように指示されていた訳だからメイドのようなものなのだろうけど、あの下着同然の姿でよく分かったわね。というか見ちゃダメだって言っているでしょうに」

「実はメイドな人を見分けることができる特殊なセンサーを搭載しているとか?」

「何だか色々と蔑まれているような気がするけど、全部お姉さんたちの誤解だから!俺はメイドマニアでもなければ、下着フェチでもないから!」


 後にミロク君の秘書というかサポート役をこなしている魔族の女性が普段からメイド服を着用していることを知ることになり、彼を冷ややかな目で見てしまうことになるのだが、それはまだ先の話だったりする。


「お姉さんたちにどう見えているのかは知らないけど、俺には普通にメイド服を着て倒れているように見えているんだよ」

「ま、まさか、どんな人でもメイドに見えてしまうという恐ろしいフィルター機能を――」

「違うから!お願いだからおかしな性癖がある事にしないで!」


 ふむ。どうやらミロク君には本当にラーラさんの衣装が違って見えているらしい。


「登録したプレイヤー(こちら)の年齢や性別によって見え方が異なるようになっているのかも」


 というのはジュンちゃんの推測だ。

 妙なところに凝り性である『アイなき世界』の運営たちであれば、十二分に考えられる展開だわね。


「ぐぬぬ……。やっぱり運営の仕業なのか!いつか絶対に泣かしちゃる!」


 ミロク君の運営への敵愾心が高まっているもよう。

 まあ、一人だけ魔王なんていう訳の分からない役回りにされてしまえばそうなっても当然といえば当然か。

 ただ、これまでに彼が関わってきたらしい事柄について考えると、既に振り回されて泣く羽目になった運営の人間はそれなりの数にのぼるような気もする。


 あ、そう言えば無視するとは云々とヒステリックに言っていたボスのことをすっかり放置してしまっている気が……。

 どうせ戦うことになるのは間違いないから、問題ないといえば問題ない。が、思い出してしまったので、一応は意識を向けてあげることにしよう。


 そのボスになるのだろう御婦人――十中八九間違いないだろうし、これまで既にそういう扱いをしているから今さらのような気もするが、一応まだ未定ということで――はというと、


「ふ、ふふふ……。悠久の時を生き永らえてきたわらわが、このようにぞんざいな扱いをされる日が来ようとはの」


 何やらいっちゃった目でぶつぶつと呟いていた。

 ああ、これ知ってる。敵役のやつがブチ切れる直前によくやる仕草だわ。

 しかも怒りのあまりなのかそれとももう隠すつもりもなくなったのか、「悠久の時を生き永らえてきた」とか怪しげな台詞を口走ってしまっている。


「敵というか、人外認定は決定的のようね」

「まあ、ここまできて、普通の権力者がラスボスだったとか言われても、それはそれで対応に困ると思うの」


 それは確かに。

 謎解き系のイベントもあるとはいえ、基本的には爽快感を出すためなのか最終的にはバトルで解決するという展開が多いからね。

 私たちとて今さら説得するとか面倒な内容になったとすればげんなりしてしまったことだろう。


「なあ、お姉さんたち。何となくの予感なんだけど、こいつってレイドボスなんじゃないか?」


 ミロク君の言葉に顔を見合わせる私とジュンちゃん。

 言われてみれば悠久の時を生きるなんて、何度倒しても復活してくることの暗示であるようにも思える。


「北部地域に続いて、北西地域(こっち)でもレイドボスの登場イベントに鉢合わせてしまうとは……」


 以前から北西地域を根城にしていたプレイヤーたちは何をやっていたのだと文句の一つも言いたくなってしまう。

 集まったプレイヤーの人数がイベント開始の鍵となっていた北部地域とは違って、こちらはそうした制限はなかったように思う。

 今から考えてみれば『邪神』を動かして『神殿』系のイベントに関係付けたのも、一向にプレイヤーが進出してこないことへの対策だったのではないか。


 楽しみ方人それぞれであるが、攻略組を自称していたのであれば、こういう重要なイベントを発生させるくらいのことはしっかりとやっておいてもらいたいものだ。


「前々から北西地域にいたプレイヤーには良い印象がなかったんだけど、今日のことでマイナスに突入してしまいそうだよ」


 魔族たちの置かれていた状況を改善しようとしていたミロク君にとっては、それに水を差してきたような相手だからそう思うのも無理はないことだ。

 私だって彼らへの印象のストップ安を更新してしまっているくらいだもの。


 そして再びボスのことを放置してしまっていることに気が付いたのは、ブチ切れた彼女が問答無用で攻撃を仕掛けてきてからのことだった。


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