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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
29 北西地域の闇
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536 魔王様はぶっ壊れ(誉め言葉)

「……素材を譲ってくれたことには感謝するけど、これをアイテムに仕立て上げる時間が足りないわ」


 床に置かれた大量の品を前に、ジュンちゃんが頭を抱えている。

 物によってはそのまま使用しても効果を発揮するものがいくつもあったのだが、それでもやはり素材は素材。薬品等々に作り変えることで最も高い効果を発揮することができるようになるのだ。


 そして貴重品を元にアイテムを製作するためには、配合などのレシピに始まり、その人物の器量や技量の高さに加え、相応の時間が必要になってしまうのが常だった。

 この辺りのことは生産職の宿命であるので、決戦開始間際の現状でジュンちゃんが嘆いてしまうのは、ある意味仕方のない部分でもある。


「あれ?お姉さんならこのくらいの材料は使ったことがあると思っていたんだけど?」


 一方のミロク君はキョトンとした顔でそんなことをのたまいだす。


「まあ、確かに一度はどの素材も使って薬品を作ったことはあるかな」

「それなら簡易短縮製造ができるんじゃないの?」


 簡易短縮製造というのは読んで字のごとく、一度製造に成功したアイテムを大幅に時間短縮して作ることができるという機能だ。

 大抵の生産系の技能に搭載されており、大量生産する際に使用されている。


 ……のだが、便利なことにはデメリットが付随するというのが基本でありまして。


「いやいや。簡易短縮製造だと品質が低下しちゃうから」


 いくつかあるデメリットの内、最も大きくて厄介なのがジュンちゃんの言ったこれだ。


 例えば、ある薬師が回復薬を作ったとする。通常の方法であれば十二から二十HPを回復させることができる物が作り上げられるのに対して、簡易短縮製造を利用すると最大値の半分、つまりは十しかHPを回復することができない物しか作ることができなくなってしまうのだ。


 さらに、製作者の技量が低ければ、最悪の場合一つランクが低いアイテムへと置き換わってしまうことすらある。

 要するに、せっかく貴重品を使ったというのに、そこいらで普通に入手できる素材から作ることのできるアイテムになってしまった、という悲劇的な事態すら起きてしまうのだ。


 検証班による報告によれば、一応は簡易短縮製造を使い込んでやれば徐々に品質は上がっていくとされてはいる。

 が、それでも通常製作品の七割程度の物しか作り出すことはできていないらしい。

 検証ご苦労様です。


「それほど大した素材じゃないし、ちょっとくらい品質が下がったところで平気でしょ」


 そこはやはり魔王様というべきなのか、一般人である私たちの苦労や葛藤などは理解してもらえなかったようだ。

 なぜなら「大した素材じゃない」などと言われた素材たちが、現状でプレイヤーが安定的に確保できる最高品ばかりであるのだから。

 それらを使って薬品類を作らされる当事者の彼女ほどではないが、私まで頭痛が痛くなってきそうだわ……。


 しかし、ここで言い争っている余裕はない。


「ジュンちゃん、ここはミロク君の言葉に従いましょう」

「だけど、この素材を無駄にする訳には……」


 ええ、ええ。言いたいことはよく分かりますとも。

 私も幼い頃は両祖父母が近くに住んでいたため、物を大事にするように厳しくしつけられてきましたからね。

 素材だけでなく無駄にすると、もったいないお化けが出てくる気がするのよ。


「それでも今は時間の方が大事よ。釈然としない気持ちは分かるけれど、彼の厚意に甘えさせてもらいましょう」


 いざとなれば無駄にしてしまった素材をイベント後にかき集めて返却することだってできるのだから。

 それよりはここでもたもたと時間を浪費することで、取り返しのつかない展開に流れてしまうことの方が怖い。

 まあ、これまでずっとごちゃごちゃとやっていたから、今さらの話ではあるのだけれど。


「了解。すぐに用意を始める」

「必要数を揃えるのにどれくらいかかりそう?」

「五分もあれば十分」


 それではその間に私はミロク君から貰ったバフの効果について確認しておこうか。


 まずは能力値強化か。これは定番中の定番だけど……、上昇量が半端なかったわ。

 五割アップって何よ。普通は一割も上昇させられれば強力な方で、複数の魔法や薬の効果を重ねることでようやく二割に到達できるかどうか、とか言われていたはずなのだけど?


 しかもご丁寧に上昇効果は全種類の能力値を及んでいるという大盤振る舞いぶり。

 魔法使いの筋力を上げてどうしようというのか……。今なら後衛特化の私でも同レベル帯の魔物くらいならば杖の素殴りで倒すことができるかもしれない数値になっていた。


 他にもバッドステータスへの抵抗値の上昇。

 これは実質無効化するといっても過言ではないくらいだ。


 さらにHPとMPの自動再生に至っては、それぞれ最大値の三パーセントの割合と、固定値十の二重掛けとなっていた。

 私の場合『極炎』のような最強クラスの魔法を使用しても、数秒もあれば回復してしまう壊れ性能っぷりである。


 ここまででも十分すぎるほどお腹いっぱいな状況だが、魔王様らしく?これだけでは終わらなかった。


 バフやデバフはバランスを取るためか効果が高くなればなるほど、成功確率が低かったり効果時間が短かったりするのがお約束のような部分がある。

 特に抵抗されないバフの方は、効果時間が一分以下というものも少なくない。


 このような常識を無視して、私たちにかけられていたのはどれも軒並み一時間以上と、破格だとか高性能だとかをはるかに超えた、バランスブレイカーの代物となり果てていたのだった。


「……もしかして、負けることの方が難しい状況になっていないかしら?」


 つい先ほどまでは、たった二人だけでイベントのラスボスに立ち向かわなくてはいかないかもしれないと、こっそり悲壮な覚悟を固めていたはずなのに……。

 まさしく、「どうしてこうなった!?」と叫びたくなる心境である。


 (らく)ができることと(たの)しいことがイコールではない、と心の底から理解させられたわ。


「お、お待たせ……」


 どことなくジュンちゃんがぐったりしているように見えるのは、急いで準備を行ったためだけではないように思える。

 恐らくはバフの影響で、予想よりもはるかに質の高いアイテムばかりが完成したのだろう。


「よし。それじゃあ、移動しようか」


 どこへ?

 と問う暇もなく景色が歪む。


 気が付けば私たちは見覚えのない空間に立っていた。


「そなたたちは何者じゃ!?一体どこから入り込んだ!?」


 女性のものなのだろう、聞き覚えのない叫び声がキイキイと耳障りに響いていた。


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