54 ふぇすてぃばる、すたーと!
待ちに待ったプレイヤー主催のお祭り当日!
今日は第三期プレイヤーの受け入れ開始当日でもある。リアルでは土曜日なので、まだ午前中であるにもかかわらず、多くの人たちで古都ナウキは賑わっている。
西地区の広場にある通称『初心者の館』の前には簡単なチュートリアルを受けた新規プレイヤーたちが次々と現れていた。
「ようこそ『アイなき世界』へ!まずは、広場の向かいにある冒険者協会で、身分証となる冒険者カードを受け取って下さい」
「食べ歩きをしたい方は東地区にある屋台通りがお勧めです!新規参入者に限り無料となっていますから、冒険者カードの提示を忘れないようにお願いします!
また本日の夕方には、ギルド紹介を行っている南地区の広場で、料理系のギルドが合同でパフォーマンスを行います!こちらでも無料で料理が提供されることになっていますので、どうぞご覧になって行って下さい!」
「各ギルドの紹介と勧誘は南地区並びに北地区の広場でのみ行っています!タイムスケジュールは街のあちこちに置かれている特設掲示板で確認をお願いします!
それ以外の場所で行われている勧誘は全て未許可のギルドとなります。話を聞く場合は自己責任となりますのでご注意ください!」
「分からないことがあれば、私たちのような『お祭り実行委員はっぴ』を着た者にお尋ね下さい!」
お祭り実行委員会から派遣された、案内担当者たちが美声を響かせていた。
「お疲れです」
「お、ありがとー。丁度喉が渇いてきたところだったのよ」
そんな彼女たちに飲み物を渡して回る。
これは『美味しいだけじゃなくて実用性もある』を謳い文句にしている中堅どころの料理系ギルド『エンチャントクッキング』が開発した新作ジュースだ。
声の通りを良くして、聞く人の意識を引き付けやすくなるという効果を付与しているそうだ。
バックスさんいわく、こういう地道な人気取りがフリーで長くプレイするための秘訣なんだそうだ。
これだけギルドの勧誘が激しくなっている中で、僕やバックスさんは未だにどこにも所属していなかったのだ。
「ロヴィン君、だったよね?結局どこのギルドにも入らずに、フリーで行くことにしたの?」
最後にジュースを渡したお姉さんが、探る様な目付きで質問してきた。
黒いローブに黒いとんがり帽子と、これぞ魔法使いというイメージ通りの格好をしている彼女だけれど、良く見てみると、銀糸で細かな模様が描かれていたり、所々に宝石が縫い付けられていたりと、かなり手間もお金もかかっている逸品だった。
つまり、それなりに熟練プレイヤーだと言えそうだ。
「まだ決めかねている、というのが本音ですかね。それに、もう少しするとログインできる時間が短くなってしまいそうなんで」
「何かあるの?」
お姉さん、お姉さん。やたらとリアルの都合を聞くのはマナー違反になりかねませんよ。
「実は、戦争に行かなくちゃいけなくて……」
「戦争!?」
リアルで僕たちが暮らすニポンは、色々あるけれど戦争とは縁遠い国だ。だから予想もしなかった僕の返しにお姉さんは素っ頓狂な声を上げた。
「そう、受験という名の戦争に駆り出されてしまうのです……」
「そっちかい!」
わざとらしく遠い目をした僕の後頭部ですぱーん!といい音がした。
おおう!面白いネタ武器で定評のある『最弱ウェポンメイカー』の売れ筋商品である『いい音はりせん』ではないですか!?
「それをお持ちとは……。お姉さん、やりますね」
「君の方こそ、間合い、ネタ共にナイスなボケだったわ」
ガシッと握手をする僕たちを、周りにいるプレイヤーたちが白い目で見ていた。
ちなみに、主に魔物がその相手ではあるけれど、切った張ったが当たり前の世界なので、リアルでは引かれるようなネタでも受けたりして、微妙に異世界さを感じる瞬間だったりする。
「まあ、私らのギルドは楽しくやるのが中心だから、気が向いたら覗きに来てよ」
「機会があれば、っていう返事しかできませんけど、それでいいのなら」
お姉さんが差し出してきた名刺っぽい手作り感満載のカードを受け取る。
そこには『魔法美女ビューティーレイ』副ギルド長、灯と書かれていた。
「あのう……、魔女レイっていえばガチガチの攻略ギルドじゃないんですか?」
「そんなことないわよ。新しい場所に行くのは好きだから、皆で遊びに行くことはあるけど……。え?なに?世間じゃ私らのギルドってそんな風に思われている訳?」
「ラジア大洞掘での未踏破区画発見数一位がなに言っているんですか……」
「ぴーひゅるー」
そう言うと、灯さんはそっぽを向いて口笛を吹いている真似をし始めた。
ちなみに、この場合の未踏破というのはプレイヤー側から見たものだ。だから、未踏破地区の中にも普通に村や町があったりする。
「吹けないのかよ!」
すぱん!と僕の『いい音はりせん』が唸りを上げる。
ふっふっふ。こんなこともあろうかと?買っておいたのだよ!
「ツッコミもできるだなんて、ロヴィン君、やるわね!」
盛り上がる僕たちとは対照的に、周囲の白い目が冷気を伴い始めたような気がする。
「……そろそろ止めましょうか。無許可のギルド紹介として取り締まられたら洒落にならないし」
「そうですね。僕ら実行委員だから、余計にペナルティが課せられるかもしれないし」
という訳で、お互いに『お知り合い』に登録する。この『お知り合い』というのは、極端にいえば『フレンド』の劣化版だ。
メール機能やログイン状況の確認などの機能を除外した、まさしくお知り合いな関係の人を登録するものといえる。その分条件が緩くて、直接言葉を交わしたことがあり、お互いが承諾すれば登録が可能。
余談だけど『フレンド』の場合は、パーティーを組むなど、一定の期間を一緒に行動することが条件の一つとなっている。
「ご新規の人たちの様子はどうですか?」
「マナーについては、ホームページや掲示板でかなり細かく説明されてきたから、おおむね良好ね。わざと騒ぎを起こす不届き者は今のところいないわ」
「PKを許可している割に、その辺はなぜかきっちりしているんですよね。ここの運営」
「変な話よね。まあ、イラッとくることがなくて楽ではあるけれど。それで、話を戻すけど、初めての人特有のワクワク感は相変わらず健在よ」
灯さんの言葉に、あの頃のことを思い出す。
今でも十二分に楽しんでいるけれど、やっぱり始めたばかりの驚きや感動は特別のものだった。
次から次へと目を輝かせながらやってくる新規プレイヤーたちに、僕たちはかつての自分の姿を重ねて見ていたのだった。




