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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
29 北西地域の闇
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534 魔王様と共闘?

「それで、魔族と魔王様が一体何の御用なのかしら?見ての通りこちらは今、非常に慌ただしい状況なのだけれど?」


 内心の動揺を隠して、努めて冷静な調子で尋ねる。

 冒険者協会やシプドグ侯爵への根回しや情報共有などなどやるべきことは山ほどあり、これ以上漫才に付き合って無駄にしていられる時間がないというのも本当のところだ。


「随分警戒されてしまっているっす」

「誰もいないはずの所にいきなり登場したんだから、用心されて当たり前だろう」


 理由が分かっているのであれば、そんな無茶な登場の仕方はしないでもらいたいところだ。


「だけどミロク様が以前にリュカリュカちゃんたちと会った時には、すぐに打ち解けたってアリィさんが言っていたっすよ?」

「それはリュカリュカちゃんだからの話だろう。俺が言うのもなんだが、あの子はどこかぶっ飛んでいるからな……」


 おや?これはまた聞き覚えのある――直接会ったことはないけれど――有名プレイヤーの名前が飛び出してきたものね。

 ああ、でも『神殿』や『邪神』との一連の事件のことを考えれば、彼らが彼女のことを良く知っているのは別段不思議でも何でもないのか。

 なにせリュカリュカなる人物こそ、魔族とプレイヤーを引き合わせた張本人だとされているもの。


 それにしても魔王をして「ぶっ飛んでいる」と言わしめるとは……。

 ちょっと会ってみたいような気もするけれど、逆に会うのが怖い気もする。


「本当にミロク様が言えた義理じゃないっすね。まあ、あの子が分かっているっていうことについては俺も同感っす。妙に達観しているというか、疑うことなく何でもかんでも受け入れているところがあるっすよねえ」


 うん?それはもしかして単にゲームに慣れていないから、何が起きても「そういうものだ」と思い込んでいるためではないだろうか。

 色々と独自路線な設定のある『アイなき世界』だが、やはり基本的なセオリーというものは存在している。

 そうした知識が薄ければ起きた出来事全てを受け入れていてもおかしくはない。


 むしろ初心者だからこそ突拍子もないことを連発できていた、のかもしれない。


 まあ、彼女本人のことについてはそのくらいにして。

 さて、わざわざ彼女の名前を出したのは、プレイヤーであれば大抵の人なら知っている情報を出して魔族であることを証明し、こちらの警戒を解こうとしたのかもしれない。


 が、面識のない相手のことを引き合いに出されましてもね……。

 いや、そういえばジュンちゃんは北西地域へと移動する前に彼女と出会っていたのだったかな?


「どう?彼らの言っていることは当たっている?」

「さすがに数時間同じ場所にいただけだから何とも言えないわ。しかもその間ずっと一緒にいた訳でもないしね。ただ、先入観なしに色々なことを見ているような気はしたかな」


 ふむ。つまりはこれだけでは魔王様たちを完全に信用することはできないということね。


「えーと、俺たちの用件だが、手伝いが必要であれば手を貸しにきたんだ」


 私たちからの視線が集まったことに気が付いたのか、彼は雑談じみた部下とのやり取りを切り上げていきなり核心を話し出す。


「いきなりそう言われても、理解もできなければ信用もできないわね」

「そりゃそうだ。ぶっちゃけてしまうと邪神とのやり取りの後始末だな。あんたたちもプレイヤー(冒険者)なら邪神のやつが北西地域の『賢人の集い』やこの国のお偉いさんか何かに接触したという話は聞いているだろう?」


 その台詞に何か引っかかるものを感じながらも、時間もないことから頷くことで先を促した。


「そのお偉いさんがどうやらこの件の黒幕っぽいんだよ」


 その際に何か吹き込まれたのか、それとも単なる協力の申し出だったのかは不明だが、邪神との接触によって今回の一件が正式に動き出したと考えているのだろう。


「なるほど。だからあと始末なのね」

「そういうこと。という訳でオレたちの協力が要らないっていうなら、悪いけどその時は勝手に行動させてもらうことになる」


 ふうむ……。

 あくまでこちらがメインで魔王たちが裏方という枠割り分担に徹してくれるのであれば、勝手に動いてもらっても問題はなさそうだが……。


「ありがたく手を貸してもらうことにするわ。御覧の通り、これまでは私たちしかプレイヤー(冒険者)がいなかったから」


 無理に不確定要素を増やす必要性はないだろう。

 私の答えがお気に召したのか、ニヤリと笑う魔王様。そういう表情をすると外見相応の十代後半に見える。


「了解。さしあたっては邪魔が入らないように敵対勢力の包囲だな。自国のことだし、シプドグ侯爵たち新貴族の人らに頑張ってもらうとするかね。ジョナさん、侯爵に伝言を頼む。「至急、武装して王宮の入り口を封鎖しろ」ってな。レッサーヴァンパイアが出たことを告げれば動くはずだ。あ、ダメだった場合はプランBで強制連行な」

「ラジャーっす!」


 そう言って魔族の男性は一瞬で姿を消したのだった。

 ゲームの中だからそれくらいの演出では今さら驚きませんとも。それよりも指示に不穏な単語が紛れていたような気がする方が問題だわ。


 本当に大丈夫なのかしら、この魔王様は?

 今の内にしっかりと見極めておかなくてはいけない。


「NPCたちの犠牲ありきの作戦は勘弁してよ」

「そんなものオレだってごめんだ。安心してくれ。侯爵たち新興貴族のところにはうちの腕利きの部下たちを配置してある。仮に黒幕側と武力衝突になったとしてもきっちり抑え込んでくれるはずだ」


 掲示板等への報告の通りだとするならば、魔族はトップクラスのレベルのプレイヤーと同等かもしくはそれ以上の強さらしいので、イベントで異常は不正がされていない限りはレッサーヴァンパイアどころかヴァンパイアが相手でも余裕で勝利できてしまうだろう。

 つまり、魔王様は誰も捨て石にするつもりはない、と考えても良さそうだ。


 それなら満を持して本題へと斬り込むとしましょうか。先ほどから引っ掛かっている部分をさっぱりさせておかないと、後々で気にかかってしまいそうだもの。


「魔王様。あなた、プレイヤーね?」


 そう告げると、彼は特に驚いた様子も見せずに笑顔で頷く。


「正解。ちなみに外見とほぼ一致する年齢で、リアルニポンでの一般並みには倫理観や道徳観や正義感っていうものを持ち合わせているよ」


 なるほど。それは確かに安心できる要素だといえるわね。


「改めて、プレイヤーのグドラグだ。だけど部下連中の手前ってこともあるから、ミロクと呼んでもらえると助かるよ」


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