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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
29 北西地域の闇
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533 大物登場

 最低限必要なヴァンパイアのスレイブ化を解除するための薬を作る算段はできた。

 しかし、まだそれを作り上げるための時間が必要という難題が残されていた。


 冒険者協会の建物を多くの冒険者が取り囲むようにしていたことや、材料を集めに向かった若者たちにはレッサーヴァンパイアによる襲撃のことを話すように指示しているから、遠からず貴族街へもこのことは伝わることだろう。

 だが、それをあてにするばかりでは時間がかかり過ぎてしまい、敵方に次の一手を打たれてしまう。


「できればシプドグ侯爵に直接状況を伝えて、時間稼ぎのために貴族たちの足止めをしてもらいたいところね」

「でも、それをやっちゃうと、ノースフェル大公家にもレッサーヴァンパイアを返り討ちにしたことがバレてしまうかもよ」

「そこが問題なのよ……」


 大公家の屋敷の何人かは、ラーラさんを送り届けた際に顔を合わせてしまっている。

 さらに言えばシプドグ侯爵に会った時も顔を隠すような真似をしていなかったので、面通しが終わっていることもバレているはずだ。


「だけど途中で襲われることもあり得るから、誰にでも任せられる用件でもないのよね」


 先程戦ったレッサーヴァンパイアの強さから考えると、冒険者協会の職員は論外で、低等級の冒険者であっても手も足も出ずにやられてしまうかもしれない。


「レッサーヴァンパイアと互角に渡り合えるやつなんて、この街には居ないと思うぜ」


 白羽の矢を立てられてはたまらないとばかりに、急いで白旗を上げる元兵士の彼。

 まあ、確かにレッサーヴァンパイアと言えば現在のトップレベルのプレイヤーであっても一人で戦って勝つのは厳しい相手だとされているくらいだ。

 ただでさえワキラを始めルーマ国では冒険者や冒険者協会の力を削ごうとしていたから、高等級で強い冒険者がいなくとも不思議ではない。


 と、納得できることではあるのだが、そうなると使いを出すことも難しくなってしまう訳で。


「分かっていると思うけれど、メイプルさんが自分で行くというのもダメだから」

「いくらなんでも、そんな勝ちの目が全く見えないような勝負に出る気はないわよ」


 未だに私のHPはペナルティの影響を受けて半減したままであり、物陰から石ころを投げつけられたくらいでも死に戻りしてしまうかもしれない。

 こんな状態の時に一人で行動するなど、敵からしてみれば、たっぷりと餌を食べて丸々と太った鴨がこれまた最高級のネギを背負って歩いているようなものだろう。

 美味しく食べられてしまうのは御免です。


「とりあえず、あなたは支部長に現状の説明とノースフェル大公家が黒幕である可能性を伝えてきてもらえるかしら」

「あ、それと薬の材料費の支払いをよろしくと言っておいてね」

「分かった。姐さんたちも無茶だけはするなよ」


 使いっ走りにされて微妙な表情になったものの、彼はこちらを気遣う言葉を残して部屋から出ていったのだった。


「できるのであれば、無茶の一つや二つくらいはするのだけれどね……」


 さすがに無駄死にするだけだと分かり切ってしまっていては、無茶をしようとも思えない。


「手詰まりね」

「ええ。だけどまあ、これまでが上手くいき過ぎていたというのもあったかしらね。私とジュンちゃんの二人しかいない状態で、よくここまで人的被害を出さずにやってこられたものよ」


 怪我はあっても、命を落としたNPCたちはいない。だが、この先はそうはいかないだろう。

 もちろんできる限りは足掻いて見せるつもりではあるが、覚悟だけはしておかなくてはいけないかもしれない。


「どうやらお困りのようっすね!」


 場と状況にそぐわない底抜けに明るい声が響いたのはそんな時だった。


「だ、誰?」

「どこにいるの!?」


 お約束とばかりにキョロキョロと部屋中を見回す私たち。

 いきなり私たち以外いるはずのない人物の声が聞こえて、実は本気で焦っていたのだけれどね。


「あ、すみません。せっかくお約束な行動をしてくれたところで悪いんですけど、うちのやつが図に乗りそうなんで普通でお願いします」


 そんな台詞と共に何もなかった空間から姿を現す男性。

 年の頃は薬の材料の回収に向かってくれた少年少女たちと同じくらい、つまりは十代後半くらいに見えた。

 私からすれば男性というよりは男の子といった方が適当そうだわ。


「ミロク様、配下が気持ちよく仕事ができるようにするのも、上に立つ者の役目だと思うっすよ」


 そしてよく分からない愚痴?っぽいことを言いながら出現する男性その二。

 こちらは壮年から中年にかけてといった具合だろうか。今一年齢がはっきりしないが、少なくとも私より年下ということはなさそうである。


「だって君、悪乗りし出すと止まらなくなるだろうし」

「むむ!言われてみればその通りっす。きっとパニック映画の暴走車両よろしく、どこまでも突っ走っていくっすね!」

「ドヤ顔がムカつく……。くそう、こんな性格のくせにやたらと有能とかどんな嫌がらせだよ」


 突然現れた不審者二人だが、少なくとも私たちの敵ではなさそうだ。

 いや、だって、やろうと思えば姿を消したまま暗殺だってできただろうし、ね。


 それ以前に登場時からの一連の漫才じみたやり取りに、警戒するとか用心するといった気持ちが失せてしまったこともある。

 普段からこの手口であるならば、相当な手練れということになるのかもしれない。


「ちょっと待って、お姉さんたち!なんかとっても腑に落ちない評価をされているような気がする!?主にこいつと同類扱いされている方面で!」

「そうっす!ミロク様と同じなんて心外っすよ。俺はここまで人外の存在になり果ててはいないっす!」

「上司に対してその暴言はあり得なくないか!?」


 どこからどう見ても息があったコンビなのだけど……。

 そしてこのままでは一向に話が進みそうにないことが判明。


「ところで、あなたたちはどこのどなた?」


 グダグダになっていた会話の流れをぶった切って尋ねるジュンちゃん。

 ナイス判断力、ナイス行動力。


「おっと、これは失礼したっす。俺はしがない魔族のジョナサンという者っす。そしてこちらのお方こそ魔族の王にしてして究極無敵なチート野郎こと、魔王ミロク様っす!」

「ぬぐぐ……。身に覚えがあり過ぎてチート野郎を否定できない」


 魔族!?

 その上魔王!?

 ここにきてとんでもない大物が現れたらしい。


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