50 再訪、魔獣の森
ちょっと残酷めの描写があります。ご注意ください。
「あ!いた!ママー!!」
「こけこけ!」
『料理研究会』を始めとしたお料理系ギルドの食材調達依頼を受けて、ボクとテイムモンスターたちは、再び魔獣の森を訪れていた。
久しぶりにママに会えて、ワトとビィも嬉しそうだ。一方、イーノとニーノが少し寂しそうな顔をしている。古都に帰るときにはお母さんに会いに行こうね。
ちなみに今回は、プレイヤーはボク一人だけだ。バックスさんは別の生産ギルドから素材採集の依頼を受けていたので、都合が付かなかったのだ。
それでも、ボクのレベルが十五と魔獣の森に入るための最低限のラインに達していたので、ゴーサインが出たという訳。
ママの巣の近くの地面にはデカファングの毛皮がでろーんと敷かれていて、さらに巨大な二本の牙がずどーんと立っていたのだけれど、グドラク君の張った結界はちゃんと機能しているのか、それらが発見されたという報告はされていない。
そしてなんとびっくり、その毛皮の上では数匹の雛と小さな蛇たちが遊んでいたのだ。
「もしかして、この子たちって?」
「こけ」
ワトとビィの弟妹たちだ!か、かわいい!!
しばらくお待ちください♪
はっ!余りの可愛さに一瞬で時間が過ぎ去ってしまった!?
いけないいけない。本題に入らないと。
「ママ。また、産卵場所から卵をもらっていってもいいかな?」
そう、ボクが受けた依頼はコッカトリスの卵を取ってくることだった。
いくつかの回復薬が入っているだけでマジックボックスはほとんど空っぽなので、いくらでも入れることはできるのだけれど、たくさん持って帰ると産卵場所や結界のことがバレてしまう危険がある。
どの程度確保するか、現在悩み中です。
「こけこけ」
ボクの問いかけにコクコクと頷くママ。許可を頂けたので早速産卵場へれっつらごー。
結界があるので大丈夫だとは思うけど、何かがあったらいけないのでママは雛たちの元に残ってもらった。
「やっぱり何か変、だよね……」
産卵場へと向かう途中、ボクは違和感を覚えていた。しかも嫌な感じのやつ。
そしてボク一人なら勘違いという可能性もあったのだけど、テイムモンスターたちも揃ってその嫌な雰囲気を感じ取っていた。しきりに鼻をひくつかせてみたり、周囲を見回してみたりしている。
これは間違いなく何かがある、何かが起こっている。
グドラク君のお目こぼしなのか、ボクたちは結界を越えることができる。だけど、結界が見えている訳じゃない。うっかり乗り越えてしまわないように結界の外側、つまりはママたちの巣から離れるように慎重に進んでいくことにした。
「ごっごっ!」
しばらく歩くと、ニーノが通せんぼをするようにボク前に立った。
「え?どうしたの?」
戸惑っていると他の子たちもやって来て、行っちゃダメとボクを引き留め始める。
「えっと、もしかしてこの先に結界のラインがあるの?」
尋ねると揃って頷く。
わお!
うちの子たちすごいアンド賢い!
これなら不用意に結界を越えて危険に遭遇、ということを回避できるね。まあ、元々この魔獣の森に住んでいる魔物たちには効かないから、絶対安全ということではないけれど。
それでも、嫌な気配の連中に気付かれないだけでも相当ありがたいのは確かだ。とりあえずはテイムモンスターたちの指示に従って――あれ?――結界の外周に沿って進んでみることにしよう。
進む方角を変えてから五分も経たないうちに異変は訪れた。それまでずっと静かだった森が、急に騒がしくなったのだ。
「誰かが戦っている?」
魔獣の森は周辺に比べて格段に強い魔物が出現する。混み合う古都ナウキ周辺から離れて狩り場を探していた、低レベルのプレイヤーが誤って入り込んでしまうこともある。
冒険者の心得として、そういう場面に出くわした場合は助け合わなくてはいけないことになっている。僕たちは急いでその場へと向かうことにした。
そこで行われていたのは一方的な戦いだった。しかし、ボクが考えていたのと違って、負けていたのは魔物たちの方だった。
円を描くように陣取った五人の男たちの周りに何頭もの魔物たちが取り囲んでいる。一見すると、追い詰められているような状況の中で、男たちは揃って嫌らしい笑みを張りつかせていた。
「オラオラ、どうした!そんなんじゃあ、ガキが死んじまうぞ!」
一人の男が嘲笑うように叫ぶ。ふと見ると、男たちに囲まれるようにして何かが重なっていた。
目を凝らした瞬間、頭の中が燃えるようにカッと熱くなった。テイムモンスターたちが押さえてくれていなければ、間違いなく飛び出して行っていただろう。
「ふー、ふー……!あいつらぁ……!なんて酷いことを!!」
どおりでやられてもやられても魔物たちが向かっていくはずだ。男たちの足元に積み重ねられていたのは、魔物の子どもたちだったのだ!
しかも逃げられないようにかなりのダメージが与えられている。
魔物を狩ること自体には文句は言わない。人や家畜を襲う危険な存在だし、その認識に沿ってボクだってやっている。極論を言えばそういうゲームなのだ、ということになる。
でも、こんなやり方は納得できない。魔物たちの怒りを煽るためなのか、男たちは時折子どもたちを蹴りつけて悲鳴を上げさせていた。
ブチン!
ダメ。もう我慢できない。
他人のプレイを勝手に記録するのはマナー違反だけど、こいつらのやり方は悪質過ぎる!
ボク視点で動画モードをオンにすると、どうやって晒し者にしてやろうかと暗い考えに耽っていた。
「え……?ちょっと待って!?どういうこと!?」
男たちの悪行をしっかり記録してやろうと目を凝らした時、ボクはあることに気付いた。
「プレイヤーじゃ、ない……?」
男たちのマーカーはプレイヤーを示す緑ではなく、NPCを示す青で表示されていたのだ。
ちなみに受諾中のクエストに関連する場合はマーカーの周りが黄色の縁で覆われている。
さらに余談だけど、魔物だけに限らず、敵対関係にある互いに攻撃可能な相手は全て赤色のマーカーで表示される。
「あいつら、NPCなの?」
頭の中で燃え盛っていた炎の一部が消え去った――全部じゃないよ。今でもイライラムカムカしている――気がした。
結局、それからものの一分も経たないうちに、男たちは集まってきた魔物たちを全滅させてしまった。
「ふん。確かに周りの魔物よりは強いが、この程度か」
「こんな魔物に手間取っているんだから、古都の冒険者というのも大したことないな」
「まあ、我々の脅威になるものではないと分かったのだ。十分な収穫だろう」
男たちは口々にそう言うと、倒した魔物たちを放置したまま、森の外へと出て行ってしまった。
――何かが起きている。そんな不気味な予感だけがボクの中にいつまでも残っていた。
子どもの魔物をおとりにした狩りは確立された戦法であり、ルール違反でもマナー違反でもありません。
今回リュカリュカが不愉快に感じたのは、対象のモンスターが動物型だったことが挙げられます。
もしも虫型や巨大ミミズといった魔物であれば、それほど嫌悪感を抱かなかったことでしょう。
主人公を複数にすることによって、様々な立場、様々な考え方がある、ということを描いていくことができればいいな、と考えています。
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