49 テイマーギルド
時間は少しさかのぼり、お祭りの開催決定から一週間ほど、前。
みなみちゃんさんから〈『また時間があるときに連絡をちょうだい』〉というメールを頂いていたボクは、生活魔法を習得したタイミングで会いに行くことにした。
場所はいつものテイマー御用達のお宿『聞き耳のウサギ亭』だ。
「いらっしゃい」
中に入ると従業員のフミカさんに女将さん、料理長のおじさんまでもが笑顔で挨拶してくれた。
そして、イーノたちテイムモンスターはさっそくフミカさんに撫でられに行っている。
「わざわざ来てもらって悪いわね」
「いえいえ。予定より早く生活魔法を習得できたから、時間が余っていたので問題ないですよ」
みなみちゃんさんは食堂の奥まったテーブルに座っていた。テイムモンスターたちがいないのは、専用収納ボックスに入ってもらっているから、かな?
「お!ついにリュカリュカも生活魔法の便利さに気付いたのね。ふふふ。一度使うと病みつきになること間違いなしよ」
「そんなにですか?」
「そんなによ!もう、何度リアルでも使えたらと考えたことか!」
おおう!?みなみちゃんさんが力説していらっしゃる!
これは……、もしかして生活魔法とは名ばかりの堕落魔法なのではないかしら?……ってそれは大袈裟か。
「ところで、どうしてボクは呼び出されたんでしょうか?」
「それなのだけれど……。リュカリュカ、私たちが作るギルドに入ってもらえないかしら?」
「ほえ?ギルド、ですか?」
「そう。知っての通り、私たちテイマーやサモナーは普通のパーティーには敬遠されがちだわ。だからギルド、というより互助組織のようなものを作れないかと思っているの。だから、テイマー専用という訳ではないけれど、テイマー中心のギルドにしていくつもり」
へえ。なんだか良さそう。でも、
「どうしてボクをギルドに?」
最近はバックスさんたちに手伝ってもらえたからそれなりにレベルも上がってきているけれど、それでもボクよりもレベルの高い人、強い人はいくらでもいるのだ。
「ぶっちゃけて言うと、リュカリュカが有名プレイヤーだからよ」
「ええ!?ボク有名なんですか!?」
と、驚いていると、衝撃の事実を教えてくれたみなみちゃんさんは呆れたような顔をしていた。
「あなたは以前からウリボウを連れたプレイヤーとして一部ではそれなりに人気があったのよ。ほら、身に覚えがないとは言わせないわよ」
そういえば、写真を撮らせてくれって囲まれたことがあったっけ。
「それと、これは広めちゃった私たちにも責任があるけれど、ラーメン騒動の元となったことで、ほぼ全てのプレイヤーに知られることになったの。テイムモンスターたちにも色々な装備をさせることができることの発見者だ、という情報と一緒にね」
あー、あの時食べた麦飯カツ丼美味しかったなー。ほとんどイーノとニーノに食べられちゃったんだよね。また食べたいなー。
え?なにをしているのかって?
もちろん現実逃避です。
「そして極め付けはワトちゃんとビィちゃんの融合・分離の情報提供と、コッカトリスの孵化の映像ね。知ってる?あの映像、未だに『アイなき世界』の関連動画としては再生回数一位なのよ」
うそー!?再現したラーメンとかドラゴン型の魔物との戦闘映像とか、他にもたくさんすごい動画はあるでしょうに!?
「とある情報雑誌によると「あんな可愛い生き物と触れ合えるなら私もやってみたい!」っていう若い女性が急上昇中だそうよ。実際、私もリアルで知り合いから色々尋ねられたわ」
わざわざキャピルン(死語)な口調で雑誌の一文を紹介してくれるみなみちゃんさん。ちょっと気持ちわ――コホン!とってもお茶目さんだ。
「まあ、そういう訳ですっかり有名になっているあなたに、ギルドに入ってもらいたいのよ」
「理由は分かりましたけど、ボクが入ったことで何か得することがあるんですか?」
「もちろんあるわよ。有名プレイヤーが所属しているということで、加入希望者が多くなる。その分管理は大変になるけれど、人が多い分、ギルドの実績を積みやすくなるわね。さらに他のギルドから一目置かれることにもなる。要するに、所属している人がバカにされなくなるの」
ああ、自分が所属しているところよりも規模が小さいっていうだけの理由で、他人のことを蔑むおバカさんはどこにでもいますからね。
そうなるとPKプレイヤーへの牽制にもなるのかな。
「リュカリュカ個人の利点もあるわよ」
考え込んでいると、みなみちゃんさんが続ける。
「まず、所属ギルドを決めてしまえば、余計な勧誘を受けなくても済むようになる」
「え?勧誘を受けたことなんてありませんよ」
「それは私たちが立ちあげるギルドに入ることが決まっていると勘違いされているからよ。まあ、そう勘違いするように私たちが仕向けていた、という部分もあるけれどね」
あれ?これってもしかしなくても、外堀を埋められている状態?
「だから、もうしばらくすれば、あなたがフリーであることがバレる。そうなると、さっき言った理由からたくさんのギルドから勧誘を受けることになるでしょうね」
そう言って見せてくれたのは、ある有名プレイヤーがいくつものギルドから勧誘されている映像だった。
「彼はこちらでの知り合いなのだけれど、リアルでのストーカーや押し売りに負けないくらい鬱陶しくて恐ろしいと言っていたわ」
映像は勧誘というよりも、集られているとか揉みくちゃにされているとか言った方が納得できるものだった。確かにこんな目にはあいたくないよね。
しかもボクにはイーノたちテイムモンスターもいる。もしも人ごみに紛れてあの子たちが連れ攫われたり、怪我をさせられたりしたらと考えると背筋が寒くなってくる。
「どこのギルドに所属するにしても、そういった事態を避けるために早めに検討しておく方が得策よ。ということで、PRに戻るわね。……これが一番重要な点なのだけれど、私たちのギルドに入るなら……」
真剣な顔でこちらを見つめてくみなみちゃんさん。
「は、入るなら……?」
思わず緊張でゴキュリと唾を飲み込む。
「モフモフ堪能し放題よ!!」
「入ります!よろしくお願いします!」
背後で「堕ちたー!?」と誰かが叫んでいたようだけど、気にしない。
モフモフ堪能し放題……。嗚呼、なんて素晴らしい響きなんだろう。
その日、ボクはみなみちゃんさんが中心となって新しく作られるテイマーギルドに所属することが決まった。
今回で連載50話でした。
いつも読んで頂きありがとうございます。
まだまだ『アイなき世界』のお話は続きますので、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。




