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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
4 またまた開催!プレイヤーイベント!
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46 お声がかかった理由は?

新キャラでーす。

 バラバラになった紙の束をトントンと机に当てて揃える。それらの角を細い紐で結んでからファイルへと閉じていく。

 報告によればミソやショウユの量産作業は順調に進んでいるようだ。

 それにしても回復魔法の一種で育成を早める『促進』の魔法で、発酵時間も短縮できるなんて……。ファンタジー恐るべし!よね。


「ふう。やっと終わった……」


 リアルではやったことのない事務作業と書類整理を終えてホッと一つ息を吐く。

 将来の役に立つからと言いくるめられた数カ月前の自分にチョップしてやりたくなってくる。


 一度嫌気がさして、このデジタル全盛期の時代に書類でやり取りをしている所なんてあるのか、と言ったら予想以上の数の人たちから「ある」と返ってきたのには驚いたけれど。

 完全デジタル化が進んでいるのは一部の大企業のみらしい。しかもそういうところでも、バックアップのために紙媒体による保管は行われているのだそうだ。


 おっと、そういえば自己紹介がまだだったね。

 ウチは多恵(たえ)。料理人の上位職の一級料理人をやってる。あ、上位職といっても戦闘経験はほとんどないから。


 この『アイなき世界』の場合、いわゆる生産職は職業に応じた特定の技能を使用することで、経験値を獲得することができるの。料理人なら料理技能、薬師なら調薬技能という具合。

 まあ、魔物を倒すことに比べたら効率は悪いのだけれど、技能のレベルアップも同時に行えるから、それほど苦じゃない。というか、それを面倒だと感じる人には生産職は務まらないかな。


 ところで、そんな料理人なウチがどうして書類と格闘していたのかというと、


「ギルマス、そろそろお客さんが来る時間ですよ」


 コンコンコンとノックしたのはいいけれど、こちらからの返事を待たずに部屋に入って来ちゃったこの女性は、我らが『料理研究会』の副ギルド長のマイ・(たけ)だった。名前の通りキノコ料理をこよなく愛するステキなお姉さま。

 そしてはなはだ不本意なことながら、ウチがこのギルドのギルマス、つまりギルド長――またはギルドマスター――なのだった。


「もうそんな時間なの!?ああ、今日も料理できてない……」

「それなら私だって同じよ。はあ……。キノコたっぷりのお味噌汁が飲みたいわ」

「言わないでよ!ウチまで欲しくなってくるじゃない!」


 ぶう、とむくれるウチにマイっちは苦笑していた。


「はいはい、ごめんなさいね。お詫びに今日の仕事はさっき渡した分だけにしておいてあげるから」

「本当!?料理してもいいの!?」

「お客さんとの話し合いが終わってからだけどね」


 厄介事の予感がしていたから乗り気じゃなかったのだけど、これで少しはやる気が出てきたかも。


「ギルマスー、サブマスー。お客さんが来られましたよー」

「分かったわ。私たちもすぐに行くから、第一応接室に案内しておいて」


 丁度いいタイミングで来客の知らせが届いた。はてさて、一体どんなお話なのやら。




 応接室には四人の男性がいた。そのうち二人は初対面ではないけれど、一度会って挨拶をしたことがあるくらいかな、程度にしか覚えがなかったのだけれど、残り二人はほぼ毎日のように顔を合わせている人たちだった。


「どうしてあんたたちまでいるの?」


 半眼でその二人、隣に建つ『美味倶楽部』のギルド長の海岡(うみおか)と副ギルド長の山原(やまはら)を見ると、一人はにこやかな顔を、もう一人は憮然とした顔をしていた。


 世間ではウチら『料理研究会』と、あちらの『美味倶楽部』とを合わせて、二大美食ギルドなんて言っているけど、そのスタンスには結構違いがある。

 ウチらは発見した食材やその調理法を基本的に公開している。そうすることで『アイなき世界』全体の食文化が向上して、リアルでは食べられないオリジナルな料理などを食べる機会が増えると考えているからだ。


 対して『美味倶楽部』はそれらを隠す傾向にある。海岡いわく「それを食すに相応しい舌を持つ者だけが、美味なるものを口にできるのです」なのだそうだ。

 プレイヤー、NPCを問わず金持ちのスポンサーが多数バックについているという噂はかなり信憑性が高いとウチは見ている。


 ラーメン騒動の時には運良くこちらが主導権を握ることができたので、色々と情報を公開することができたけれど、少しでも歯車がズレていたら、ラーメンだけじゃなくミソやショウユの情報まで秘匿されることになったかもしれない。

 水面下ではギリギリの攻防が繰り広げられていたのだよ。


「そちらの二人から我々の方にも同様の話がきているのだ」


 不機嫌を隠そうともしない山原の答えに振り返ると、マイっちがこくんと首を縦に振った。


「ええ。それなら一緒に話を聞いた方が時間の短縮になると思って二人も呼んでおいたのよ」

「お心遣い、感謝しますよ」


 海岡は相変わらずニコニコといい笑顔のままだったけど、逆に胡散臭いことこの上ないわ。

 それはともかく、ウチらだけじゃなく『美味倶楽部』にまで同時に声をかけたということは、またリアルの料理の再現依頼か何かなのかしらん?


「本日はわざわざ時間を取ってもらってありがとうございます。僕はロヴィン、こちらはバックスと言います。皆さんとはラーメンの完成お披露目会の時に一度だけご挨拶させてもらいました」


 これはこれはご丁寧にどうも。

 ……ん?ということは、


「ああ!食材を探してくれたプレイヤーさんだったの。あの時はウチらの無理をきいてくれてありがとうね」


 お陰で納得のいく良いものができたと自負している。この点だけは『美味倶楽部』も同じなはずだ。だからこそ、こうして話を聞きに来たのだろうし。

 まあ、その分お高くなったり入手が困難なので、現在普及しているラーメンは入手し易い食材で作られていて、多少味は落ちることになったのだけど。


「それで、話というのはなに?」


 こちらの顔と名前は分かっているようなので、自己紹介は省略して尋ねると、さっそくロヴィン君が話を始めた。

 そしてその内容は予感していた通り厄介で面倒なものだった。


「ギルド勧誘で街の治安悪化が起こらないように見回りをしてくれ、ねえ」

「早い話が、プレイヤーが起こす不始末はプレイヤーで片を付けろ、ということだ」


 お、バックスさんだっけ、ぶっちゃけたねえ。隣でロヴィン君が苦笑いをしているわ。


「一つ聞きたいのだけど、どうしてウチらにその話を?自慢じゃないけれど、生産職だから戦闘経験値は低い。いざという時には役に立たないかもしれない」

「理由はいくつかあります。大規模で人数が多いこと。攻略中心じゃないから勧誘合戦に参加していないこと。色々な方面に顔が利くこと」


 おお!確かに言われて見るとその通りだね。


「でも、一番はラーメン騒動の時に知り合いが多くできたから、ですかね」


 はい?

 ……ええと、つまりは顔見知りが何人もいるから、どうせならギルドごと手伝ってもらおうってこと……?


「……ぷっ!ふふふ……あははははは!そ、そんな理由!?そんな単純な理由なの!?」


 横目で見てみると、マイっちも口元に手を当てて上品に笑っている。

 そして海岡はいつも通りのニヤケ面で、ただ一人山原だけが意味が分からないと困惑しているようだった。こういうのはノリなんだけど、合理主義者みたいだし仕方がないか。


「その話乗る、ううん。ウチらにも一枚かませて」

「あ、ありがとうございます!」


 がばっと頭を下げるロヴィン君。


「なんのなんの。ギルドの方針としておく方がメンバーの皆も動き易いだろうし」


 特にメンバーの行動に制限をかけてはいないけれど、今回は逆恨みを受ける可能性もありそうだから、個人ではなくギルドとして動いているとアピールしておく方が安全そうだし。


「で、『美味倶楽部』さんはどうするの?」

「勿論手伝わさせて頂きますよ。それなりの規模のギルドになら伝手がありますので、あらかじめ騒ぎを起こさないように釘をさしておくこともできます。なにより、NPCとの関係悪化は避けたいですから」


 そんな訳で『美味倶楽部』も参加することになった。


『料理研究会』の多恵とマイは板前からそれぞれに文字を拝借しました。

『美味倶楽部』の二人は……。バレバレだと思いますが、あの作品の、あの人たちの名前を入れ替えました。

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