44 図書館でお勉強
バックスさんとロヴィン君の二人と狩りをした翌日、ボクは古都ナウキの大図書館へと来ていた。
何のためにかって?もちろん、生活魔法を習得するためだ。
各属性の魔法や回復魔法に強化魔法などと同じように、生活魔法も習得するためには、一定時間それについて書かれている本を読んだり、誰かに教わったりする必要があるんだよね。
そんな訳でこれからは遠出をすることもあるだろうし、今の内に便利な生活魔法を覚えてしまおうと、図書館で関連する本を読み漁っているのだ。
ちなみに、テイムモンスターたちは窓際の席に陣取ったボクの足元にできた日だまりで、のんびりとお昼寝をしていた。
さて、生活魔法の特徴としては、まず使用するMP量が少ない、ということが挙げられるみたいだ。
だから固定パーティーを組んでいる人たちの場合、バックスさんのような戦闘ではほとんどMPを使うことがない純粋なパワーファイターのプレイヤーが習得を担当することが多いそうだ。
次に、火水風土光闇の各属性魔法の特性を持っているのに、独立した別系統の魔法として扱われている、という不思議な特徴もある。
生活魔法に分類されているものを紹介していくと、焚き火などを起こすための『着火』に、昨日バックスさんが火を消すのに使った『湧水』はそのまま飲用にも使える水を発生させるものだ。
そして、匂いを消し去るというそのまんまな『消臭』に、魔力による変質を防いだり、色々な汚物を処分したりできる『浄化』。ダンジョン探索には必須の『光源』とか、『ライトクラウド』によって常に明るい地下世界ならではの『暗幕』なんていうものもあるね。
以上、『着火』『湧水』『消臭』『浄化』『光源』『暗幕』の六種類が生活魔法として扱われている。
なので、火と光、闇の属性魔法を使えないボクでも生活魔法を習得すれば、『着火』『光源』『暗幕』の三つを使えるようになっちゃうのだ。
あ、そうそう、伝え忘れていたけれどここ数日の間にボクは水属性魔法を習得していたのです!
ふっふっふー。
頑張りました!やったね!
おっと、話がそれちゃった。
えっと、生活魔法の特徴その三。見た目が地味。
例えば『着火』は火を起こすだけで、『湧水』は水を発生させるだけ。うん、間違いなく地味だね。便利なんだけど、見た目で損している感じ。
実際、何もないところで火を起こそうとしたらとっても大変だ。それはリアルでも『アイなき世界』でも変わらない。
だから、結構長い間知っている人は使っている便利なお役立ち魔法技能という立ち位置だった。
ところが、検証チームによる調査の結果、使い方次第では戦闘にも活用できることが分かり、ちょっとした生活魔法ブームになっている。
図書館には生活魔法関連の本が一気に増えて、NPCの生活魔法塾には連日大勢のプレイヤーが押し寄せていた。今もボクと同じように、数人のプレイヤーが生活魔法の本を読んでいた。
「だああああ!!どうしてゲームの中でまで本を読まなくちゃいけないんだ!?やってられるか!!」
ついでに、こんな風に耐えきれなくなって叫び出す人も、それほど珍しいものじゃなくなっていた。同じプレイヤーとしては恥ずかしい限りだけれど。
「あああああ!面倒くせええ!!」
うるさいなあ……。図書館では静かにしようって習わなかったのかな?
見てみると、いかにもな脳筋、もとい戦士職な人だった。癇癪をおこすのは勝手だけど、他人の迷惑にならないようにして欲しいよね。
周りの人たちも鬱陶しそうに顔をしかめていた。
「んあ!?」
あ、目が合っちゃった……。
当然トキメキもしなければ、甘酸っぱい気持ちにもならない。
でも、心臓がドキンと跳ねたかな。主に緊張とか恐怖とかで。
はあ……。どうしてこういう人たちって無駄に周囲を威圧するんだろう?
か弱いオトメなボクとしては怖くて仕方がないよ。
「ああん!?なんだコラ!文句でもあるのか!」
うわ!寄って来た!?呼んでもいないのに!もしかしてこの人、Gの仲間なのかな。
嫌だよね、G。これから先ずっとボクの前に現れないで欲しいって本気で思うよ。そんなことを考えていると、寄ってくる人の頭に触角のようなものが見える――そんな気がしただけです――から不思議。
「おう、コラ、ガキ!何か文句があるのかって聞いてるんだよ!」
違うよ。あなたがやっていることは世間一般で言うところの脅しだよ。なんて言えるはずもなく、か弱いボクは
「えっと、うるさいです。図書館の中では静かにして下さい」
としか口にすることができなかった。
はい、実はこの人、レベルが三でした。何かの技能を使った訳じゃないよ。どうやらレベルの表示をデフォルトのオンにしたままだったみたい。つまりは初心者だ。
第三陣はまだ解禁されていないはずだから、ボクと同じ第二陣のプレイヤーということになる。キャラメイクをしてゲームを始めたけれど、リアルの都合かなにかでずっとプレイできていなかった、というところかな。
「なめてんのか!」
あなたなんてなめないよ、ばっちいから。
それにしても、文句があるのかって聞いてくるから答えたのにキレられたとか、理不尽過ぎるよね。
「ふぎゅ?」
足元で寝ていたイーノたちも、余りのうるささに目を覚ましたみたい。
ムカ。
よくもうちの子たちのお昼寝タイムを邪魔しやがりましたね。おにょれ、どうしてくれよう。
「はい。そこまでです。これ以上騒ぐなら図書館への出入りを禁止しますよ!」
暗黒面に落ちそうになったボクを助けてくれたのは、司書のお姉さんの凛とした声だった。
「関係ないやつが出しゃばってくるな!」
「私はこの図書館の司書です。関係なくはありませんよ。今のは警告です。今すぐ態度を改めるのであれば、今回に限り反省文三枚で許してあげます」
お姉さん、お姉さん。その言い方、煽ってない?
「ふざけんじゃねえ!」
あ、完全にキレちゃったみたい。アイテムボックスから大剣――ただしゲーム開始当初の初心者用のもの――を取り出した。それを見たお姉さんの目がすうっと細められていく。
「警告は無視。敵対行動に入ったと認定します。これより安全確保のため司書流捕縛術によって身柄を確保します」
「司書流捕縛術ってなに!?」
ボクだけじゃなくて、周りの人たちも一斉に突っ込んでいた。
そんななか彼我の力量差も分からない――ちょっとカッコよく言ってみた――大剣使いの男は「ウオオオオ!!」と叫びながらお姉さんに突っ込んでいく。
だけどその剣が振られることはなかった。音もなく近寄ったお姉さんが、あっという間に男を縛りあげてしまったから。
「はっはっは!少々お痛が過ぎたようだな!しっかり反省してもらうぞ!」
ボクたちが呆気に取られていると、今度はマッチョなお兄さんたちが現れて、大剣使いをグルグル巻きにしていく。
あ、お姉さんと似たような服を着ている。つまりはこのお兄さんたちも司書さん?
そしてお騒がせ男はミノムシのような格好にさせられてお兄さんたちに担がれて行ってしまった。口元も縛られていたので「むぐー!むぐーー!!」というくぐもった声を出しながら。
自業自得だけど。なんだか哀れだったので一応、合掌。
「皆さんもルールとマナーを守って図書館を使用して下さいね」
そして残ったお姉さんがこう言うと、ボクたち周りにいたプレイヤーは皆揃って、
「イエス!マム!」
と直立不動で返事をしたのでしたとさ。
こういう便利系魔法って好きなんですよね。




