42 それぞれのこれから
クエストの報酬と素材の売却でもらえたお金はそれなりの金額になった。普通なら武器や防具を買うための資金にするのだろうけど、オレの場合は今のところ必要ない。
だからある程度の金額を残して、回復薬や解毒薬等の各種状態異常回復アイテムを買いこむことにした。
もちろんオレが使うためではなく、魔王城に常備しておくためのものだ。魔族と言っても怪我をしたりはするからな。
調薬技能や錬金技能を持っている者たちもいるけれど、こういう物はあって困るものじゃないし。
まあ、ちょっと大量に買い過ぎて、道具屋のお姉さんに驚かれてしまったけれど。
そしてなぜか道具屋の店主らしきおっちゃんには「回復薬はまとめ買いせずに、こまめに補充しないとダメだぞ」と説教されてしまった。
「『掌握』」
そんな感じで街にやって来たついでのお買い物――アリィとのデートとはとてもじゃないけど言える雰囲気じゃなかった……――を終えて、二大美食ギルドとのある場所――なんと二つのギルドは並んで建っていた――へと辿り着くと、早速空間魔法を用いて内部の様子を探り始めたのだった。
「どちらのギルドの建物もほぼ同じ造りだな」
地上三階、地下一階の計四階で、一階には受付とその奥に調理用のスペースがいくつもある。
大量の食材の出し入れがしやすいようにか、倉庫に繋がる裏口はそれなりに大きく作られているようで、さらにその倉庫の一角から地下の保冷庫へと繋がっていた。
一方、二階以上はというと、新作料理を発表する場なのか、広い部屋が一つと、いくつかの応接用の小部屋が並んでいた。
そして三階はギルド幹部たちの私室と、ギルド長、副ギルド長の執務室があった。
「それぞれのギルド長の部屋に、ミソとショウユについて書いた手紙と、麦麹を放り込んでおけばいいかな」
ちなみに手紙に書いたのは、ロピア大洞掘にあるホルリア近辺で大豆が作られている、という情報だけだ。規模の大きいギルドなので、それだけ分かれば後は自分たちで何とかするだろう。
あ、後かんすいの作り方な。
「もう一方のギルドにも、同様の手紙を送ったことを付けたしておいた方がいいのではありませんか?」
「それもそうだな」
今はラーメン作りで協力し合っているけれど、元々がどうかは分からない。互いに相手を出し抜く機会だと、利用されるのも嫌だからな。
アリィに内容をもう一度確認してもらってから、『転移』の魔法で手紙と麦麹一掴みをそれぞれのギルドへと転送した。
「いやあ、空間魔法って本当に便利だな」
「それはマスターが特別だからです。空間魔法の取得者でも、そこまで使いこなせる者は他にはいませんよ」
心底呆れかえったように言われても困るんですけど……。
「それと手紙の名前、『謎の料理人えーっくす!』は正直に言ってないと思います」
「今更ダメ出し!?さっき確認した時には何も言わなかったじゃないか!?」
「衝撃が強過ぎて、突っ込む気力も起こりませんでした」
「酷くない!?段々とオレの扱いが酷くなってない!?」
「マスターの気のせいでしょう。ほら、、大きな声を出すから周りの人に迷惑なっていますよ」
「あ、ごめんなさい……。じゃなくてね!?」
驚いて歩みを止めた人たちに頭を下げていると、アリィはすたすたと転移門の方へと向かっていく。
「はいはい。それでは帰りましょう」
「お願いだから話を聞いて!」
急いで追いかけるオレ。これじゃあどっちが主人だか分からない。
でも、その背中がどことなく楽しそうに見えたから、まあ、いいかな。
その日、イグルポックの町では全住民総出での焼肉パーティーが開かれることとなった。
ただし、ほとんどの住民が食べ過ぎで、しばらくは質素な食生活になったという。
そのため、収穫が始まるまでに予定していたよりも食料が余る、というオチまで付いたのだった。
と、紆余曲折を経て、イグルポックは魔族たちが集う町となり、急激に栄えていくことになる。
そしてオレは彼らの王として忙しく動き回ることになるのだった。
あれ?これって建国シミュレーション系のゲームだったっけ?
……あれ?
「つまり、最近騒がれている新しい調味料の情報は魔王がもたらしたものだということか?」
「はい。魔族たちはミソやショウユというものを普段から使っています。そして、魔王が世界の各地へと飛び回っていたという魔族たちの証言もあります。『謎の料理人えーっくす!』なる人物は、まず間違いなく魔王本人でしょう」
その代わりに得たのが大量の肉というのが何とも……。
うぷ……。思い出したら胸やけがしてきた。
「やつの目的は何だ?」
「当面は魔族たちの生活の改善でしょうか。イグルポックの町は急激に作り変えられていて、町の周囲も耕作地や放牧地等の整備が進んでいます」
嫌がらせ程度に足を引っ張ることはできるが、潜入している身としてはそれにも限度がある。イグルポックの発展を止めることはできない。
「すぐに他の大洞掘へと攻め入るようなことはない、か。しかし、そうなるとやつらが力を蓄えた後が問題だな」
思案しているのか、通信機を向こうから唸り声が聞こえる。
力を蓄え、国力を高めたところで、一気に外部への侵略を開始する、という展開を思い浮かべているのだろう。
それは決してあり得ない話ではないが、あの魔王が果たしてそこまで深く考えているだろうか?
自分を慕って集まってきた者たちを幸せにする。それしか頭にないのではないだろうか。
だとすれば、本当に危険なのは魔王の周囲にいる者たちで、魔王を意のままに操ろうとする者たちではないか。
「現状ではどう転ぶか分かりませんが、対話するための扉の確保だけはしておいて下さい」
「話し合いへと持ち込めるのか?」
できなければ、力でぶつかり合うことにでもなってしまえば世界は滅ぶ。
「……やってみせます」
一瞬の後、私はしっかりと言い放った。世界の命運を背負っているなどと自惚れるつもりはない。
しかし、それでも前言を翻して逃げ出したくなるほどの重圧を感じる。
「補佐する者が必要か?」
「いえ。潜む者が増えれば、勘付かれる可能性が高くなりますので」
破戒者たちは自滅願望でもあるのかと疑いたくなるほど世界が見えていないからな。敵地のど真ん中で派閥争いに巻き込まれるなど、想像もしたくない。
「分かった。こちらはできる限り上の連中を抑えておく。吉報を期待する」
切れた通信機をアイテムボックスへと片付けて立ち上がる。
改めて『感知』で周囲を探ってみたが、こちらを伺う者はいない。
目指すは魔王の側近だ。そのためには有用性を示していく必要がある。
さて、これからは忙しくなりそうだ。
ふう……。
なんとか無事に三章書き終えることができました。
次回は閑話です。なんとあの秘密が明らかになる!?




