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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
3 魔王軍結成!?
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34 『ワショク』と『マスター』

「ふおおおおおお!!!!」


 出された食事を前にして、オレはひたすら感動していた。


 いきなり喧嘩をふっかけてきたミスターサンシター――あ、そういえば名前を聞いていなかった。……まあ、問題ないか――を返り討ちにした後、アリィさんから「勝利記念も兼ねて食事の用意をさせて下さい」と強引に頼み込まれてしまった。


 昨日までは皆の生活の様子が見たいと屋台などで買い食いして済ませていたのだけれど、そう言われてしまっては断ることもできず、一体どんな料理が出てくるのか内心では戦々恐々としていた。

 しかし、用意された食事を見た瞬間、そんなものはどこかに吹っ飛んで行ってしまった。


 なぜなら食卓には、


「白いご飯にお味噌汁!焼き魚に、冷や奴!?」


 他にも納豆やお漬物の数々と、そこには紛れもない和食が並べられていた。


「先ほどグドラク様が「納豆」と声に出されていたので、用意させて頂きました」


 なんとビックリ、ツキの魔族の人たちはおめでたい日には和食を食べる習慣があったのだ!

 それ以外でもミソやショウユといった調味料は普段から使っていたそうだ。

 どうりで屋台の串焼きが美味しかった訳だ。


「アリィさん!」

「は、はい!?」


 思わず彼女の両手をガシッと握りしめてしまった。

 いつも冷静なアリィさんが驚いて目を白黒させている様子は新鮮で可愛かった。


「ありがとう!本当にありがとう!」


 心の底から思いが伝わるようにと、感謝の言葉を告げる。すると二コリと花が咲いたような可憐な笑顔でこう言った。


「喜んでいただけて幸いです。調理した者たちも励みになることでしょう。さあ、冷めないうちにどうぞお召し上がりになって下さい」


 そしてオレは、この『アイなき世界』では数週間ぶりに和食を堪能したのだった。




「はあー、美味しかった。余は満足じゃ……」


 満腹になったお腹をさすりながら余韻に浸る。キャラが崩壊しているようだが、気にしちゃいけない。

 そんなだらけきったオレに「どうぞ」とお茶が差し出される。


「緑茶まであるのか」

「はい。「せっかくの『ワショク』なのに紅茶では画竜点睛に欠ける」そうです」

「それは誰かの言葉?」

「私たちに『ワショク』を伝えたとされる、『流れ者のじょにー』が弟子たちに語った言葉だそうです」


 ……怪しい。でも許す!ツキの魔族たちに和食を伝えてくれてありがとう、じょにーさん!


 ちなみに米やお茶の栽培方法にミソやショウユの作り方を教えたのは彼の同行者だったらしいのだが、そちらは名前が伝わっていないという。


「じょにーよりも位が上の人物だった、とも言われていますが、はっきりしたことは伝わっていませんね」

「ふうん。まあ、何はともあれ、名前の分からないその人にも感謝だな!」


 お陰で美味しいご飯が食べられました。


「それでは、明日以降もお食事の準備をさせて頂くようにしても構わないでしょうか?」


 それはありがたいことなんだけれど、ログインできない日もあるだろうし、買い食いしたい日もありそう。


「食事を作ってもらうのに、どのくらいの時間がかかるのかな?」

「料理の内容にもよりますが、おおむね一時間から二時間程度かと」

「それじゃあ、食事はオレからお願いするようにさせてもらうよ。待機してくれている料理人たちには申し訳ないけれど、所用でこちらに来られない日があるかもしれないし、毎食作ってもらうとなると無駄になることがあるだろうし」


 プレイヤーであるオレには当然リアルでの生活もある。

 廃人な引きこもり生活を送ってみたいという願望はなきにしもあらずだけれど、チート盛りだくさんのこの状態ではすぐに飽きてしまいそうだし、今くらいのペースで丁度良いのかもしれない。


 余談だけど、プレイヤーがリアルで過ごしている時間について、こちらの住人たちはそれぞれの解釈をしている。

 例えばアリィさんたち魔族の人々は、各地で魔王としての作業をしていると思っているし、冒険者協会の人たちは、休息を取ったり、次の冒険の準備をしていると思っている。


「こちらのことはお気になさらずに。グドラク様にはきっと成さねばならないことも多くあるでしょうから」


 こんな感じでね。

 ……しかし、魔王として成さねばならないことって何だろう?

 知りたいけれど、開いてはいけない禁断の箱である気がする。


 リアルでのオレに搭載されている第六感はへっぽこ――もしも高性能なら、キャラクターメイキングの時に魔王にされることに気付いて、職業をお任せになんてしなったはずだ――だけど、こちらでは技能の効果もあって嫌な予感というものをひしひしどころかビシビシと感じていた。


「アリィさん、その「グドラク様」っていう呼び方なんとかならない?」


 リアルでは一般ぴーぽーのオレには、どうにもこそばゆいというか慣れないものだった。


「ですが、配下となった身としましては尊称を付けてお呼びするのが当然のことかと」

「それなんだけど、魔王の名がグドラクだと知られたくないんだ。だから、できれば名前呼び以外の呼称にして欲しいんだよ。最初にグドラクと呼べって言っておいて、今更と思うかもしれないけど……」

「いえ、それならば理解できます。名前を知られることで不利になることもありますから」


 まぢで!?


 今までずっとグドラクで通してきていたよ!?


 もしかしてあれですか、せっかく(あざな)があるのに本名まで一緒に名乗ってちゃ意味ないじゃん!っていう状態になってた!?


 これはもう隠密系技能の働きに期待するしか……って、そういえばアリィさんにあっさりと見破られたんだっけ。

 期待薄だなあ……。

 落ち込む俺の横ではアリィさんが真剣な顔で呼び方を考えていた。


「お館様、というのは?」

「武将みたいで堅苦しそうだし、なんか暑苦しいのが寄ってきそう」


 偏見です。ごめんなさい。


「それでは……ご主人様?」


 こてんと首を傾げながら言うアリィさんを見た瞬間、バキューン!となにかに撃ち抜かれたような気がした。


「ガフッ!」


 余りにも強烈な衝撃に思わず膝を吐く。

 と、吐血したかと思った……。


「だ、大丈夫ですか?」

「あ、ああ。大丈夫。ちょっと新しい世界へ踏み出しそうになっただけだから」


 いっそのこと飛び出していってしまいたいほどの素敵さだった。


 良い……。とても良い。


 だけど破壊力が大き過ぎる。これではオレの身が持たない。きっと数日中に天へと召されてしまうことだろう。


「方向性は悪くないんだけど、他の呼び方の方がありがたいかな」

「でしたら、マスター、というのはいかがでしょうか?」


 ふむ。いつもはクールな雰囲気のアリィさんには合っているな。


「採用。それでいこう」

「分かりました。それではこれからはマスターとお呼びします。それと、私のことは呼び捨てでお願いします」


 むむ!こちらの要求を受け入れてもらったところなので断り辛い。アリィさんめ、なかなかの策士だな。


「分かった。これからもよろしく頼むよ、アリィ」


 そう呼びかけると、彼女は再び大輪の花が咲いたような笑顔を浮かべたのだった。


何やら再びどこかで聞いたような名前が出てきましたが、彼かどうかは不明です。

『アイなき世界』の運営さんたちと同じように、作者の僕も色々と裏設定を考えていたりはしますが、今のところは秘密、ということで。

読者の皆様も自由に想像して楽しんでみてください。

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