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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
3 魔王軍結成!?
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33 獅子身中に潜む

 担いでいた荷物を地面に投げおろす。意識はないようだが「ぶへっ」という訳の分からない悲鳴のようなものが聞こえてきたので無事なようだ。

 全身を氷漬けにされたというのに、全く魔族という連中は呆れるほどの頑丈さである。


 ここはイグルポックの町から数キロ離れた森の中だ。強化魔法を複数用いてわずか数分でここまでやって来た。

 しかし、魔族の身体能力の高さは油断ならない。

 『感知』の魔法で周囲に潜む者がいないかを探る。


「問題ない、か」


 潜む者どころか、遠距離から魔法で監視する者もいないようだ。念のため魔族の男(荷物)に『誘眠』の魔法をかけておく。

 そして懐に隠していたアイテムボックスからある品を取り出す。

 『神殿』の技術局が開発に成功したという触れ込みのそれは、普及し始めた頃の携帯電話に酷似していた。

 指定されたパスコードを打ち込み、機能をアクティブにする。その上である番号を押す。


「私だ」


 数回のコール音の後に、くぐもった声が聞こえてきた。


「サウノーリカにある魔族の集落に潜入している『嘘吐き』です」

「定期連絡にはまだ日があるはずだが……。何か見つけたか?」

「魔王らしき人物を発見しました」

「本当かっ!?」


 携帯越しにも興奮した様子が伝わってくる。


「はい。場所はサウノーリカ大洞掘中央部にあるイグルポック跡地です。数日前、そこを改修して根城にしていた魔族たちを配下に加えた模様です」

「ふむ。どの程度の強さなのか分かるか?」

「私が潜入している集落の魔族を一人、焚きつけてぶつけてみましたが、全く相手になりませんでした。一応、集落内では武闘派として知られている者で、トップクラスの戦闘能力を持っています。また火属性魔法の使い手でもあります」


 プレイヤーに換算すればレベル五十は下らないだろう。

 それを一瞬で倒してみせたのだ。

 『極炎』を身に纏った敵を前にしても怯まないその胆力といい、そしてその相手を一撃で凍りつかせてしまったその技量といい、間違いなくあの男が魔王であろう。


 むしろそうであって欲しい。

 あんな規格外の化け物が何人もいては、世界は間違いなく滅んでしまう。

 あの強大な力が自らに向かったところを想像して、私は知らず知らずのうちに冷や汗をかいていた。


「我らの手に負えそうか?」


 そんな私の内心を見透かしたかのように、慎重な声で機械の向こうから問いかけられる。


「神殿騎士団全ての戦力をもってすれば相討ちに持ち込むことができるかもしれません」

「むう……。魔王の一味は既にそれほどの戦力となっているのか」


 声だけしか伝えられないためか、誤解が生じてしまったようだ。

 早急に訂正しておかなければ後々大問題となってしまう。


「いえ、先ほどの試算は魔王一人を相手取った時のことです。周囲にいる魔族を加えるならば、恐らく『神殿』関係者を総動員する必要があるでしょう」


 それも個々人の力を数値化し、合算してみた場合でのことである。

 数の暴力で押し込むには力量差があり過ぎる。実戦では大半が役に立たない烏合の衆となり果てるだろう。


 さらに今回の一件で魔王の力は魔族たちに知れ渡るようになるはずだ。

 そうなれば庇護してもらおうと彼の元に多くの魔族が押しかけることになる。すぐに一味という言葉では追いつかない規模の軍勢が出来上がってしまうことだろう。


 重苦しい沈黙が場を支配する。


「ならば、彼の魔王を目の当たりにした者として、お前はどうすべきだと感じた?」

「敵対しないことです。もしくは敵対できなくすることです」


 苦々しい問いに即答する。魔王(あれ)は言うなれば天災に近い代物だ。正面切って対抗するべきものではない。どうやって受け流すか、またはどうやって被害を軽減するかということに注力すべきだろう。

 

「我々は神々の名の元に世界の秩序とその安泰を担っている。一時的であるならばともかく、恒久的に魔王と敵対しないという選択肢は取りえない、と上から言ってくるだろうな」


 現場を見ようともしないで、くだらない権力闘争に明け暮れる破戒者たちが言いそうなことだ。


「それならば敵対できなくするしかありません。魔王の弱みを握ることができれば不可能ではないでしょう」

「相手は魔王だぞ?そんなものがあるとは思えないが……」

「弱点がない生き物など存在しませんよ。肉体的にかそれとも精神的にか、付け入る隙は必ずあるはずです」


 彼の言動を思い返すと、その隙は少なくないように思えた。


「納豆のタレ、か……」

「よく聞こえなかったが、何か心当たりがあるのか?」


 思わず呟きを漏らしてしまった。幸い、はっきりとは聞き取れなかったようだ。


「はい。確約はできませんが、魔王の手綱を握る切っ掛けは掴んでいます」


 これは切り札となるカードだ。例え直属の上司であっても、やたらと開示すべきではない。


「それではダメだ。確実に魔王を操ってみせろ」


 なかなかに無茶を言う。しかし、それくらいの言質がなければ上の連中を説得することはできないのかもしれない。


「分かりました。必ず、魔王の牙を抜いてみせましょう」

「うむ。厳しい任務になるがよろしく頼む」


 その言葉を最後に、携帯の電源が落ちた。通話距離に関しては申し分ないが、連続使用時間が今後の課題だな。


 さて、どうやって魔王に取り入るか、だな。


 庇護を求めることは問題ない。元々潜入していた集落の魔族たちは、運んできた荷物(このバカ)を除いて庇護下に入ることを主張していた。

 イグルポックでの顛末を話せば、すぐにでも行動を起こすだろう。


 そして守るべき対象が増えれば増えるほど、魔王自身の動きは抑制できるようになるだろう。

 しかし彼らは魔族だ。魔王からすれば足手まといになるかもしれないが、我々からしてみれば十二分に驚異の存在なのである。


 残念ながら彼らを弱点にはできない。

 むしろ下手に魔族たちに手を出せば、魔王を激昂させてしまう可能性がある。この辺りは次回以降しっかりと説明していく必要がありそうだ。

 名誉や欲に駆られた愚か者が、滅びのスイッチに手をかけないとは限らないからな。


 余り先のことばかりを考えても、足元を見誤ってしまう。まずは魔王の懐へと潜入することに力を注ぐべきか。


「う、ぐう……」


 丁度荷物(バカ)も目を覚ましたようだし、さっさと集落へと戻って彼らの代表交渉役に名乗りを上げることにしよう。


やっと二話目のフリを回収できました。

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