333 神々と言っても全知全能ではないようです
魔王だけど魔族じゃない。そんなミロク君の驚きのカミングアウトにより硬直してしまった先輩さんの肩を、ランドルさんが慰めるようにポンポンと叩いていた。
まあ、仕方がないよね。魔王っていう肩書で、しかも魔族さんたちと一緒に行動していたんだから、普通は魔族だと思うよね。
プレイヤーが選択できる種族は人間だけ、という情報も、ミロク君がプレイヤーだと知っていなければ何の意味もないことだし。
だから先輩さんが驚くのは当然のことなのだ。だけど、
「うわー、邪神の人ってば神様なのにそんなことも知らなかったんだ……」
ええ、驚く気持ちに共感はできても、そのこととこのことは別問題なので、はっきり言って意外だった。
そもそも魔王の誕生は『天の声』によって世界中に知らされていた。
そして『アイなき世界』としては神様たちの仕業によるものという解釈になるとボクは思っていた。だから必然的にミロク君の基本情報は知っているものだとばかりに考えていたのだ。
「可能性は二つ。一つは邪神君が他の神様たちからハブられていたというもの。もう一つは元から『天の声』に神様たちは関わっていなかったというもの、かな。二人はどちらだと思う?」
「その二択であれば、前者でしょうか」
「私は後者だと思うわ。神だとか偉そうなこと言っていても、本当はその程度のことにも関与できない連中なのよ」
ふと思いついた可能性を列挙してみると、ティンクちゃんは「邪神ハブられ説」を、シュレイちゃんは「神々は知らなかった説」と見事に分かれてしまったのだった。
「ふうむ。神々を信仰しているという建前の我らとしては、この邪神が異端であると捉えるべきだろう」
ファルスさんの言葉にランドルさんや先輩さんたちも頷いている。まあ、『神殿』や『神殿騎士団』からすればそう言わざるを得ない部分もあるかな。
あ、いや、その前に建前とか言っちゃっているのは大丈夫なのだろうか?
「これで四対一かあ……。ミロク君はどう思う?」
「そうだな、オレは――」
「僕を無視して話をするなあ!!」
「やかましい!」
「へぶっ!?」
……あ、ありのままに今起こったことを話すよ。ミロク君が答えようとした瞬間、無視されていたことに腹を立てたのか邪神がいきなり起き上がって叫び始めたんだ。そして、邪魔をされた格好になったミロク君がチョップをくらわせると、アッシラさんのブレス攻撃のダメージが残っていたのか、邪神はあっさりと昏倒してしまったという訳。
以上、実況のリュカリュカちゃんが現場からお伝えしました!
「ええと、どこまで話したっけ?」
「ええっ?さっきの話を続けるの!?」
「え?なんで?止めるのか?」
「だって邪神が――」
「そいつ、寝ているじゃないか」
「いやいやいやいや!起きてたよね!?叫んでたよね!?チョップしたよね!?捕まえようよ!?」
「ラスボスっぽいのに無防備に寝ているところを捕まえるのはちょっと……」
「えー……」
誰か何とか言ってやってくださいと周囲を見回したけど、誰も彼も首を横に振るばかりだった。
しかもこのネタ、前に一度やっているんですけど……。
「はあ……。えっと、それじゃあミロク君の意見を聞かせてください」
ものすっごい虚脱感に襲われながら先ほどの話題の続きを促す。
何この茶番?とかは思っても口に出してはいけませんよ。
「オレは「神々は知らなかった」方に一票だな」
「理由はある?」
「はっきりとこれ!というものはないんだが。……何というか『天の声』と神々の行動や思惑と一致していないような気がするんだ」
ボクたちプレイヤー視点から見ると、『天の声』とはいわゆるインフォメーションの一種ということになる。つまり運営さん側、システム的なものだといえる。
対して、ここにいる邪神のように、他の神さまたちも『アイなき世界』に存在する一個のNPCであるとするならば……、確かに一致しない部分があってもおかしくはないのかもしれない。
「神様たちは世界を統べるような存在ではないっていうこと?」
「神々が生まれた元々の経緯から考えると、十分その可能性もあるとは思わないか?」
そういえば遺伝子操作的な何かに魔法技術を加えた摩訶不思議で奇々怪々なとんでも研究から生まれたんだったっけ。
リアルでの多神教の世界観じゃないけれど、神様たちもまたこの世界のピースの一つだと考えた方がしっくりくる気がする。
「そこのところは『神殿』としてはどうなの?」
「我らの教義は別に神々にすがれと説いているものではないから問題はない」
「むしろ安易に神々の力をこいねがうのではなく、自らの力で成すべきことを成せと教えています」
うわ!?詳しく知らなかったけど、かなりスパルタな教義だったようだ。
だって、言い方を変えれば「泣き言を言う前に、やることをやれ!」だからね。人事を尽くさないと天命を待つ資格はないようです。
「まあ、このように厳しいものであったためか、多額の寄付や寄進をして、こっそりととりなしてもらおうとする金持ちがいたり、逆にそれを口実にして権力者にすり寄る愚か者がいたりしてしまったのだ」
組織が肥大化して目が届かない部分が出てくると、厳しいなら厳しいなりに、緩いなら緩いなりに腐敗というものは起きてしまうのだとか。うーん、世知辛い。
「話を戻すと、我々にとって神々とは見守り、時に道を示してくれるという存在だったのだよ。だからこそ今回の邪神による直接的な介入には断固として抵抗しなくてはならないのだ」
ちょっとばかり強引な訂正方法だったけど、あのままではおかしな方向へと突き進んでいったかも知れないので、ここは乗っておくとしましょうか。
「結局のところ、邪神は何がしたかったのかな?」
ミロク君の容赦のないチョップを頭頂部へと叩き落されて、伸びたままになっている邪神ボーイを見下ろしながら呟く。
当の邪神君は時折ピクピクと痙攣していて、その様が面白いのかうちの子たちが交互に突いては遊んでいた。
どうやら触った瞬間に動くと負けになるようで、楽しそうにきゃっきゃっと騒いでおります。
和む。
「邪神の目的か……。各地で色々な騒ぎを起こす、って訳ではないよなあ……」
「そうですな。真の目的のための布石か、それとも周囲の目を欺くための方便といったところでしょう」
はてさて真相はいかに。
……ねえ、そろそろ叩き起こさない?




