332 ポッケナイナイと邪神の目覚め
操られていた『神殿』上層部のおじさんたちをミノムシにするミッションを終了しても、肝心の邪神は目を覚まさなかった。
もういい加減に叩き起こすか、それともお縄にしてしまえという意見が出ながらも、万全の態勢で事に臨めるようにミロク君たちの休憩時間に充てることになった。
今でこそおじさんたちはミノムシとなり、邪神は瓦礫に突っ込んでダウンしているけど、ボクたちが割って入るまではミロク君たちとそれはもう熾烈な戦いが繰り広げられていたのだそうだ。
「腐っていようとも操られていようとも巨大組織のトップにいただけはあるわ。あんな冴えない顔しているおっさんたちがバンバン魔法を使ってきたからな」
全世界規模の『神殿』の上層部に名を連ねていたのは伊達じゃなかった、ということらしい。
だけどミロク君、おじさんたちの顔つきが冴えないことには、わざわざ触れなくても良かったんじゃないの?確かにどこにでもいそうな顔のおじさんたちだったけどさ。
そして現在の髪形は、アフロにスキンヘッドと大変個性的なものになっていたことも追記しておきます。
そんな訳で時間が余ったボクたちはアッシラさんのブレス攻撃によって散乱した聖堂内を片付けと称して家漁りしていたのだった。
「あ!この細工物は綺麗だね」
「これは……、魔方陣を元にして図案化しているようですね」
「なかなか面白いデザインね……。って図案化どころか本物の魔法陣よ!?」
と、装飾品に紛れ込ませた護身用魔道具を発見したりして有意義な時間を過ごさせてもらっています。
こっそりとシュレイちゃんがポッケナイナイしていたのは見なかったことにしてあげようかね。そのくらいの役得はあってもいいだろう。
ちなみにうちの子たちは壊れた調度品を並べてパズルのようにして遊んでいました。
ほっこり。
「う……、ぐあ……!?」
おや、ようやく寝坊助さんのお目覚めかな?
引きこもりニートよりもさらに血色の悪い顔の邪神様が半ば瓦礫に埋まったままの状態で身動ぎをしている。実は罠の可能性もあるということで、気絶した時のまま放置していたのだ。
ミロク君だけでなくファルスさんたちからも「いきなり操られてしまうかも」とか「身動きできなくされて人質にされてしまうかも」なんて脅されてしまったので、恐ろしくて近づけなかったということもある。
先輩さんがクールに見張り続けてくれていたのでお任せしていた部分もあります。ただこの人、どうにも何か隠していることがあるように感じられるんだよね……。
具体的に何をどう隠しているのかは分からないけれど、ゲーム内で強化されている第六感的ななにかがそう囁いているように思えたのだった。
まあ、敵対しようとしている訳でもなさそうだし、彼のことは一旦置いておくとしよう。
それより今は、目を覚ましかけている邪神の方が重要だ。
「ぐ……、な、にが、起きたのだ?」
「お前のせせこましい策が破られたんだよ」
未だに混乱しているらしい邪神に対して冷ややかに告げるミロク君の姿は、技能の後押しもあって魔王の貫禄に溢れたものとなっていた。
近くにいるだけなのに相当なプレッシャーを感じる。ぶっちゃけ、かなり怖いです。
強烈な気に当てられて、うちの子たちを含む他の人たちも体が強張ってしまっているようだ。ミロク君の元でしばらく働いていたはずのシュレイちゃんですら緊張で尻尾の毛が逆立っていた。
ボクが知っている中でこの気配に耐えることができるのは、飄々としていてその真意を掴ませてくれないジョナさんと、魔獣の森で出会ったアリィさんなる魔族の女性くらいではないだろうか。
そういえばあの人もお茶目な性格をしていた気がする。
「バカな……。たかが人間ごときにこの僕が押し負けたというのか!?」
おっと、考え事をしている間に邪神の方も多少は回復してきたのか、喋り方が流暢になってきていた。
それにしても、さすがは邪神というべきか。「たかが人間」とか上から目線ここに極まりけりって感じだ。
「はん!そうやって見下しているから足元を掬われるんだよ」
ミロク君の視線や声が、冷ややかから蔑むようなものへと変わっていく。
そして、格下だと思い込んでいた相手の攻撃で気絶までしてしまったことに屈辱を感じたのか、邪神はその端正な顔を醜く歪めていたのだった。
えっと、彼を吹っ飛ばしたのはスピリットドラゴンであるアッシラさんのブレス攻撃なのだけど……、雰囲気的にそのことは言わない方が良さそうだね。
ふふん。ボクのエアリーディング能力も順調に育っていますよ。
〈そのような技能は、当『アイなき世界』には実装されていません〉
知ってるよ!というかそっちこそ空気読んでよ、インフォさん!?
危うく大声で突っ込みを入れるところだったよ!
……いやそれ以前に、どうして突然ボクの心の声に反応したの!?暇なの?寂しいの?
〈…………〉
無視ですか……。どうにもこの間の『ミュータント』を倒した時からインフォさんの様子がおかしい気がする。これも一つの人工知能の成長ということなのだろうか?
何にしてもすっかり真面目な気分が削がれてしまったヨ。
「大体、お前たち神々だってその「たかが人間」によって生み出されたんだろうが」
「僕はあいつらとは違う!生まれるべくして生まれたんだ!」
一人あらぬ方向で疲れ果ててしまったボクが辛うじて意識を戻すと、ミロク君と邪神の舌戦はまだ続いていた。
ちなみに隠されてきた本当の歴史についてはファルスさんやランドルさんなど『聖神教』の上位数名には伝えずみだ。
先輩さんの顔色が変わっていないところを見ると、潜入するため待機している時にでも誰かから教えてもらったのだろう。
「そういう魔王!貴様たち魔族とて当時の人間たちによって作られた神の欠陥品じゃないか!」
意趣返しができてしてやったりという顔で叫ぶ邪神だったけど、ミロク君は冷静なまま、というか多分に呆れを含んだ表情で肩をすくめていた。
「ふう。これだから自分に都合の良いことしか覚えていないバカは困る。元々はこの世界に適合する様々な存在を生み出すための行為であり神々を作り出すことではなかったんだよ」
話しが横道にそれてしまうので、その行為自体の正否や倫理面での問題については一旦放置しておきます。
要するに「目的が違うんだから欠陥品だなんだと言われる筋合いはないんだよ」ということだ。
「あ、それとオレ魔王だけど、魔族じゃないから」
「は?」
おやおや、この情報は各地で暗躍していた邪神であっても知らなかったようだ。驚き過ぎて目が点になっております。
ボクたちもサウノーリカの砦での戦いの際にカミングアウトされて、びっくりしたのでその気持ちはすっごくよく分かる。
そして、あの時あの場にはいなかった先輩さんはというと、顎が外れんばかりに大きな口を開けて固まっていたのでした。




