331 細やかな設定こそが物語に厚みを持たせる
「あ、あははははー……。無事なようでなによりです?」
愛想笑いを浮かべながら轟音が響いた聖堂の中へと踏み込む。
遮っていた扉は木っ端微塵になった上に怪しい靄も消えていたので出入りには何の支障もない。
ちなみに、それをやったアッシラさんは「疲れた」と一つ呟いて、逃げるようにして『移動ハウス』の中へと入って行った。
ボクの「やり過ぎた?」という言葉に冷や汗を浮かべていたし、魔王様に目を付けられないように退散したようだ。
もちろん指示を出したのはボクなので、何か言われたらちゃんと守るつもりではいる。
まあ、怖がっているというよりは、自分と同等以上の力を持つ彼とどう接していいのかが分からないというのが本当のところだと思われる。
アッシラさんは意外とシャイなドラゴンさんなのです。
そういえば、ミロク君が張っていたはずの『結界』というのはどこにあったんだろう?……覚えていたら後で本人にでも聞いてみることにしよう。
で、その本人様はというと、
「ほほう……。リュカリュカちゃんはこの状況が無事に見えるという訳か」
額に青筋を立てて、ちょっぴり怒っていらっしゃいました。
ぐるりと周囲を見回す彼の動きに釣られて、ボクも聖堂の中を見回してみる。
さすがは『神殿』の最奥にあるだけあって、そこは美麗ながらも落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
高い位置には採光も兼ねているのかいくつものステンドグラスがあり、『光雲』からの光を様々な色に変えては聖堂の中を彩っている。
置かれていた調度品の類も超一流の品々だったのだろう。目利きができれば宝の山に見えたに違いない。ブレス攻撃の余波によって部屋の外周に吹き飛んで、見るも無残な状態となってしまっていなければ。
「リュカリュカ殿、先ほどのことは私も肝が冷えたぞ」
「ええ。魔王様が守ってくれたお陰で事なきを得ましたが、そうでなければ命の危険さえありました」
ファルスさんにランドルさんも厳しめの表情となっている。危うくフレンドリーファイアで命を落としかけたのだから当然だろう。
先輩さんは何も言わずに立っていたが、その目には非難の色が灯っていた。
「あう、ごめんなさい。……扉の隙間からあふれ出てくる靄を一掃することに気を取られ過ぎてました……」
「うん。反省しているみたいだし、これ以上はもう言わないよ」
謝罪の言葉を口にすると、ミロク君たちは一転して穏やかな顔になった。どうやらボクに反省を促そうと、わざと強い口調でいたようだ。
そして彼らの話によると、あの靄はボクのような追加戦力が後から入って来られないようにと邪神が仕掛けた罠だったらしい。いかにも聖堂の中が靄で満たされ、扉の隙間から漏れ出しているように見せかけておいて、中に入るのを躊躇させるのが狙いだったのだとか。
「まさか戦術兵器並みの超強力な攻撃を撃ち込んで吹き飛ばしてくるとは思ってもみなかっただろうな」
運悪く?邪神はアッシラさんのブレスの射線上にいたらしく、いきなり扉を粉砕して飛び込んできた攻撃の直撃を受けてしまったらしい。
抑え込もうとしたけど失敗して爆発してしまったのだとか。あの轟音はその時のものだったようだ。
「邪神があの攻撃のほとんどを受けてくれたから、聖堂の中がこの程度の被害で済んだって訳だ。普段は場を引っ掻き回してトリックスターを気取っているあいつが「なんだとう!?」って心底驚いていたからな。いやあ、あれはなかなかの見物だった」
ミロク君、さっきボクを叱るために仏頂面をしていた人と同一人物とは思えないくらいの満面の笑顔です。
邪神には色々と迷惑をかけられていたみたいだし、それも仕方がないのかもしれないね。
「ところで、その邪神はどうなったの?」
「ああ。ほれ、爆発をまともに受けてそこでお寝んねしてる」
「は?」
ミロク君が何を言っているのかさっぱり分からなかったが、とりあえず彼が指さす方向を見てみると……。
「真っ白な顔をした超美形が瓦礫の中に埋まっているんですけど……」
「ああ、リュカリュカちゃんは見るのは初めてだったな。そいつが邪神だよ」
病的なまでの真っ白な肌、超美形、自称が邪神……。やり過ぎ感満点のその姿に、思わず本当は運営さんの特殊なアバターか、もしくはミロク君のような超レア存在をランダムで引いてしまったプレイヤーなのでは?と疑ってしまった。
「その気持ちは分かるけど、間違いなくこちらの世界の存在だよ」
ミロク君の言う通り、邪神の頭上にあるマーカーはNPCを示す青色をしていたのだった。
「ええと……、今のうちにお縄にしちゃうっていうのは、やっぱりなし、なのかな?」
「オレも本音を言うとすごくそうしたいんだが、心情的にはさすがにそれをやっちゃうのはまずいかもって思ってしまうんだよ」
だよねー……。狙ってやったのならともかく、ラスボスを不意打ちで気絶させている間に捕まえるとか、微妙過ぎる展開だよね。
「とりあえず、代わりにそいつらは捕まえておこうかなと思ってる」
再び彼が指さした先にいたのは、往年の爆発コントの後のような、アフロヘアーで真っ黒に煤けた顔、ボロボロになった法衣らしきものを着た数人の男たちだった。
あ、中にはアフロになりようのない状態の人もいたけど、そこはスルーしてあげることにした。ボクは気遣いのできる女の子です。
「この人たちは?」
「邪神に操られていた『神殿』上層部の者たちです」
どうしてこんな場所にいたのかと思ったけど、ランドルさんに言われて納得した。よく見ると着ている物には金糸や銀糸、宝石などで装飾が施されていたようだ。
元はさぞや派手派手しい服装だったのだろうが、爆発に巻き込まれた影響からか、調度品類と同じようにボロボロになってしまっていたのだった。
目が覚めた後に騒がれたり邪魔されたりしても困るので、聖堂の外までうちの子たちに運んでもらってから、縄でぐるぐる巻きにしてミノムシ化させていく。
「着飾るなとは言わないけど、もう少し品格っていうものを考えてもらいたいよね」
「野外での演説時に目立つようにと徐々に装飾が増えていったそうだ。それと自らを囮にするために、わざと野盗などの目を集める狙いもあったという話だ」
上層部の人間ですらも成金趣味的な格好だったのでつい愚痴ってしまったところ、ファルスさんが派手な服装の成り立ちを教えてくれた。
おおう!服装一つにしてもそんな細かい設定が!?
日の目を見ることがないかもしれないこうした小さな裏設定が積み重ねられていることによって、『アイなき世界』は重厚感を増しているのかもしれない。
気絶したアフロ頭のおじさんたちを縛りながら、そんなことを考えていた。




