330 祝福の吐息
「ふむ。つまり我のブレスで邪神の放つ邪気を消滅させてしまおうということか」
背負った『移動ハウス』からひょっこりと顔だけ出したアッシラさんが、ボクが閃いた作戦を口にした。
「そうそう。どうかな?できる?できちゃう?」
端的にいうと「神々に次ぐ存在」とか「いずれ神に至る者」などなど、背筋がかゆくなってしまうような異名を持つスピリットドラゴンなら怪しい靄を消し飛ばせるのではないかと考えたのだ。
「先ほどの気配というものとは違ってこれは邪神の生み出したものであるから、干渉できるとは思う。が、相手は神だから全てという訳にはいかんぞ。具体的にどの程度消し去れるのかも、やってみないことには想像が付かないな」
多少の勝算はあるものの、基本は出たとこ勝負になるようだ。それでも賭けになる程度には引き上げられたのだから十分ではないだろうか。どうせボクたちだけではどうしようもなかったのだし。
「いいね、いいね!ちょっとでも勝ちの目があるならそれに乗っちゃうよ!」
下ごしらえをして百パーセント勝てるという状況にしておくのも優越感に浸れるので楽しいのだけど、こういう不利な状況に挑むというのも嫌いじゃない。
逆境に立ち向かうのって燃えるよね!
ボクのやる気に感化されたのか、うちの子たちもしきりに体を振るわせて――武者震いというやつかな――いて、気合十分といった模様です。
「そうきましたか。良かった。まだ比較的まともですね。それに言葉遊びではありますがブレスはブレスに通じます。効果のほども期待できるのではないでしょうか」
おっと、ティンクちゃんにも好評なのは嬉しいね。
「こんな所で切り札のアッシラ様に出張ってもらうの?」
しかし、シュレイちゃんからすると予想外の方法だったのか呆れ半分驚き半分といった具合で困惑しているようだ。
だからボクはサムズアップしてこう言った。
「シュレイちゃん、最大火力での先制攻撃というのもオツなものなんだよ!」
抑止力にするならともかく、奥の手や切り札というのは使ってなんぼだと思うのです。
それに実力が伯仲しているならともかく、相手は曲がりなりにも神様という超高レベルな存在だ。勝つためには頭を働かせる必要もあるだろう。
今回の場合、扉越しのブレス攻撃というちょっぴり奇襲じみたものであるだけのことだ。
「いや、普通はそれを卑怯だというと思うのだけど……」
「正々堂々正面から戦う相手ならそうだけど、邪神は色々な場所で暗躍してきたんだよ。それこそ自業自得ってものだよ。自分がやるのはいいけど、やられるのは嫌なんていう子どもじみた我が儘は通りません!」
「そ、そういうものかしら?」
「そういうものなのです!」
しっかりと後悔しながら反省するがいいのです!
「ふふっ。やっぱりシュレイでも言い包められてしまいましたね」
「うるさい……。まったく、あの子の押しの強さは魔王様以上かもしれないわ」
何やら妙な評価を下されていたようだけど気にしないことにしよう。
とにもかくにも作戦が決まったので、準備開始です。
「とは言っても、ただ単にアッシラさんに出てきてもらうだけの話だけど」
幸い聖堂の前はそれなりのスペースがあるので、ドラゴンの巨体が顕現しても問題はなかった。
もしも階段を登ってすぐの場所に扉があったりしたら、駆け上ってきた勢いのまま近付いてしまい怪しい靄に捕まっていた可能性もある。
そういう意味でもこの場所には助けられていたといえるのかもしれない。
「この辺りで良いか」
尻尾一つで「遊んで!」とまとわりつくうちの子たちを上手くあしらいながら、位置取りをしていくアッシラさん。かなりの時間を一緒に過ごしてきただけのことはあって、そんな姿も堂に入ったものだ。
もしもテイムモンスターのお守り検定があったとすれば、段持ちになれるのは間違いないだろう。
まあ、そんな資格があったら、テイマーのプレイヤーがモフモフ大好きなプレイヤーが殺到してとんでもないことになりそうだけど。
「リュカリュカさん、暇ならアイテムの確認でもしておいてください。中に入ったらいきなり戦闘になってアイテムの準備をする時間がないかもしれないんですから」
「あ、はい」
微笑ましい光景に目を奪われていたらティンクちゃんに注意されてしまった。
確かにこの後はどういう展開になるのかは全く分からない。準備はできる時にしておくべきだろう。反省しつつ回復薬など消耗品の確認とすぐに使えるように用意をしていく。
ついでにうちの子たちにも消耗品を渡しておこう。一体どこに隠し持っていて、どうやって使用しているのかは謎だけど、その辺りはゲームなのだと無理矢理納得することにしています。便利なのは確かだし。
そして、ついにその時がやってきた。
「最後にもう一度だけ確認だ。本当に全力でやって良いのだな?」
「うん!思いっきりやっちゃって!」
ボクが言い切ると同時に、アッシラさんの微かに開いた口元からまばゆい光が漏れ出てくる。それは見る見るうちに輝きを強めていき、やがて直視できないほどになると、今度はプレッシャーのようなものまで感じられるようになっていった。
清々しいまでの厳粛さ。それはさながら純粋過ぎる真水のよう。純粋さゆえに全てを拒絶し、すべてを呑み込み同じ色へと染め上げてしまう。
ボクはなぜか、寒々しい満月に照らされた真冬の凍えるような夜空を思い浮かべていた。
どれほどの時間が過ぎたのか、光によって白一色へと染められた視界の中で、急に頭へと直接アッシラさんの声が響いてくる。
『いくぞ!『世界に我が祝福を』!!』
直後世界は色を取り戻し、収束した光の奔流が扉へと殺到した刹那に破壊したかと思うと、聖堂の中へと突き進んでいった。
あ、あれ?怪しい靄によって強化されていた扉を打ち破るくらいで相殺されると思ったんだけど……。
思ったよりもアッシラさんのブレス攻撃が強力だった?
そして……、どっごああああああん!!!!!!と、轟音が響いてきたのだった。
「あ、あはは……。もしかしてやり過ぎちゃったのかなー……、って?」
振り返るとにゃんこさんコンビは頬を引きつらせていた。さすがにこの威力は想定外だ。ミロク君たち中にいる人は大丈夫だろうか?
不安になって扉があった場所から中を覗き込もうとすると、
「いきなり何するんじゃーい!!!?」
思っていたよりも元気な声が聞こえてきたのだった。




