329 ピコーン!でキュピーン!な閃き
礼拝堂から奥に進み、豪華絢爛な階段を登った先で待っていたのは毎度おなじみ、魔族のジョナさんだった。
「来たっすね。さすがのリュカリュカさんも緊張――」
「しているように見える?」
「……見えないっすね。魔王様と同格と言い切るだけのことはあるっす」
「同感よ。この図太さは魔王様と同じかそれ以上かもしれないわ」
そしてボクの顔を見た瞬間、シュレイちゃんと二人でとっても失礼かつ誤解にまみれた会話を始めてしまった。
ミロク君とは「プレイヤーとして同じ立場にいる」という意味で言っただけのことが、随分と誇大解釈されてしまっている。
何度か訂正しようと頑張ってみたのだけど、そもそもNPCである彼らにプレイヤーという概念を伝えることができずに失敗に終わっていた。
今ではもう諦めの境地で、他の魔族さんたちに彼らの認識が広がらないことを祈るばかりです。
「まあ、リュカリュカさんたちが非常識なのは今に始まったことじゃないっすからね。それはともかく、ここまで来たということは『外』は一応片が付いたということっすか?」
「一通りはね。ただ、全部を倒しきれたかどうかは分からないよ」
本当は前半部分も突っ込みたかったのだけど、どこかのギルド長さんたちがうんうんと頷きながら同意している姿を幻視してしまったので黙らざるを得なかった。
それにのんびりと話していられるほどの余裕がないのも事実だ。
「時間差で出現するように準備されているものはどうしようもないっす。こちらの手も限られているっすから、後は仲間にお任せするべきっすよ」
何でもかんでも自分でやろうとするのは失敗の元かもしれない。仲間を信頼しているのなら、任せられる部分はきっちり任せておくべきなのだろう。
「それで、ミロク君たちは?」
「魔王様や『聖神教』の皆さんがいるのは、この通路の奥の階段を登った先にある最上階の聖堂っす。邪神の怪しい気が広がりそうだったので魔王様が『結界』を張っているっすけど、リュカリュカさんたちなら問題なく通り抜けられるはずっす」
密かに「結界で中に入れなかったよ。てへり」という言い訳が、頭に浮かんだ直後に消し飛ばされてしまったのは秘密です。
仕方がない、覚悟を決めていきますか!
「魔王様をよろしく頼むっす」
奥へと行こうとした瞬間、ジョナさんが頭を下げた。
「できる限り頑張るよ」
努めて軽く答えると、お辞儀をした姿勢のままピクリと彼の肩が震える。
いくら何でも「任せて!」なんて無責任なことは言えない。ボクには「ボクにできること」しかできないのだから。
それが皆を守ることであって欲しいとは思うけどね。とりあえず言い返されなかったということは合格を貰えたということだろう、とプラスに考えておくことにした。
さてと、それじゃあ改めて、長らく続いた今回のお話しのラスボスさんに会いに行きましょうか!
再び装飾過多の階段を登ると、そこには巨大な扉が鎮座ましましていた。
よく言えばきらびやか、好意的に解釈するなら荘厳と言えなくもないかもしれない。
「けばけばしいね……」
しかしやはり第一印象としては、そうなってしまうと思う。
「確かに数千年も歴史がある世界規模の組織としては、落ち着きと美的感覚が足りていないわよね」
「全くの同感ではありますけど、二人とも身も蓋もないです」
シュレイちゃんが言う通り、この扉からは長い歴史を経てきた重みというものが感じられなかった。むしろ自分たちの軽さや底の浅さを覆い隠そうとしているようにすら思えてくるのだった。
そしてティンクちゃんも同意はするんだね……。
「で、この隙間から漏れてきている靄みたいなものが、邪神が放っている怪しい気というやつなのかしら?」
シュレイちゃんが指さした扉と壁のほんの僅かな隙間からは黒煙のような何かが漏れ出してきていたのだった。だけどそれを普通の煙と見間違うことは決してないだろう。
だって、ムニョモニョと蠢いているんだもの!
近寄っただけで絡め捕られそうです……。エ○触手か!
「なんだろうね、本当に煙だとしたら中は大火事でとんでもないことになっているから、それはそれで大変なことのはずなのに、そっちの方が百倍はマシに思えるこの感じ……」
それほど禍々しいものでありました。
しかし、困った。扉を開けるためには当然扉へと近づかなくちゃいけない。それはつまり怪しい靄へと近づくことと同義でありまして……。
はっきり言いましょう、ボクはこの怪しい靄に近寄りたくない!そしてうちの子たちも近寄らせたくありません!
それに何より、漏れ出ているということは、中はこの靄で一杯になっているということかもしれないのだ。
そんな中に突入しちゃったりしたら、どんな大変な目にあわされるか分かったものじゃない!
まあ、『アイなき世界』はある程度の低年齢の子どもたちも参加しているゲームなので、そちら方面の展開はないけどね。
「うみゅう……、どうしてくれようか?」
怪しい靄を一掃できるような光属性というか、聖属性的な何か強大なホーリーパワーはないものかしらん?
考えた瞬間、アッシラさんの言葉を思い出していた。
それは運命の悪戯だったのか、それとも神様の悪ふざけだったのか、はたまた悪魔の悪ノリだったのかもしれない。
素敵で過激な閃きがピコーンとボクの頭へと舞い降りてきてしまったのだった。
にっこりと笑顔になっていくと、嬉しそうにうちの子たちが集まって来る。うふふ。さすがはうちの子たちです。
一方、なぜか黒にゃんこさんは何かを諦めたかのようにがっくりと肩を落としていた。
「ど、どうしたの!?」
それを見た相方の白にゃんこさんが驚いて声をかけている。
「リュカリュカさんが何かを思い付いてしまいました……。シュレイ、先に言っておきます。気を確かに持って!」
「え?え?わ、分かったわ……?」
ティンクちゃんの忠告にいまいち良く分かっていない顔で頷くシュレイちゃん。
それにしても、それなりにやらかしている覚えはあるし、ティンクちゃんには迷惑をかけているかな?とは思っていたけど、そこまで警戒して不安に思わなくてもいいと思うの……。
だって、まずは本人に聞いてみないと、できるかどうかも分からないからね。
「アッシラさん、ちょっとこれを見てくれないかな?」
という訳で、ボクは閃きのキーパーソン――キードラゴン?――となる彼を呼んだのだった。




