328 一緒に行こう
「よし!これで『外』の掌握は時間の問題だな」
「乱入してくれて助かったよ。実は結構ジリ貧だったんだ」
「まさかあんな化物を町中に配してくるとはなあ……」
ソウルイーターを倒したことに湧き上がる人たちがいる一方で、自分たちだけで倒しきれなかったことに責任を感じている人もいた。
「あまり気に病まないでください。どちらかといえばこれは、作戦立案段階で予測していなかったボクたちの責任ですから」
「リュカリュカちゃんの言う通りです。最後の門の所に強敵を配置するなんて、少し考えれば気が付くのが当たり前のことでした」
ボクに続いて会議に参加していたタクローさんが悔しそうに言う。まあ、この人の場合は相手の考えを読み切れなかったことよりも、仲間を危険に晒してしまったことを後悔しているようだったけれど。
「そうだな。いつまでも暗い顔をしていても仕方がないからな!」
「それで『討伐チーム』はこのまま神殿の中に向かうのか?」
「そのつもりです。疑ったところで今さらどうしようもないですけど、本当に封じられた魂を肉体に戻すことができるのかを一刻も早く確かめたいので」
邪魔をされても困るので、実際に魂を戻すのはもう少し後になるだろうけどね。
「そうか。それじゃあ、ここにいたソウルイーターの分も頼む。俺たちはこのまま市街地側の見張りをしておく」
二つの核をそれぞれ雨ー美さんとユキさんが受け取る。ちなみにボクが拾った分はキリナさんに預けてある。実は神殿の中に入った後、ボクだけ別行動になるのです。
この場に残る『平定チーム』とは手を振って別れ、いざ神殿の中へ!
「お?来たな!」
「ソウルイーターの起動の人柱になっている連中がいるのは左右の建物だ!どちらも敵は排除済みだから急いで向かってくれ!」
入ってすぐの場所にある巨大な礼拝堂――こちらは一般人向けの建物で、貴族用だとか『神殿』関係者用のものは別にあるそうだ――にいた仲間たちの歓迎を受け……、って人柱違う!?死んでませんから!!
「奥の方はよく分からない。その先にいる魔族の兄ちゃんの話だと、ちょっとやばいことになっているから魔王様が『結界』を張ったらしい。リュカリュカちゃん、気を付けて行くんだぞ」
何をどう気を付ければいいのか良く分からないけれど、心配してくれている人たちに「はい」と笑顔で答えておく。
そうこうしている間にボク以外の『討伐チーム』はどのように二手に分かれるのかを話し合っていた。いや、決まっていないのはユキさんたち三人だった。
どうやら誰がタクローさんと一緒に行くのかでもめているらしい。
「はいはい、ラブコメは後にしてちょうだい」
「ら、ラブコメじゃないですし!?」
姉御の言葉に慌てて反論していたけど、それを信じる人は一人もいなかった。
だって、四人共が一文字一句同じだった上にきれいにハモっていたのだ。どこからどう見てもラブコメですよ。
タクローさんたち四人を除いた全員――NPCも含む!――がうんざりとした顔をしていた。
付き合っていられないのでボクはさっさと奥へと向かうことにする。
姉御、「逃げた!?」だなんて失敬な。ボクはボクの役割を果たしに行くだけなのです。
決してラブコメ展開を鬱陶しく感じた訳ではないのですよ。
とりあえずタクローさんは爆ぜるといいと思います。
礼拝堂から一歩奥へと足を踏み出した途端に邪悪で重苦しい空気を感じた。もちろんゲーム内の仕様アンド補正によるものだ。
多少の雰囲気が悪いくらいならまだしも、邪悪な気配を感知する能力なんてリアルのボクには搭載されていませんから。
とりあえず一人だと怖いしきついので、町の外でソウルイーターと戦った後に『移動ハウス』で休憩させていたうちの子たちに出てきてもらうことにする。
「くっ……。とてつもなく強い存在を感じるわ」
「これは、邪神が放つ気配というものでしょうか……?」
シュレイちゃんとティンクちゃんによると、この重苦しい空気の元凶となっているのは邪神であるらしい。さすがは自称とはいえ神様の一人というところだね。
他の子たちもこの邪悪さにのまれかけているのか、どことなく落ち着かない様子だ。
そしてなんと『移動ハウス』の中にまで浸透してしまったのか、
「リュカリュカよ、この先では何が起こるのか我でも皆目見当がつかない。何かあったらすぐにでも呼ぶのだぞ」
と珍しくアッシラさんが焦った声音でそう伝えてきたのだった。
うん、なんだかとても帰りたくなってきたよ。
でも、残念ながらそういう訳にはいかないんだよね……。
『神殿』の改革と魔族さんたちとの共闘・協力を持ち込んだ者として、どうなるのか、どうなったのかを見届けなくてはいけないのだ。
何より、ミロク君に先輩さん、ファルスさんやランドルさんといった面々がこの奥で邪神と対峙しているはずだ。
必死になって戦っているはずの彼らを放っておくことなんてできない。
意を決して第一歩を踏み出す。
重くまとわりついてくるような空気に不快感が増すが気にしない。
立ち止まってしまったら二度と先へは進めないような気がして懸命に足を動かしていく。
「ふご」
「ごご」
「ぴしゃ」
「!」
「にょん」
そんなボクの後ろからは頼りになるイーノとニーノが、生まれた時から一緒のビィトが、頑張り屋さんのエッ君が、気遣いが巧みなエリムが背中を押してくれていた。
「ふふっ。お友達とは助け合わないと」
「まあ、魔王様もいることだし、なんとかなるでしょ」
そして両脇にはフレンドモンスターのティンクちゃんと、その相棒であるシュレイちゃんのにゃんこさんコンビが付いてくれている。
うん、大丈夫。みんなと一緒ならこれまでと同じように、そしてこれから先もきっと笑っていられるはずだ。
場の空気はますます重苦しさを増し、まるで水の中を歩いているような気分になる。
夢の中で走っているはずなのに思うように進めないあのもどかしさを思い浮かべてもらうと、ボクたちの状況を理解しやすいかもしれない。
「むうう……、歩き難い。アッシラさん、ブレスとかで何とかならない?」
精神的に追い詰められるようなことはなくても、肉体的に面倒なことには変わりがない。思わず背負っている『移動ハウス』へと尋ねてしまっていた。
「無茶を言うな。何かあれば呼べとは言ったが、我にだってどうにもならないことはある」
まあ、そんなことだろうと思ったけど。スピリットドラゴンといっても割とできないことが多いよね。明らかに機嫌を損なうことが分かっているから言わないけど。
それに、空を飛んで移動できるだけでもチート並みの便利さだということも理解していますよ。
「それ以前に切り札的なアッシラさんを、楽をするために使おうとしないで」
シュレイちゃんに注意されてしまいました。
「まあ、リュカリュカさんですから」
え?ティンクちゃん、それはどういう意味かな?
いつの間にかボクたちは、普段通りの足取りで歩みを進めていたのだった。




