326 『ソウルイーター』
ソウルイーターは『神殿』が組織された初期の頃から『賢人の集い』と共同で研究が続けられてきたものであり、一説にはもっと古くから研究されてきたものだとも言われているそうだ。
当時はまだまだ『神殿』の力も弱く、さらにその剣にして盾たる『神殿騎士団』もまだなかったことから、様々な外敵に対抗するためにその研究が行われていた。
力で勝る敵軍や魔物を相手に戦って勝つためにはどうすればいいのかという観点から進められていった研究は、遠隔操作するロボットや装着するパワードスーツといったリアルでの科学やSF的な思考を取り込みながら発展していくことになる。
そして完成したのが生きた人の魂を動力にした、ソウルイーターの雛型にして、その名前の由来ともなったものだった。
「この最初期のものには致命的な弱点がありました。動力としてだけではなく、燃料としても人の魂を必要としていたのです」
本来であれば周囲を漂う魔力を吸収して燃料にするはずだったのに、だ。結果、封じられた魂は燃料として急速に消費され、その際に発生した死への恐怖心から暴走した雛型は近くにいた人々を襲ってはその魂を吸収していったのだった。
事故ということで処理されているけれど、何者かの思惑が絡んだ陰謀説も未だに根強く残っているそうだ。
「百人を超える犠牲者を出したその一件から、ソウルイーターという呼称が定着したという話です」
改良によって当初の設定どおり周囲の魔力を燃料として使用できるようになり、封じられた人の魂が消費されることがなくなってからもその呼び方が変わることはなかった。
ちなみに魂を封じられた人の肉体側は仮死状態になっており、数日程度の別離であれば問題なく生活を送れるように回復するそうだ。
「ええと、つまり魔族さんたちが見たホルリアの北に配置されたソウルイーターは、動力として誰かの魂が封じられてはいるけれど、その魂が消費されて消えてしまうようなことは起こらないということ?」
「その通りです。そしてそこに封じられているのはホルリアへと集まっていた、もしくは集められていた神官や司祭たちであると思われます」
元々、いざという時には位の低い神官や司祭職にある者たちが動力として魂を差し出すようになっていたらしい。
ファルスさんやランドルさんたちでも切り札であるソウルイーターについて、ある程度以上の内容を知っていたのはこのためだ。
まあ、いきなり「魂寄越せ」なんて言っても反発されるのがオチだしね。
「しかし、どうやってソウルイーターを持ち出したのか……」
「どういうことですか?」
ランドルさんの呟くような台詞に興味を持ったのか、タクロー君が尋ねる。
「確かにソウルイーターは『神殿』の切り札として聖地ホルリアに保管されてきましたが、安易に使用することがないようにと、保管場所へと繋がる扉の鍵を『賢人の集い』へと預けていたはずなのです」
ファルスさんの言葉に、ボクの頭の中に「繋がった」という文字が浮かび上がってきた。
そしてそれが正解であったのか確かめるためにミロク君を見やる。すると彼はジョナさんや周りの魔族さんたちと顔を見合わせた後、ボクに向かって小さく頷いたのだった。
やっぱり。
「それは多分、邪神の仕業だと思います」
「なんですと?」
「以前邪神は北西地域を訪れた際に『賢人の集い』の隠れ里へと立ち寄っていたらしいっす。その時に鍵を引き取るか、もしくは奪うかしたと思われるっす」
ジョナさんが代わりに答えてくれたけど、ボクも全くの同意見だった。
つまり邪神は、帝都でミロク君たちに邪魔をされた仕返しに『神殿』を掌握したのだと思われていたけれど、本当は元々『神殿』を支配することを目的に動いていたようなのだった。
「ただ、そうなると何のために『神殿』を支配したのかが分からくなりますな……」
「それはまた後から考えれば良いのでは。推測に憶測を重ねていては見当違いの方向に進んでしまう危険性もあります」
確かに。先を見据えることも大切だけど、今は差し迫った問題を解決する方に注力すべきかもね。
「それじゃあ、一つ質問。そのソウルイーターが負けた場合、封じられている魂はどうなるの?」
あ、それは気になる。ナイス質問です、姉御!
「核となっている魂を封じている部分が無事であるなら特に問題はないと言われていますね。ただ、実際に使われた記録が残っていないので予測の域を出ないものではあります」
ほうほう、切り札ではあるけれど、捨て身での運用が前提という訳ではないんだね。
うみゅ?これってもしかして……、
「一般の司祭や神官たちの身柄を確保する絶好のチャンスじゃないですかね?」
タクローさんたちプレイヤーに一部の魔族さんは、ボクの言いたいことが分かったのか「あ!」と小さく声を上げていた。
一方、ファルスさんたちは理解できなかったようで、頭上に?を浮かべている。
「えっと、つまりですね、そのソウルイーターさえ倒すことができれば、動力とされている人たちを無傷で確保できるのではないかと思ったんです。もちろん、動けない体の方を人質にとられないように、神殿への突入と同時進行で行う必要がありますけどね」
「そ、その通りではあるのですが、それが一番難しいというか……。仮にも切り札だとされてきた存在ですから、そう簡単には倒せるものではないはずです」
まあ、『神殿』関係者からすればそう考えるのは当然だし、切り札が弱くては話にならないから相応の強さだろうとは思う。
だけど、戦い方次第では案外何とかなる気がするのだ。
根拠は二つ。一つ目はその数だ。本当に強力無比で天下無双の絶対無敵であるならば、守護神的な感じで一体にすると思う。
しかしソウルイーターは現在確認できただけでも五体もいる。起動できていないだけでもっといるかもしれない。そうなると一体一体の能力は必然的に下がってくることになる。
要するに質よりも量を取っているのではないかと思ったのだ。
これは想定していた相手の違いであり、敵軍から神殿や町を守ることを考えれば一定の数は必要になるため、間違っているということではないので念のため。
続いて二つ目。その大きさだ。質量は力だ。単純に大きければその分だけ強くなる。多少動きが遅くても、そして正確さに欠けていたとしても大きさでカバーできるのだ。
さて、問題のソウルイーターさんですが、通常の頭を下げた姿勢であればその体高は三メートルにも届かないくらいで、グイっと頭を持ち上げても、ようやく四メートルに届くくらいでしかない。
先日皆と戦った二体の『ミュータント』の方が大きかったくらいだ。
以上の二点からソウルイーターは時には連携した動きを取りながら、大勢で押し寄せてくる敵から神殿や町を守ることを目的として運用されるのではないかと考えられるのです!
「だからね……」
そこまで説明してから、ボクは部屋中にいる人たちを見回してニコリと微笑んだ。
「五体のうち一体はボクとうちの子で引き受けるよ」
と、自信満々に言い切ったのでした。




