323 まだまだ問題は山積みです
「あ!リュカリュカちゃん、お帰り!怪我はしていない?変なやつらに襲われなかった?」
予定外だったお邪魔虫たちを退治してサウノーリカ大洞掘にある砦に戻ったボクを待っていたのは、やけに心配そうに尋ねてくる仲間たちだった。
あ、ミロク君は魔族たちの町へ様子を見に戻ったので別行動だ。
「かすり傷の一つもなく元気ですよ」
答えながら、出番がなく退屈していたであろううちの子たちを『移動ハウス』から出してあげる。すると、プレイヤー――男女比は同じくらいだったね――を中心に黄色い歓声が上がり、あっという間に人の壁ができて取り囲まれていた。
元々はシュレイちゃんへの視線を逸らす目的で始めた事だったのだけど、今ではすっかりここのマスコットとして定着してしまっているような気がする。
可愛がってくれるのは嬉しいけれど、あげませんからね!?
定着といえば、この砦自体も『聖神教』の本部として認識されてしまったね。
まあ、大洞掘間通路を通り抜けてくるか、それとも『転移門』を用いるかの二つの方法でしかやって来る方法がない。よってとても守りやすいため当然といえば当然の結果なのだけど。
その二つのルートすら、現在魔王様謹製の『結界』によって、特定の人しか通れないようになっているので、『アイなき世界』において屈指の安全な場所になってしまっていた。
大洞掘間通路の方なんてひどいよ。サウノーリカ大洞掘への出口直前に結界が張ってあるものだから、そこに到着するまでが既に一苦労なのだ。
しかも、ロピア大洞掘側から追い立てられてしまうと、あっという間に逃げ場のない袋小路に早変わりしてしまう。
今ではすっかり『神殿』から差し向けられた刺客を捕まえては監禁しておく場所になっているそうだ。
「ところで、一体どうしたんですか?戦いの状況や、その後の捕虜になった人たちへの質問とかは定期的に報告しておいたはずですけど?」
みなみちゃんさんたちにもだが、ジャマナイ平原での圧勝の様子は既に伝えてあったので、先ほどの心配のされ方は随分と過剰であるように感じたのだ。
「実はね、戦いが終わった直後くらいから掲示板で騒ぎだした連中がいたのよ」
どうやら負けた腹いせに、さも本当のことのようにないことないことを書き連らねたり、口汚く愚痴や文句を言い合っているらしい。
「書かれている内容とタイミングから、北西諸国の方についていたプレイヤーたちだってことはすぐに分かったのだけど、ちょっと物騒な書き込みもあったから少し心配していたんだ」
「まあ、すぐに『大豆畑を守ろう会』の方から一連の動画が公開されたりして嘘だってバレたんだけどね。それでもしつこく書き込んでいた連中は通報されて、運営からの警告を受けていたわ」
ID等の個人情報については運営によって管理されている。「ゲームの中だから」といって暴虐に振る舞っていると、そのペナルティがリアルにまで及んでしまうこともあり得るのだ。
まあ、PK行為などが容認されていることもあって、今のところは一時的なアカウント停止くらいしか発生していないという話だ。
「うーん……。ボクは平気でしたけど、これからあちらで発生するかもしれないイベントに参加しようと北西地域に向かう人たちには注意を呼びかけておいた方がいいかもしれないですね」
土地勘があるとか言って近づいてきたりするかもしれないし、もしかするとイベントに参加したいなら自分たちのギルドに入れと強引な勧誘をする人もいるかもしれない。
「それは確かに起こりそうなことよね。急いで連絡しておきましょう」
ということで、ボクもみなみちゃんさんや多恵さんへと追加で報告しておきました。その後は柳眉さんたちが公開したジャマナイ平原での戦いの動画を見たりして、皆で盛り上がった。
ちなみにその動画は『ムッハー!圧倒的ではないか!』とか『悪・即・断!』とか『刹那のきらめき。お前たちの雄姿は忘れない……』とか『駆逐。鬼畜?』などなど様々なサブタイトルが付けられて拡散されていくことになったのでした。
そして翌日、砦の一室でジャマナイ平原での戦い等の報告と、これからの行動についての話し合いが行われていた。
参加しているのは『聖神教』の代表ファルスさんと副代表のランドルさんに加えて『神殿』関係のNPCが数名。
プレイヤー側からは不肖このボク、リュカリュカとタクローさんに先輩さん、姉御という面子だ。そしてミロク君は魔王であることやプレイヤーであることを隠して、一魔族としてジョナさんたちに紛れていた。今日も彼の技能は絶好調のようです。
「まず初めに、リュカリュカ殿、突然の侵略への対処を受け持っていただき、ありがとうございました。お陰で聖地ホルリアに集まっている『神殿』の者たちの身の安全だけでなく、中央地域に戦火が広がるのを防ぐことができました」
「お礼なら色々と動き回ってくれた魔族さんたちと、実際に戦った『大豆畑を守ろう会』にしてください。まあ、『大傭兵団』の方にはマジックアイテムに軍馬、装備品など十分以上の報酬を上げていますから、必要ないと言われるかもしれませんけど」
茶化したようなボクの言葉に集まった人たちから笑顔がこぼれる。その中でファルスさんは魔族さんたちへと深々と頭を下げていた。
「こちらも利があると踏んだから動いたまでのことっす。だからこれ以上の礼は不要っすよ」
そして魔族側はジョナさんが話を進める役となっているもようだ。
「北西地域にはリュカリュカさんたちが冒険者を誘導してくれたので、これ以上の邪魔は入らないと思うっす。それとこれまで通りこちらで監視は続けていくので、何かあったらすぐに連絡するっすから、その辺りは安心して欲しいっすね」
魔王様直属の諜報部隊が監視とは北西地域の国々もVIP待遇だね。
ボクなら全力で遠慮するけど。
「そうなると残る問題は、これからどうするか、いや、いまさら言葉を言い繕っても仕方がありませんな。『神殿』との決着をどのような形でつけるか、ということになりますか」
ランドルさんの発した一言に部屋の空気が一気に重たくなった。
そんな中でボクは、この一件が治まったら今度はどこに行こうかな?なんて現実逃避をしていた。




