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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
19 邪神をやっつけろ!
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320 『嫌い』から『好きじゃない』へ

 暗示の上書きもできたことだし、これでようやく質問をすることができると思ったのも束の間、一人の魔族さんが慌てた様子でやって来たことで中断することになった。


「ミロク様、申し訳ありませんがあちらにいる残りの者にも暗示がかけられていないかの確認をしていただけないでしょうか」


 言われてみれば確かに、ここにいる人以外にも思考誘導状態にされている人がいてもおかしくはない。

 最低でも副官クラスの数人が、邪神が直接行動したのであれば全員が暗示をかけられている可能性すら出てくる。


「そうした方面に強い者もいたはずだろう?」

「はい。その者たちが数名からそれらしき反応があると報告があったのですが、暗示を上書きするまでには至らなかったようなのです」


 おー、さすがは魔王様直属の諜報部隊。すごい技能を保持した人がいるものだね。

 そしてそんな人ですら難しいことをあっさりとやり遂げたミロク君は、既に魔王のカテゴリーからも逸脱しているような気がする。


 具体的に言うと、この世界の神様たちと同格になりつつあるんじゃないでしょうか?

 結局は逃げられたけど、帝都では邪神を捕まえたっていう話だし、あながちこの推理も極端には外れてはいないと思う。


 そしてそんな魔王様はというと、


「仕方ない、自爆なんてされても面倒だし先にそちらを片付けておくか。リュカリュカちゃん、悪いけどちょっと待っていてくれ。……ああ、先にそいつらから聞き取りをしてくれていてもいいぜ」


 と、申し訳なさそうだったのは最初だけで、途中からはいたずらっぽい顔と口調でそんなことをのたまってくれました。


「そうだね。どこまで聞き出せるかは分からないけど、うちの子たちもいるし先に始めておくよ」


 まあ、ボクとしてもミロク君におんぶに抱っこでいたい訳じゃないからね。できることから進めて行く所存ですのことよ。

 魔王様はボクの答えに満足したのかニカッと気持ちのいい笑顔を浮かべていた。


「頼んだ。連絡役に彼を置いていくから何かあったら知らせてくれ」

「了解」

「何もないとは思うけど、リュカリュカちゃんの警護を頼んだ」

「命に代えましても」


 いやいや、代えられるとボクが困るんですけど。ジョナサンの軽い雰囲気に慣れてしまったからなのか、この魔族さんの受け答えがとっても堅苦しく感じてしまうなあ。

 ミロク君としても彼の返事は微妙だったようで、ちょっと困った顔をしながらも北西諸国連合の兵たちが集められている方へと向かって行ったのだった。


 それでは任された仕事に取りかかるとしますか!


 と、思ったんだけど……。

 えーと、警護として残された魔族さんが、なぜかボクのことをめっちゃ見ているんですが……。


「あ、あの、何か?」

「…………」


 お願い、喋って!

 無言でいられるととてつもなく気まずいですから!

 そんなボクの心からの錆が伝わったのか、魔族さんはゆっくりと口を開いた。


「先に言っておきますが、私は人間が嫌いです。いえ、魔族以外の全ての種族が嫌いだと言った方が適当でしょう。当然、あなたとも馴れ合うつもりはありません」


 おおう!ここにきて初の人間嫌いなキャラが登場ですか!?と、実はそれほど驚いてはいないのだけれどね。

 ミロク君はまた違った意見を持っているのかもしれないが、人間側が魔族たちを共存できる相手なのか判断しようとしているのと同じく、魔族の人たちもまた人間を始めとした他の種族が共に生き、交流するに値するかどうかを見極めようとしていると、ボクは思っていた。

 しかもお互いにかなりの疑惑を抱えていると見ている。現時点でそうした疑念を全くと言っていいほど持っていないのは、お米という餌をぶら下げられているプレイヤーたちくらいのものだろう。


「ですが私の感情と任務は別です。魔王様の命に反するような行いはしないと誓っておきましょう」


 プロだ。プロフェッショナルがいる。

 ちょっとお堅い気もするけど。


「魔族の方々のしっかりとしたお仕事具合は信頼しているから、何の心配もしてないよ。それと、あなたの心情についてもある程度は理解できるつもりでいるから気にしなくで」


 ボクの言葉に魔族さんは一瞬何かを言いかけたのだが、すぐに止めてしまった。

 やっぱりお堅いね。ジョナさん辺りなら「あっはっは。例え本当であってもそういうことは軽々しくは言って欲しくないっすね」と、見る者が底冷えするような目で返してくるだろうから。

 まあ、シュレイちゃんによると彼は魔族の中でも特殊な部類らしいからあまり参考にはならないかもしれない。


「きっとほとんどの魔族がそう考えているんだろうね」

「それは……、私からは答えかねます」


 その返事自体が肯定しているのと同じことだってことに気が付いているのかな?分かってやっているとしたら案外策士だよね。

 くそう、表情はフラットなままなのでどちらとも言えないよ。これは少し矛先を変える必要がありそうだ。


「それじゃあ、まずはあなたから「人間のことは嫌いじゃない」と言ってもらえるように頑張りますかね」

「は……?突然何を言っているのですか?『嫌い』であることも『好きではない』ことも言い方を変えただけで同じことでしょう」


 いきなり個人へとピンポイントに狙いをつけたこともあってか、魔族さんは想像以上に驚いてくれていた。

 ふふん!鉄面皮(てつめんぴ)を破ってやりました!


「チッチッチッ!違うよ、全然違う。嫌いっていうのは例えるならマイナスの状態なの。で、反対に好きっていうのはプラスの状態。だから好きじゃないっていうのはプラスに傾いていない全ての状態のことなんだよ」

「……詭弁(きべん)(ろう)しているようにしか聞こえませんね」


 実際その通りです。

 だけど、


「それはまだボクのことを嫌いだからだよ。好きじゃないに変われば「そんなものかな」って思えるようになるから」


 感情というのは意外とそういうあやふやなものだったりするのだ。ほんの少し立ち位置が違うだけで、ほんの少し考え方が違っただけで大きく変化することもある。


「まあ、ボクとしても何か特別なことをするわけじゃないし、難しく考えずにいつも通り仕事をこなしていてくれればいいよ」


 そう告げると魔族さんは怪訝な顔をしながらも一応従ってくれるようだった。

 ボクの方としてもやることが増える訳じゃないし、そう言う他なかったので従ってくれてホッと一息といったところだ。


 さて、予想外に時間がかかってしまったし、さっさと質問を開始することにしようか。


魔族さんたちは魔王であるミロク君のことを信頼しているし、尊敬もしているので、彼のやることに文句を言うつもりはありません。また、心の奥底では上手くいって欲しいと願ってもいます。


しかし、長年抱えてきた負の感情というものも簡単に捨て去ることはできないので、彼のような状態になっている者が多いです。

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