316 開戦直前
「そういえばリュカリュカちゃん、向こうの軍に『賢人の集い』の魔法使いがいるっていうのは確定なのか?」
「それは間違いありませんよ。魔族の、魔王様直属の諜報部隊の調査によると、昨日の移動時には隊列の中心近くにいたそうです。あ、数はお伝えした通りちょうど百人です」
「そうか、間違いないか……。いや、疑っていた訳ではないんだが、こうして対峙してみても、俺たちではそれらしい連中が発見できていない、というか全員が同じような格好をしているから見分けがつかないんだ。その分、バカなプレイヤーの居場所はすぐに見つけられたけどな」
こちらがあえて装備を整えないことで寄せ集めの軍勢に見えるようにしているように、あちらは全員――プレイヤーは除く――を鎧姿とすることで魔法使いが紛れているのを隠しているようだった。
「一応、魔法使いたちの鎧は革製らしいんですけど、遠目では周囲の騎兵たちと同じ金属製の鎧に見えるように加工してあるっていう話ですからね……。実際ボクにもどこに魔法使いがいるのかさっぱり分かりませんでした」
技術力の無駄遣いというかなんというか。どうにも力を入れる部分を間違っているような気がしてならないよ。
「それをあっさり見破るんだから、魔族の諜報部隊の実力はとんでもないな……」
その言葉に、ボクの背後にいたミロク君の気配が揺らぐ。部下を誉められて嬉しい気持ちは分かったから、魔王様だってバレないように注意してよ!?
「俺たちも諜報系にもっと比重を強めた方がいいかもしれない」
「いいな、それ!今度からは情報戦込みで色々戦ってみるか!?」
「斥候をしている連中に呼びかけてみるか?むしろ盗賊系の職のプレイヤーを新規募集して、諜報系の技能をメインに取ってもらうようにするべきか?」
と、今後のギルドバトルに向けて研鑽に余念がないお三方なのでした。
それにしても情報戦込みの戦いってどんなことをするつもりなのか……。伏兵の偽の居場所を教えたり、戦いに参加する人数を誤魔化したりだとか?
まさか対戦相手の国に密偵を放って偽情報を流すなんてことまではやってしまうのでしょうか!?
おっと、思考がそれちゃった。まずはこの戦いにきっちり勝利して『神殿』との決着をつける時に余計な邪魔が入らないようにしないと。
「それで、何か魔法使いへの対策はしているんですか?」
「魔法耐性が高いやつとか魔法耐性がある装備しているやつを前線に配置しているくらいだな。後は状態異常を引き起こすアイテムを持たせているくらいか」
アンチマジック系のスキルや能力が見つかったという噂は何度も掲示板に現れているのだけれど、残念ながら未だに実証されてはおらず、嘘だったか勘違いだったかなのだろうと言われている。
基本的に魔法使いに遭遇した場合、魔法を使われる前に倒すことが最善の手だと言われているほどだ。
「ああ、それと奇襲への用心はしているぞ」
「奇襲?」
「ああ。一度反則なしでギルドバトルをやったら、陣が完成した瞬間に遠距離から魔法で狙い撃ちされたことがあったんだよ」
柳眉さんが「こいつにな」と指さした先にいた孟宗竹さんがニヤリと笑う。
「味方を巻き込む心配もしなくていいし、広い敵の陣なんて格好の的だったからな!ああ、言っておくが、魔法だってどこまでも届く訳じゃないし、狙った場所に当てるのは難しいんだからな」
『アイなき世界』にも物理法則っぽいものはあるので、魔法での遠距離攻撃もそれに則っている必要があるのだとか。
例えば重力や空気抵抗などを加味しておかないと、失速して狙いよりも手前に着弾することになるそうだ。
それはともかく、そうした経験から奇襲として魔法が飛んでくるかもしれないと警戒していたのだそうだ。
「今さらなタイミングで行動しているし、戦いの美学なんて気にしていないだろうし、下手をすれば倫理観なんてものも放り捨てているかもしれないからな」
勝つためならどんなことでもしてくる、か。はっきり言ってそこまでは考えてもいなかったよ。だけど数では大きく負けている訳だし、卑怯な手だって使ってくるかもしれないのか……。
しかし、三人ともそこまで考えているだなんて、普段から大人数での戦いを繰り返しているだけのことはあるね。やっぱり彼らが負ける未来なんて全然想像できないや。
ふと天幕の外が騒がしくなってきた。
「報告します!敵陣に動きがあった模様です」
「お?ようやくか。それじゃあ行くか」
「はっは!先頭に立つのは久しぶりだから腕がなる!」
「おい待て。もしかしたら俺の出番があるのかもしれないんだから、早まった真似だけはするなよ」
緊張することもなく、ただただ楽しそうな三人に続いて天幕を出る。
元からボクは『聖神教』との調整役なので戦うつもりはなかったけど、……うん。やっぱり出番は全くありそうにないね。うちの子たちもこのまま『移動ハウス』の中でゆっくりしていてもらうことになりそうだ。
「どんな様子だ?」
総大将の検索さんが望遠鏡のような物で敵陣を観察していた一人に声をかける。
「偉そうなやつが一人出てきそうな雰囲気ですね」
「おお!俺の出番がありそうなのか!?」
このままなし崩し的に戦闘になるのかと思われていただけに、出番がありそうだと聞いて孟宗竹さんのテンションが上がっていく。
「それ以外の動きはどうだ?前列の配置が変わった所などはないか?」
「今のところは見当たりません」
「魔法での奇襲は考え過ぎだったか……?」
「まだそうとは言い切れないだろう。向こうの魔法使いは『賢人の集い』から派遣されてきたやつらだというし、後方からでも十分に攻撃できる腕の持ち主なのかもしれないぞ」
「だな。タイミングとしては舌戦している時か、開戦直後あたりが危険か」
「いや、多少の損害に目を瞑るのなら先頭同士がぶつかり合った時というのも考えられる」
プレイヤーなら巻き込んでも死ぬことはないし、十分に作戦として成り立つらしい。
「ともかく、魔法への警戒は続けたままこちらも開戦の準備だ。柳眉、お前と一緒に先陣を切るやつらには魔法が飛んでくるかもしれないことをきっちり伝えておけよ」
「もちろんだ。ところでその時どう動くのかはこちらで判断していいんだな?」
「ああ。好きにやれ」
検索さんの言葉に獰猛な笑みを浮かべる柳眉さん。他の二人に比べると落ち着いて見えていたけど、やっぱりこの人もバトルジャンキーだわ。
そして開戦の時は刻一刻と近づいてきていた。




