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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
19 邪神をやっつけろ!
324/574

315 『大豆畑を守ろう会』

 ロピア大洞掘北西地域のほぼ南端にジャマナイ平野という広大な草原地帯がある。

 三角大水柱を中心に広がるセラント内海の北西から西にかけて広がるこの場所は、非常に肥沃ながらも治水の面で難があるそうで長らく放置され続けてきた土地でもある。


 そんなジャマナイ平原で、二つの軍勢が対峙していた。


 一つは北西地域諸国連合軍。明らかにされた『神殿』の腐敗に対する義憤から立ち上がり、堕落した『神殿』から聖地ホルリアを奪還せんと南進してきた。

 しかしそれは表向きの名目で、本当のところは土地が豊かな中央地域への侵出ではないか、と推測されていた。


 およそ千名の全てが騎兵で構成されていて、軍の旗揚げからわずか二日で北西地域南端のこの場所までやって来たのだった。

 中心となるのは各国の精鋭の騎兵たちだ。国ごとに多少の意匠は異なっていたけど、数百人の鎧姿は圧巻の一言だった。


 そしてミロク君配下の魔王軍諜報部隊の調査によれば、『賢人の集い』から派遣されて来たと思われる魔法使いがちょうど百名いただけでなく、九十七人の冒険者(プレイヤー)も含まれていた。

 そう、残念ながら彼らはみなみちゃんさんたちからの最後通牒(さいごつうちょう)を聞き入れることなく戦いの道を選んでいたのだった。


 対するもう一つの軍はというと、有志のプレイヤーのみで構成された討伐部隊である『大豆畑を守ろう会』だ。

 外見こそバラバラだったけれど、全員が「聖地ホルリアの周囲に広がるミソやショウユの原材料である大豆畑を荒らさせてなるものか!」と同じ思いを共有していて、高い士気を保っていた。

 その集まった人数はなんとなんと驚きの千七百人以上で、北西連合軍を大幅に上回っていたのだった。


「あちらさん、平静を装っているけど内心では冷や汗ものだろうな」

「いきなり自分たちの二倍近い数の軍に遭遇したんだから驚いたに決まっているよ」


 そんな『大豆畑を守ろう会』の陣の端っこにボクとミロク君はお邪魔させてもらっていた。

 ちなみに、ボクが彼らと『聖神教』との間の調整役で、ミロク君――本来のプレイヤーネームであるグドラクと名乗っている――はボクの護衛役ということになっている。


「動揺している兵たちに部隊長辺りが「落ち着け!相手は数ばかりの烏合の衆に決まっている。個々の練度も隊としての練度も我々の方が勝っているはずだ!」と檄を飛ばしている頃かな」


 ミロク君はまるでその様子を直に見て来たかのように言った。いや、実際彼の能力なら本当に見えているのかもしれない。

 ちなみに、そう思われるようにわざと(・・・)武具を統一しないようにしていました。


「まさか西部地域で毎日のように大規模戦闘をドンパチやっている人たちが来たとは思ってもみないだろうね」


 今回集まってくれたプレイヤーの大部分が西部地域の三国に別れて大規模なギルドバトルを日夜繰り広げている三つの『大傭兵団』のメンバーさんたちだった。

 ミロク君が古都ナウキにミソやショウユの情報を伝えてしまったため、大豆の生産地からほど近い場所にいたにもかかわらず、彼らはミソとショウユを口にする機会が遅れていた。そしてようやくミソとショウユの入手が安定し始めた矢先、今回の北西諸国連合の侵攻が起きたのだった。


 彼らのミソとショウユにかける思いは凄まじく、あっという間に停戦協定を結んだかと思うと、北部諸国連合を迎撃するため『大豆畑を守ろう会』を結成して、このジャマナイ平原へとやって来たのだった。


「集団戦闘なんて得意中の得意で大好物っていう人たちばっかりだもんなあ……。ダメだ、鎧袖一触であちらさんが蹴散らされる未来図しか想像できなくなってきた……」


 ミロク君じゃないけど、そうなる可能性はかなり高いと思う。


「向こうにいるプレイヤーでこの事に気が付いた人っているのかな?」

「どうだろうな……。敵対が決まった時点で直接のメールのやり取りとかはできなくなっていたんだろう?気付いていなんじゃないか。というか、むしろ気付かない方が幸せだと思うぞ」


 そうだね。ただでさえ数で負けているのに、その上戦闘技術でも勝てる見込みがないと分かったら辛いものがあるよね。勝てるかもしれないと思わせてあげるくらいの慈悲はあってもいいと思うの。

 まあ、残念ながら傍から見れば道化であることには変わりはないのだけれどね。選択したのは本人たちなのだから、それは甘んじて受け入れてもらおう。


「ところで、舌戦というか戦いの前にお互いの主張を言い合ったりはするのか?」

「相手がやるのならそれに合わせるってさ」


 壮絶なジャンケン大会の末、こちら『大豆畑を守ろう会』の総大将は『誤損大傭兵団』のギルド長の検索(けんさく)さんが、先陣を切る一番槍に『閑職大傭兵団』のギルド長の柳眉(りゅうび)さんが、そして口上を述べる役には『擬装大傭兵団』のギルド長の孟宗竹(もうそうだけ)さんがそれぞれ就くことになっていた。

 そのため、出番が欲しい『擬装大傭兵団』のギルド長以外の人は、あってもなくてもどちらでも構わないという感じだった。


 そしてものすっごく余談だけど、三人のうちで一番喜んでいたのは一番槍役を取った『閑職大傭兵団』のギルド長だったりします。どんだけバトルマニアなのよ……、と心の中で呆れていたのは秘密です。


「リュカリュカさーん!グドラクさーん!そろそろ本陣の方へ戻って来てくださーい」

「そろそろ時間のようだな」

「だね。それじゃあ戻ろうか」


 自陣のどこにいても聞こえるほどの大きな声で呼ばれたボクたちは、中心やや後方に建てられた本陣の天幕に向かって歩き出したのだった。


「おう、リュカリュカちゃん、こっちだこっち」


 天幕に入るとすぐに総大将の検索さんに手招きされた。


「何か動きがありましたか?」

「いいや。さっぱりだ。舌戦の準備も含めてまるで動きがない。こりゃあ、俺の出番はないかもしれないな」


 とぼやいたのは孟宗竹さんだ。


「いいじゃないか。俺と一緒に退屈していようぜ」

「いやいやいや、総大将は別に暇じゃないだろ」


 戦場に出ることができないので若干不貞腐れ気味の検索さんに、柳眉さんが苦笑しながら突っ込んでいる。

 普段から戦い合っているので仲が悪いのかと思っていたら、全くの逆で、この三人はとっても仲が良かったりします。


「向こうの陣営にはNPCの中でも高レベルな魔法使いが混じっているので、油断は禁物ですよ」


 なんて、言わなくてもきっとわかっているのだろうけどね。


今回登場した三人の『大傭兵団』のギルド長たちの名前は、ギルド名と同じく三国志から拝借してこねくり回してつけています。

まあ、元ネタが誰なのかはバレバレだとは思いますけどね。

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