313 想定外の参戦
キャンペーン合戦が始まってからさらに数日後、ボクたちの裏工作が実り『冒険者協会』が『聖神教』を支持すると表明したことで事態は大きく動き出す。
相手を叩くのではなく、自分たちの求めていく世界を訴えることに注力するように変更したことも、この流れが受け入れられる下地となっていた。
『神殿』側は「甘っちょろい夢想に過ぎない」と非難していたけれど、「語れる理想もなくただ漫然と権益にしがみついているだけ」だと一蹴してやると、徐々に静かになっていった。
そして、もっとも動向が注目されていた『賢人の集い』は中立を宣言して傍観の構えを取ることになる。
同じ世界的規模の組織であり、これまで何度も協調して世界の秩序を維持してきた『神殿』からしてみれば手ひどい裏切りのように見えたのかもしれない。
『冒険者協会』だけでなく『賢人の集い』を非難する声明も数多く発せられたのだった。
次善の策としてなのだろう急遽『神殿』側は各国を味方に引き入れようと動き始めたが、時すでに遅し。
その頃にはもうこちらの二つ目の作戦が動き出していた。モーン帝国と古都ナウキが連名で『聖神教』の支持を表明したのだ。
東部の『神国』は元々『神殿』と距離を取っていたこともあり、ラジア大洞掘の全域が反『神殿』となってしまったのだった。
そして世界最大の国が立場を表明したことにより、日和見で勝ち馬に乗ろうと事態の推移を見ていた国々が一斉に『聖神教』側へとつくことになった。
はっきり言ってこんな有象無象の連中なんて信用できたものではないのだけれど、ファルスさんたちから言わせれば「労せずに言質を取ることができた」ので大成功ということになるらしい。
過去の『神殿』の悪行の洗い出しに再建の際の援助と、扱き使ってやる気満々のようだ。結託して甘い汁をすすっていた者もいるようだし、自業自得で因果応報というものだ。
と、この時点で趨勢はほぼ決まったといっても過言じゃなかった。
「キャンペーン合戦だけでここまで有利に立てるとは予想外でした」
実はサウノーリカ大洞掘の砦での戦い以降、小競り合い程度の武力衝突すら起きていなかったのだ。
「戦闘を担当する『神殿騎士団』の多くを序盤から押さえていたというのが大きいわね」
神殿騎士はその過酷な仕事に反して『神殿』全体から見ると低い地位に追いやられていた。その元々の理念自体は決して悪いものではなかったけれど、時が経ちそれが当たり前のようになってくると、増長するおバカも現れるようになっていた。
清廉潔白を第一にしているならばともかく、欲にまみれて自分は偉いのだと勘違いしたような輩に上から目線で指示されれば不満もたまっていく。
『聖神教』の発起人にランドルさんが名を連ねていたこともあって、たくさんの神殿騎士さんたちがすぐに合流してきていたのだった。
驚きだったのが先輩さんだ。なんとプレイヤーながら『神殿騎士団』内では知る人ぞ知る有名人で実力者だったそうで、彼がいることが知れると「このような世間を騒がす行いに参加して良いものなのか?」と悩み迷っていた人たちが、ほとんど根こそぎ合流してきたのでした。
そういった経緯もあり、『神殿』側はまともに戦える戦力すら持ってはいない状態だったこともあり、キャンペーン合戦だけであちらの勢力圏を聖地ホルリアとその周辺のみに追い詰めることに成功していた。
「ですが、まだ油断はできませんよ。聖地ホルリアには数千人の『神殿』関係者が集まっていていると言われているんですから」
予想以上の好展開にちょっと浮かれていたボクとみなみちゃんさんに遥さんが釘を刺す。直接戦闘能力は低くても『神殿』関係者の多くは魔法の素質を持っている。そして彼らや神殿騎士だけが使える神殿系の魔法の中には精神に作用して、いわゆる状態異常を引き起こすようなものもあるらしいのだ。
「最悪、邪神によって彼ら全てが操り人形にされているという可能性もありますからね」
睡眠に混乱、幻覚になるような魔法が乱れ飛んでくるとか悪夢だよ。下手をすれば接近すらできずに瓦解してしまうかもしれない。
それに操られているとなると、捨て身前提の無茶な攻撃を仕掛けてくるかもしれないのだった。
「大変!大変だよ!」
と、各地のギルドとの連絡調整をしているはずの棗さんが慌ててボクたちがいる部屋へと飛び込んで来た。
「ロピア大洞掘北西地域の小国家が結託して、聖地ホルリアに向かって進軍を始めたみたい!」
「どういうこと!?」
「なんでも「聖地に巣くう自称聖者を根絶やしにしてあるべき姿を取り戻す」とか言っているそうだよ。後、未確認情報だけどいくつかの攻略系ギルドがそれに参加しているらしいわ」
「せっかく『聖神教』や私たちが穏便な方法でやってきたっていうのに、それを全部台無しにするつもり!?」
ボクたちだって全ての『神殿』関係者が悪事を働いていたなんて思ってはいない。むしろ大半の司祭や神官さんたちは真面目に日々の務めを果たしていたはずだ。
だからこれまで双方ともに被害が出ないように、できるだけ戦闘を回避するように心がけてきたっていうのに!
「北西地域の小国家群といえば最後まで態度をはっきりさせなかった連中ね。このままだと流れに置いて行かれると焦ったのかしら」
「北西地域に出張っていたのは攻略系でもトップギルドからは数段落ちる連中だっていう話を聞いたことがあるよ。ここらで新人確保のためにも目立っておきたいっていう腹積もりなのかも」
うにゃー!
どっちも自分勝手ではた迷惑な人たちだ!
「とにかくリュカリュカちゃんは『聖神教』と魔族に連絡して。私たちは他のギルドと連携して情報を確認、可能であれば参加しているギルドの説得をするわ」
素直にこちらの言う事を聞くような相手ならそもそもこんな抜け駆けのようなことをするはずはないから、多分説得は失敗に終わってしまうだろう。
そうすると、時間との勝負ということになる。ファルスさんたちがいるサウノーリカの砦へと向かうため、ボクは急いでミロク君に連絡を取ることにした。
「その話はオレも報告を受けたばかりだ。プレイヤーの数はおよそ百で、騎馬ばかりだが全部で千人を超える規模の大軍団だそうだ」
『転移門』のある広場へと走りながら、ミロク君が得た情報を教えてもらう。
「騎馬!?ということは、移動速度はかなり早いの?」
「ああ。急がないと間に合わなくなる」
ボクたちの顔は、どんどんと苦み走ったものになっていったのだった。




