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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
18 神殿 対 魔族
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311 お米の力!

 説明再開から三十分が経過し、ようやく一通りの経緯を話すことができていた。

 隠しているのはシュレイちゃんが大規模イベントの際の黒幕だったことと、魔王のミロク君が実はプレイヤーであることの二つくらいだ。


「ふむふむ。つまり『神殿』から一方的な反逆者扱いされてしまわないように、『冒険者協会』を形だけでも後ろにつけたいっていうこと?」

「ちょっと違います。どちらかと言えば『神殿』そのものに対するよりも、世間一般に向けてのものですかね。ボクたちが行動を起こしたことには、きちんとした理由があるっていうことを伝えるためです」


 魔族さんたちのことに関しては『神殿』とその背後にいる邪神との戦いが終わった後に、じっくり進めていくべきだろう。

 ある種この世界のお客様であるボクたちプレイヤーであれば気にならないようなことでも、この世界で暮らし生活しているNPCたちにとってはこだわるべき事柄だったりもするものだ。

 偏見や捻じ曲げられた歴史を点検していくだけでも相当の時間と労力がかかるだろうし、いっぺんに解決できる問題ではない。


 そういう意味では今回の出来事は絶好とは言えないまでも、それなりに良い機会だったのかもしれない。『神殿』上層部と邪神には、多くの人が抱いている魔族さんたちへの悪印象を薄れさせるために、精々悪役を演じてもらうことにしましょうか。

 などと黒いことを考えるリュカリュカちゃんなのでした。


「しかし組織を動かすとなると、それ相応の証拠というものが必要になってきますよ?」

「そちらの方は主にNPCの神殿騎士さんたちが動いてくれています」


 遥さんの疑問に答える。こちらは現在、各地の神殿関連施設へと飛んで色々と探ってくれているはずだ。

 大規模イベントの時には古都ナウキの神殿を任されていた司祭なども賄賂を受け取っていたというくらいだから、きっと面白い証拠資料が多数発見されるだろうと思われます。


「証拠を提示できるなら、監査祭の一件もあるから『冒険者協会』を味方につけるのは問題ないでしょう。後は邪神ね……。聞いた話だと帝都に現れた邪神は、バックスや『諜報局UG』のユージロ、それに現地の高レベルプレイヤーをあっさり返り討ちにするようなとんでもないプレイヤーを利用していたらしいわ」

「利用、ですか?」


 帝都でとんでもなく強いプレイヤーと戦って負けたという話はバックスさんからのメールやミロク君から直接聞いて知っていたけれど、邪神がその人を利用していたというのは初耳だ。


「魔王の乱入があって不利になったと悟ったのか、いきなり後ろからブスリとやられたそうよ」


 それはまたひどいことを……。味方であっても切り捨てることに躊躇しないとか、邪神という名前の通り完全に悪役を地で行っているね。

 やっつけるのに良心が痛まないですむとプラスに考えることにしよう。

 まあ、とんでもない強さのようなので、まともに戦えるのはミロク君くらいなものになってしまいそうだけど。


「ところでリュカリュカちゃん、そろそろあの話を聞かせてもらいたいのだけど」


 今後の大まかな方針についての共有ができた頃合いで、みなみちゃんさんが尋ねてきた。

 心なしかそわそわしている。というか部屋にいる人全員、何やらうずうずしていた。多恵さん、マイさんの『料理研究会』コンビにいたっては目の色まで変わっているようにすら見えるよ。


 ……これは、まずいね。本当は少し引っ張ってありがたみを感じてもらってから現物を、などと考えていたが、そんなことをすると暴動が起きかねない雰囲気だ。

 身の安全を確保するためにもさっさと渡してしまいましょう。


「話よりも先に現物を見て、食べてもらった方がいいですよ」


 アイテムボックスから小さめのテーブルを取り出すと、その上に大皿をドンと載せる。

 お皿の上には大量の一口大のおにぎりが山のように盛られていた。


「サウノーリカ大洞掘で魔族さんたちが育てていたお米を分けてもらって作ったおにぎりです。量がなくて申し訳ないですが、一人一個ずつ取っていってください」


 結論から言いましょう、おにぎり自体は大好評でした。

 だけどその手順は大失敗だった。その後の数分間はまるで戦争のような状態で、我先におにぎりへと殺到する集団はとても怖かったです。現物を見せるより前に、並んでもらっていれば良かったよ……。


「はあー、美味しかったあ……。リュカリュカちゃんありがとね」


 ほんの一口をじっくりと堪能した後、多恵さんがお礼の言葉を口にしていた。


「いえいえ。喜んでもらえて良かったです。あ、マイさん、こっちもほんの少しですけど、種もみを分けてもらえたのでお渡ししておきますね」


 貰えた種もみは全部合わせても両掌で掬える程度の量で、マイさんに渡したのはそのおよそ三分の一、ボクの拳一個分ほどだった。


「ありがとう。で、現状これ以上は手に入らないのよね?」

「残念ながら。魔族さんたちの食糧事情もあまり良くはないらしくて……」


 ミロク君があちらに渡ったことで、サウノーリカ中に散っていた魔族が彼の元に集まってくるようになってしまったので、大量の食糧を確保しなくちゃいけなくなっているのだ。

 デカファングの大量のお肉をあげた時のように飢える人が出そうなほどの危機ではなくなったけど、まだまだ他所へ回すほどの余裕はないということだった。


「それじゃあ、何か代わりになる食べ物を準備して交易でも始めれば――」

「多恵ちゃん、落ち着いて。実績どころか互いの信用すらないのよ。例え物々交換であっても、いきなり交流するなんてことはできないわよ」


 思わず先走る多恵さんをマイさんがたしなめる。

 魔族さんたちが見極めようとしていることは、人間という種族が信頼に足るようになっているのかどうかという点に尽きる。

 ボクたちプレイヤーが頑張って彼らと仲良くなることは当然必要なプロセスだけど、それだけでは足りないのだ。


「みなみちゃんさん!私たち『料理研究会』は今回の作戦が成功するようにどんな協力も惜しみませんよ!」

「ありがとう、多恵ちゃん。もちろん私たちもその方向で動くつもりよ」

「わしら『最弱ウェポンメイカー』も一枚噛ませてもらうぞ」


 ええっ!?ドワーフさん――正確にはそっくりさん――は超ヒット商品、いい音ハリセンを世に出した『最弱ウェポンメイカー』の人だったの!?一体いつ仲良くなったんだろう?

 ボクがサウノーリカ大洞靴まで旅をしている間に、こちらでも色々とあったようだね。ちょっと寂しい。


 まあ、なんにせよ、これで『神殿』と対決するための準備をまた一つ進めることができたみたいだ。


 ほとんどお米のお手柄のようになっているけど、それは気にしちゃいけないのです!


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