309 引き込み成功
それにしてもあえてレベルのことを話したのに、誰もミロク君がプレイヤーだとは考えなかったようだ。規格外もいいところだから、自分たちと同じだとは到底思えなかったのかもしれない。
ミロク君の事情については、いくつかヒントを出してみて気が付かれた場合にのみ説明するということにしていたので、このままだと秘密にしておくということになりそうだ。
「待って、そもそもどうして魔王は出張って来たの?魔族たちが援軍に来てくれたお陰で私たちには十分以上の勝機ができていた。魔族と魔王が繋がっていると知られるリスクを冒してまで参加する必要があったのかしら?」
ふむふむ。魔族が他の種族と敵対するつもりはなく、共存を望んでいることを前面に押し出すのなら、魔王なんていうよく分からない超存在との繋がりはかえってマイナスイメージを与えてしまう、と。
これは魔族側の思惑というか望みについてもう少し詳しく説明しておいた方がいいかもしれないね。
「魔王様がわざわざ出張って来た一番の理由は警告です。主にはボクたちプレイヤーではなく、NPCに対するものですけれどね」
都合のいい戦力として利用するだけ利用して裏切る、なんていうことがないようにするためのいわば予防線だ。
「それと、例え嘘だったとしても長い年月の間、魔族は敵だと信じられてきましたから」
思い込みというのは怖いもので、一度固まってしまうと崩すのはとてつもなく難しくなる。さらにそれが事実であったかどうかは関係なく、その現象は起きてしまうのだ。
「魔族たちとしては、他の種族に認められて共存していくという方向が最善だとは考えていますけど、それにこだわっている訳じゃありません。今までと同じような相互不可侵の状態を維持することが絶対条件だと考えています。つまり、奴隷はもとより、他人に顎で使われるくらいなら断絶を選ぶでしょう」
歩み寄る努力はするけれど、それで図に乗るような相手ならばすぐにでも縁を切ってしまうだろう。
試されている立場なのは、魔族だけではないのだ。
「もしも舐めた真似をするようなら容赦はしないという意思表示だったということか」
ものすごく大雑把に言えばそういうことになるのかな。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!もしも魔族たちが断絶を選んだとすると、米は……?」
「あー、最悪の場合は入手できなくなるでしょうね」
まあ、よっぽど性質の悪いプレイヤーが怒らせたりしない限りはミロク君がなんとかしてくれると思う。少数であれば技術交流なども手配してくれそうだ。
しかし、そのことを告げる機会は訪れることがなかった。
ボクが答えた直後、部屋の空気が一変してしまったからだ。
「魔族たちは戦友で、魔王様は食の救世主だ。彼らに難癖を付けるようなやつらは俺たちにとっても敵だ!」
「そうだ!敵対する者には死を!」
待ちなさい。ゲームの中での職業とはいえ、神様たちに仕える聖職者を守る『神殿騎士』が物騒なことを口走らないように。
しかもそれ、お米のためだよね?どうせならその調子のままリアルに戻ってお米を食べなさい。そうすれば過剰備蓄の問題なんてすぐに解消するはずだよ。
……いけないいけない。つい彼らの勢いに飲まれかけてしまったよ。まあ、随分と自分たち本意の理由ではあるけれど、楽しんでなんぼのゲームの世界なのだからそれもアリだろう。
それに、求めるものが分かっている方が色々とやり易いのも確かだ。
「それじゃあ皆さん、ボクたちや魔族さんたちに協力してくれるということで構わないですね?」
「おう!」
「任せて!」
「『神殿』だろうが神だろうがぶっ潰してやるぜ!」
「そしてごはんの素晴らしさを世界中に広めるのじゃあ!」
後半なにかおかしな叫びが聞こえた気がするけれどきっと気のせいだ。とにもかくにも、これで『神殿』改革のための準備が一つ整ったよ。
「だけど、相手は世界規模の組織ですよね?いくら魔王や魔族の人たちが手を貸してくれるとはいっても数が違いすぎませんか?」
「『神殿』に恩を売ろうとする国があるかもしれないな」
「世界秩序維持のためとか言って『賢人の集い』も動き出すかも?」
そう、今タクローさんたちが指摘したように、実はそこが問題なのだ。
上層部の人間をやっつけるだけなら、それこそミロク君一人で聖地ホルリアに強襲をかければ済むだけの話だ。でも、それではただの暗殺者、世界的組織に敵対する者になってしまう。
面倒だし手間ではあるけれど、これまでの『神殿』の悪行を暴き立て、こちらにこそ正義があることを示して周囲を納得させなくちゃいけない。
「向こうだってバカじゃないから、同じように情報戦を仕掛けてくるはずよ。そうなると地力に雲泥の差があるからこちらは不利になるわ」
立場が違えば正義も変わるのは良くある話で、それはこの『アイなき世界』においても同じらしい。
そしてお互いの主義主張が真っ向からぶつかり合う結果となれば、周囲としては『勝つと思われる方』に手を貸すのが道理ということになるのだそうだ。
「残念だけど負けると分かっている方に協力するのは愚か者だけよ」
物語のように情に厚い人や酔狂な人、先見の明があるような人はまずいないとのこと。うーん、何とも世知辛い世の中です。
それにしても姉御、達観し過ぎじゃない?
と、彼女の心配はともかく、一応対策は考えてはいる。
「要は簡単に勝てると思わせなければいいんですよね。だからこちらも世界規模の組織を味方につけることにしようかと」
「え?『賢人の集い』にあてでもあるの?」
「あんな設定ばっかりで良く分からない集団にあてなんてありませんよ。それよりももっと身近に大きな組織があるじゃないですか」
と言うボクの言葉に、皆揃って首を傾げている。
あれ?本気で分かっていない?
「ボクたちは冒険者ですよ。一番身近な組織と言えば『冒険者協会』に決まっているじゃないですか!」
そして「ええええ!?」と揃って驚きの声を上げる皆様。タイミングを計っているのではないかと訝しく思ったことは内緒。
「確かに世界中に支部があるけれど、そこまで力を持っている組織なのかしら?」
「建前上はそれぞれの国とは対等だという話は聞いたことがあるな」
それ、建前だけじゃなくて本当のことです。冒険者の数が流動的なので『冒険者協会』側は、その時々で戦力が変わるという欠点はあるものの、魔物相手に常に実戦を繰り返しているので大抵の冒険者は下手な騎士や兵士よりも強いことが多いのだ。
そのため『冒険者協会』は各国と対等であるという立場を――基本的には――維持している。もちろん守るべき法律などはそれぞれの国に従っているよ。
「そもそもどうやって『冒険者協会』を味方につけるつもりなの?」
雨ー美さんからの問いに、ボクはわざと悪ーい顔をして微笑んだ。
「あちらには大監査祭の時に大きな貸しを作っていますから、ボクたち冒険者が一斉にお願いすれば断ることなんてできませんよ」




