307 極大級爆弾情報の投下
「『謎の料理人えーっくす!』の正体は魔王だったのか!?」
「だが、それならギルドのメンバーしか入ることのできないはずのギルドマスターの部屋にミソとショウユの情報が書かれたメモが残されていたことも納得できるぞ!」
ミソとショウユの情報の出所がグドラク君、じゃなかったミロク君――まだそれは秘密にしたままだけど――こと魔王様だったと伝えると、プレイヤーの皆は予想通り、ううん、予想以上の勢いでハイテンションになっていた。
「魔王様こそ食の救世主!」
「食の救世主!?」
確かにミソとショウユを作ることができるようになったお陰で、リアルでの料理が再現できる幅は大きく広がったといえる。
でもだからといって『救世主』は大袈裟過ぎたりしないだろうか?
話は変わるけれど、随分前、具体的にはラーメン騒動が始まりかけた頃にみなみちゃんさんたちからテイムモンスターの装備について問い詰められた際にカツ丼が出されたことがあった。
実はあれはとあるプレイヤーメイドの料理だったのだけど、ショウユがない状態で、さらには麦ごはんに合うようにと思考錯誤の末に生み出された究極の一杯――みなみちゃんさん談――だったらしい。
ちなみに食べたのはイーノとニーノ。はっと気が付いた時には丼の中は空っぽになっていたという悲しい思い出だったりします。
そしてミソとショウユがプレイヤーを中心に普及しつつある現在、お米代わりに麦や雑穀を用いてになるけれど、和食系の料理がどんどんと再現されている状況となっている。
いくら食べても太らないことからVRで食道楽をする人は結構多い。ボクだって新しい町や村に着いたら食べ歩きをしているし、その傾向はあると自覚している。だからこそハイテンションになっている皆の気持ちもよく分かる。
分かるからこそ、ミロク君から教えられたもう一つの極大爆弾級の情報を開示していいものなのか悩んでしまうのだった。
いやだって確実に狂喜乱舞することになるよ、この人たち。
それだけならまだいいけど、暴走してしまうかもしれない。
ふと、どこからともなく視線を感じた。挙動不審にならない程度にこっそりとあちこちを見回してみたけど、それらしき姿は見えない。
ふう……。こんな真似ができるのは一人しかいないね。
「はい皆さん、注目してくださーい!」
ミロク君から催促されるまま、ざわめくプレイヤーたちの注意を引く。そして、
(どうか平穏無事に終わりますように!)
と願いながら、極大爆弾を投下するための引き金を引いたのだった。
「実はこのサウノーリカ大洞掘にはお米があります」
「なんだとおっ!?」
ミソやショウユと違い、未発見の情報に皆の声が一回り大きくなる。
「というか、魔族さんたちが作っています」
「そ、それは俺たちがリアルで普段食べている種類の米なのか?」
「その通り。証拠がこれです」
アイテムボックスからお茶碗――魔族の村の特産品の一つらしい――によそわれたホカホカのご飯を取り出す。じっと視線が集中するのが分かる。
……あ、これまずいかも。
「うおおおおおおおお!!!!」
「まじでえええええええ!!!!」
「やったああああああ!!!!」
「うれしいいいいい!!!!」
そう思った次の瞬間、歓声が爆発した。あうう、大音量にくらくらする……。
「一人一杯ずつですけど準備してありますから取りに来てください。それと種もみも少量だけど預かっていますよ」
お米の存在――これは運営さんから公式に発表されていたので、知っている人は多い――とその在り処、さらには少量ながらも現物の支給。これこそがプレイヤーたちを味方に引き込むための秘策だった。
その後、部屋にいたプレイヤー全員にご飯を配り、美味しく頂きました。
その時、複数のプレイヤーさんたちがこっそりと塩辛などを添えていた――お酒を飲むときのつまみにしようと持っていたそうだ――ことが発覚し、周りにいる人たちに強奪されるという事件が起きていたが、まあ些細なことだろう。
取られた本人は涙目になっていたけど。
そんなこんなで美味しいご飯を食べてほっこりと一息。
「魔族に魔王と公にされていないことばかりよ。リュカリュカちゃんは一体どうしてそのことを知ったの?そもそもどうやってサウノーリカ大洞掘に来たの?」
そして落ち着いてくると、やはりというか色々と疑問が浮かんできた様子。
まあ、それなりに波乱万丈な道程だったから、気になってしまうよね。
「それじゃあちょっと長くなるけど、ボクがサウノーリカにやってきた経緯をお話しします」
と前置きして、あらかじめミロク君たちと決めておいたボクの冒険記録なるものをお話しすることにした。
まず、サウノーリカ以前にロピア大洞掘を目指すことになったきっかけについては、プレイヤーが旅立つ理由ナンバーワンの「新しい世界を見に行ってみたかった!」ということにして誤魔化しました。
シュレイちゃんのこともティンクちゃんのことも、まだまだお話しできる段階ではありませんので。
そしてロピア大洞掘へと移動した先でアッシラさんと出会い、狂将軍の怨念との戦いに繋がった。これは『移動ハウス』のことだけぼやかして、後は本当のことをお話しした。
「まさかあの戦いの後からは、スピリットドラゴンと一緒に旅をしていたなんて……」
そこで呆れたような顔をされるのは非常に不本意なのですが!?
くっついてきたのはアッシラさんの方なんだよ。便利な足代わりにしたことは確かだけど。
「空を飛んで移動するとかズルい!」
「飛べるのは一時間だけとか、燃費が悪いとか面倒で厄介なことも多かったんですよ」
プクプクに膨らんだユキさんの頬っぺたを突っつきながら当時の苦労を思い出す。
あの頃は常にエンゲル係数がえまーじぇんしーで危機的状況だった。
「そーれーでーもー、おーそーらーをーとーんーでーみーたーいーのー!」
子ども!?駄々っ子なの!?
さすがに相手をしていられないので保護者であるタクローさんたちにパスしておいた。
「あの、さあ……。もしかして『竜の谷』の映像を撮影したのもリュカリュカちゃんだったりするの?」
姉御、どうしてそんな恐る恐る聞くんですか?しばらく見つめ合い、どちらからともなく乾いた笑いを浮かべ合う。
「あはは。いくらリュカリュカちゃんでもあれは違う――」
「まあ、ボクなんですけど」
ピシリと固まり、へなへなと床へと崩れ落ちていく姉御。
「うーわー。この子すっごい無茶苦茶だあ……」
失敬な!ボクだってあんな所に連れて行かれるとは思ってもみなかったんだから!
間近でドラゴンの群れを見た時には「あ、死んだ」って割と本気で考えたんだから!
その後も説明をしている間中、なぜか色々と突っ込まれてしまったのだった。
うにゅう。




