306 最重要情報の提示
「――という訳で、現在『神殿』上層部のほとんどは邪神の操り人形になっているとみて間違いないだろう」
イツシやその部下と戦った広間にはランドルさんの直属の部下――彼らには事前に説明して協力を取り付けていたようで、周囲の見張りをしてもらっている――を除いた砦にいる全ての人が集められ、魔族との協力や、ボクたちが目指すことになる『神殿』組織の改革について説明が行われていた。
そのうち、一つ目の魔族との協力についてはボクが予想していた以上にすんなりと理解が得られていた。
昨日一緒に戦ったこともそうだけど、神殿騎士の人の中にはそれ以前にミロク君たちがこっそりと援護をしていたことに気が付いていた人たちがいたようで、戦友として温かく迎え入れられたのだった。
そして現在、腐敗した『神殿』関係者の悪行に加えて、邪神の洗脳による上層部の掌握などについてファルスさんたちから説明が行われていた。
「ファルス様、神を語る者により操られているのであれば、教主猊下や枢機卿の方々を廃さずともその邪神なる者を討つだけでも良いのではありませんかな?」
「うむ。その考えももっともではあるが、それでは腐敗した連中、特にイツシなどの悪事を働いてきた高官を抱え込んだままとなってしまう。教主猊下がそのようなことに手を出しているとは考えてはいないが、組織の長としての責任を取って頂く必要が出てくるだろう」
「しかし、代わりがいる訳ではありますまい。もしやこの機にご自身が教主になろうと画策しておられるなどということはないでしょうな?」
既にファルスさんが司教時代に罪を犯していたことを話していたこともあって、その声には嘲りが多分に含まれていた。
「今の発言をしたのは誰だ!無礼ではないか!」
そんな揚げ足を取るような発言に反応したのはランドルさんや村の人たちだった。一部の神殿騎士たちと村人たちとの間に剣呑な空気が漂っていく。だけど、それを霧散させたのは
「そうだぞ!ファルス様は村のためにいつも頑張ってくれていたんだ!」
という子どもたちの言葉だった。神殿騎士になって日の浅い人たち――主にプレイヤーだね――にも分かるように、冤罪、というよりありもしない罪を着せられて追い立てられた人たちを保護していたという村の成り立ちも改めて説明されていた。
そんな冤罪被害者である子どたちがかばったことで、誰も何も言えなくなってしまったのだった。
「ランドル殿、構わぬ。村の皆も落ち着くのだ。騎士殿の言われた通り、私にはそのような大役を担うことなどできはしないし、その資格など持ち合わせていないのだから。それでも、それでも『神殿』の未来のために、そして何より信者たちのために改革は為さねばならないのだ。どうか、手を貸していただきたい」
そう言ってファルスさんは深く頭を下げた。その横に立つランドルさんへとちらりと視線を向ける。あちらも気付いたようで小さく頷くのが見えた。
「ファルスさん、少し頭を整理するために時間を置きませんか?」
「うん?ああ、そうだな。一旦休憩にしよう」
「食堂などを解放しよう。すまないが、何人かは茶の準備を頼む」
ランドルさんが数人の女性を連れ立って出て行ったのに従い、集まっていた人たちの多くがぞろぞろと広間から出て行き始める。
「それじゃあファルスさん、外の方はお願いしますね」
一口で『神殿騎士団』といっても一枚岩じゃない。『神殿』高官の子飼いのような者も結構潜んでいるのだそうだ。
ランドルさんたちが行っていた綱紀粛正はこうした連中を炙り出すことも目的の一つとしていたらしい。だけど、邪神の邪魔が入ったせいで中途半端な状態で終わりにさせられてしまった。
これから事を起こすのに、足を引っ張ろうと狙っている人が紛れ込んでいるのは危険だ。そのためちょっと危険ではあるけれど情報を与えてみて、怪しい動きをする人がいないか探ってみようということになった訳だ。
「これから仲間としてやっていく相手を疑うのは心苦しいが……。仕方がないか」
残念ながら綺麗ごとだけでは世の中やっていけないのです。まあ、ゲームの中の世界だけどさ。
気乗りしない顔をしたまま、ファルスさんも広間から外へと出て行くのだった。
「さて、と」
振り返ると残っているのは数十人の元冒険者の神殿騎士たち、つまりプレイヤーだけになっていた。その中には当然タクローさんたち四人や先輩さん、姉御も含まれていた。
「リュカリュカちゃん、何がどうなっている訳?魔族と一緒になって『神殿』と戦うようなことを言っていたけど?」
「その通り。それだけ分かっていれば十分ですよ。あ、詳しい歴史的背景などが知りたいという人はファイルを送りますからフレンド登録をお願いします」
ログアウトしている時に頑張ってまとめました!ボク主観で書いたのでかなり偏っているけど、最初に注意書きをしているのできっと大丈夫なはず。
「その通りって……、とんでもない大事じゃない!」
「まあまあ、雨ー美ちゃん。落ち着いて」
「でも、大丈夫なんですか?」
詰め寄ってこようとする雨ー美さんをいつもの調子でユキさんがなだめている隣から、キリナさんが不安そうな顔で尋ねてきた。
「何がですか?」
「昨日の戦いとかで魔族の人たちは信用できる相手のように感じられましたけど、魔族というと、あの……、魔王と関わりがありそうなんですけど」
その言葉にタクローさんを始め、周囲にいたプレイヤーさんたちが同意するように頷いている。
「確かに魔族さんたちは魔王と関係があります。だけど、それ以前にボクたちプレイヤーは魔王と深くかかわっている、ううん、それ以上にとても助けられたことがあるんです」
「魔王に、助けられた?どういうことだ?」
沢山のプレイヤーが揃って?を頭の上に浮かべる姿はなかなかに楽しいものだった。
「実はですね……」
一息には言わずにわざとためを作ると、ゴクリと息をのみながらこちらを見つめてくる。
「ミソやショウユの作り方を教えてくれたのは、なんと魔王様だったのです!」
ババーンと効果音が響きそうな勢いでそう告げると、
「ナ、ナンダッテー!?」
と数十人の声が綺麗にハモったのだった。
みんなノリが良くて何よりです。




