304 そして宴会へ……
そこかしこで『ミュータント』を倒したという実感が湧き始めたのか、「ぬふふ」「うふふ」と我慢しきれなくなったプレイヤーたちの怪しげな笑い声が響き始める中、
「リュカリュカさん、一体何が起きたっすか?」
訳が分からないという雰囲気を前面に押し出しながらジョナさんが尋ねてきた。
おっと、確かにゲームのインフォメーションなんて、NPCの人たちからすれば意味不明だろう。
「えっと、冒険者カードから報告があって、正式に『ミュータント』を討伐したことが認められたみたいです」
「ああ。そういう事っすか」
冒険者カード関連の技術はロストテクノロジーの塊という認識をされている。なので冒険者カードを引き合いに出せば大抵の挙動不審も多めに見てもらえたりします。もちろん限度はあるけどね。
「ところでジョナさん、ミロク君はどこに行ったの?さっきから姿が見えないのだけど?」
周りにいる人に聞きとがめられないようにこそこそっと小声で尋ねる。そう、いつの間にかミロク君はその姿を消してしまっていたのだ。
ちなみに、ミュータントを倒した最後の一発の印象が強過ぎたためか、それを繰り出したミロク君の姿形については、プレイヤー全員の記憶があやふやになっているようだった。
「ああ、ミロク様なら仲間たちと一緒に少し前を歩いているはずっす」
どうやら認識を阻害する何かしらの技能が働かせて、魔族の人たちに紛れ込んでいるらしい。
その魔族さんたちだけれど、素性を明らかにしていないにもかかわらず、何人かのプレイヤーたちからしきりに話しかけられていた。
聞き耳を立ててみると、先ほどの戦いの最中に危ない所を助けてあげたみたいだ。何度も「ありがとう」とお礼を言われていたのだけど、少し困っているような印象を受けた。
「あれは照れているというか、どういう反応をしていいのか迷っているだけっす。俺たち諜報部隊はミロク様の指示で色々な町に潜入していたっすけど、基本は隠密行動だったから魔族以外の種族との距離感が掴みきれていないやつもまだまだ多いっすよ」
あいつなんかその典型っす、と言って指さした先には数人の女性プレイヤーに囲まれている一人の魔族さんがいた。
えーと……、あれは肉食系のお姉さま方にぐいぐいと迫られて焦っているだけのようにも見えるんですけど?
「ま、まあ、これから少しずつでも仲良くできる相手が増えていくといいよね」
「その通りっす。だからリュカリュカさんには期待しているっすよ」
「しまった、藪蛇だった!?ハードルが一気に高くなった気がする!?」
「はっはっは。頑張ってくださいっす」
からからと笑うジョナさんに恨みがましい視線を向けつつ、ボクはどうやって面倒な説明をファルスさんたちに押し付けようかと悩みながら、砦までの短い道のりを戦友たち――ボクだって豹騎士の妨害をしていたんだからそう言っちゃってもいいよね?――と一緒に歩いて行ったのだった。
そして何の名案が思い付くこともなく砦に到着……。
「彼の怪物相手に戦い抜き、そして勝利を収めた勇敢なる神殿騎士の皆と、危険を顧みず共に戦ってくれた仲間たちに心からの感謝と称賛を送りたいと思います」
本格的にどうしようかと悩みながら中へ入ると、閉じ込められていた非戦闘員の人たちの拍手や歓声とファルスさんの言葉に迎えられたのだった。
プレイヤーの中から「誰?」という疑問が出ていたけれど、隣にランドルさんがいることもあって、とりあえずは話を聞こうという流れになった。
ちなみにイツシと部下七名は地下にある牢屋に入れられているそうだ。
そして役に立たなかったどころか、死に戻り前提のゾンビアタックを繰り返して時間稼ぎをしなくてはならない原因を作った本隊の面々は、武装解除されて数人ずつ小部屋へと隔離されているとのこと。
「私の素性など知りたいことも多くあることでしょう。しかしまずは我らの勝利と無事を喜び合おうではありませんか!」
食糧庫から運び出されて来ていたのか大量の樽がお目見えして、その中身であるお酒が次々と振舞われていく。
「温かい料理もでき始めています。神殿騎士様方、どうぞ食堂の方へ」
さらに有無を言わさずに食事へと誘導されていく。反省会も何もないままいきなり祝勝会に突入したことで何人かのプレイヤーおよびNPCが困惑していた――どこにでも生真面目な人はいるようです――けれど、周りの仲間たちに笑いながら――どこにでも不真面目な人はいるのです――押されたり引かれたりして食堂へと消えて行っていた。
「リュカリュカさん」
「はいな。それじゃあちょっと村まで戻って料理に食材、それと村の人たちを運んでくるよ」
村から出発する時に、あちらでも祝勝会用に料理をお願いしていたのだ。魔族さんたちや魔王であるミロク君の紹介をしていたためか、必ず勝つことができると思ったらしくすぐに準備を開始してくれていた。
それと、この後再び『ミュータント』が現れないとは限らないので、村の人たちを全員砦へと非難させておこうという話になっていたのだった。
「お願いします」
「任されました。ファルスさんはできるだけ神殿騎士の人たちと仲良くなっておいてください」
今後の展開を考えると、特にプレイヤーからは親しまれるくらいになっていてもらわないと困る。
対してNPCの方は元々ランドルさんの部下だった訳だからそれほど心配してはいない。強いていうなら『神殿』上層部と繋がっている者――要するにスパイ的な人――がいないかにだけは注意しておく必要がある、ということくらいだろうか。
おっと、ここで悩んでいたところでそうなるものでもない。それに料理が足りなくなってしまうとせっかくの祝勝会が興醒めしてしまうかもしれない。アッシラさんにお願いして急いで村に向かうとしよう。
うちの子たちは……、祝勝会に花?を添えるために――少なくとも雨ー美さんにユキさん、キリナさんは喜んで世話を焼いてくれそうだ――残っていてもらうとしよう。
「ぬう、他人が食べているのを見ると無性に腹が減ってくるような気がするな……」
「はいはい。戻ったらアッシラさんの分のご飯も用意してもらうから頑張って」
「本当か!約束だぞ!」
この後、アッシラさんが自己最高速度を出したことは言うまでもない。
……はい、とっても怖かったです。
帰りは料理がダメになったらいけないからと何とか説得して、通常のスピードで飛んでもらえたので助かったけれど。
そして祝勝会は日付が変わる頃まで続き、ボクの予想した通り難しい話は翌日以降へと持ち越されることになったのでした。
※砦に戻ってからの没展開
「私の素性など知りたいことも多くあることでしょう。ですが今は疲れた心と体を休めて欲しい」
ファルスさんが言い終わると同時に視界の隅に現在時刻が表示された。
うわ!もうすぐ日付が変わる頃合いだ。イベントが長時間に及んでいるから一旦ログアウトしろ、ということのようだ。
まさかのおあずけ展開にプレイヤーたちから非難の声が上がる。しかし、ファルスさんは動じることなく話を続けていった。
「この後皆には重大な選択を迫ることになる。それに備えての休息でもあると思って頂きたい」
真剣な表情と重苦しい空気に一気に場が静かになる。
「あの、ボクからもいいですか?」
手を上げて注目を集める。せっかくの機会なのでボクも便乗させてもらおう。
「その選択には、ボクがここに来たことやそちらの助っ人の人たちのこと、そして『ミュータント』の一体を倒した彼のことなども含まれます。面倒事を持ち込んでおいて何だけど、落ち着いて正確な判断ができるようにクールタイムを挟むべきだと思います」
主にボクが上手にこれまでの状況の説明をするために!
そして誰しもが無言になった。あれ?普通こういう時ってランドルさんに次いで偉い役職の人がまとめる発言をするものじゃないの?
後になって掲示板等で調べて知ったことなのだけど、プレイヤー側に選択権がある場合には今のようにNPCたちが黙ってしまうということがあるのだそうだ。
だけどこの時にはそんなことも知らなかったので、どうして誰も何もしゃべらないのかドキドキしてしまっていた。
「……確かに今の我々は『ミュータント』を倒したことで精神的には紅葉状態にはあるが、身体的にはこの二日間の激闘で疲れ切っていると言えるか。どうだろう、ここは彼らの助言に従って休息を入れてもいいのではないだろうか?」
……
前話で宴会の準備をしていると書いたことをすっかり忘れていました(汗)。
訂正した本編の方が自然な流れになっていると思うのですが、どうでしょうかね?




