303 インフォメーション悲哀
うん、力の差がどうとか言えるレベルじゃないよね。多分見ていたほとんどのプレイヤーはイベントが強制進行していると思っているんじゃないかな。少なくとも同じプレイヤーがやったことだと気付いた人はいないと思う。
〈レイドボス、番いのミュータントの討伐に成功しました〉
というインフォメーションが流れたけれど、誰一人として反応していない。
一方のNPCの人たちはというと、こちらも同じく事態の急展開に唖然としていた。
……なぜにジョナさんを始めとした魔族の人たちまで固まっているのかは不明だけど。あー……、もしかしてミロク君が『ミュータント』を倒して回っていたことは知っていたけど、今回実際に戦ってみたことで『ミュータント』の強さを実感、さらにそれを瞬殺しちゃったのを見て改めてミロク君の力を思い知らされちゃった、とかそういう感じなのかも。
さて、皆――特にプレイヤーの人たち――には色々と説明して味方になってもらわないといけないのだけれど、この調子だと魔族の人たちのフォローは期待できそうにないか。
つまりこれから先、上手くいくか失敗するかはボクの話術次第ってことだね。ふふふ、腕がなる展開じゃないの!
「って、そんなポジティブになれるか!信じてもらうだけならともかく仲間に引き入れるとか、どれだけ難易度が高いのよ!?」
デスモードなの?ヘルモードなの?ぢごくなの!?無茶ぶりも大概にして欲しいんですけど!?
〈レイドボス、番いのミュータントの討伐に成功しました〉
「ど、どうどう。何があったのかは知らないけど、とりあえず落ち着いて」
突然叫び始めたボクを見て、周囲にいた人たちが一様に今度は何事かと驚く中、姉御がなだめにきてくれたのだった。
「あ、ごめんなさい、ちょっと取り乱しました。それと「どうどう」はどうかと思う」
「……それだけ突っ込めるならもう大丈夫そうね」
「ご心配をおかけしました。ありがとうございます、姉御」
「……その姉御という呼び方は何とかならないものかしら?」
「えっと、それじゃあ、姐さん?」
「悪化していない?」
「???」
「姉御でいいわ……」
そう言ってひどく疲れた顔で引き下がる姉御だった。
〈あの、レイドボス、番いのミュータントの討伐に成功しましたよ?〉
「リュカリュカよ、激しい戦いの後ということもある。詳しい話をする前にいったん休憩にするべきではないか?」
「え?アッシラさん?」
振り返ると、ゆったりと翼を動かしながら宙に浮かぶアッシラさんがいた。
「ど、ドラゴン!?」
「スピリットドラゴン様!?」
初見なのだろう、一部プレイヤーや神殿騎士NPCの大多数が驚きの声を上げる。まあ、間近でドラゴンの巨体を見る機会なんてまずないからそれも当然の反応だ。
狂将軍の怨念討伐をご一緒した神殿騎士さんたちや、村からここまで彼に乗って来た魔族の人たちはその様子を苦笑して見ていた。
そして「いつの間に近づかれていたんだ?」という疑問も出ていたのだけれど、それは皆が呆然とし過ぎていただけの話だと思う。
まあ、それは半分冗談で、スピリットドラゴンという種の特質上、アッシラさんは極めて気配を薄くすることができるのだ。
また、元々ドラゴンは空を飛ぶのに魔力を併用しているので、普通の鳥などに比べて静かに移動することができるのだそうだ。これは古都ナウキの図書館に置かれていた本に書かれていた情報なのでまず間違いないと思う。
そういった種族の性質もあって誰にも気付かれずに近付くことができたのだろう。
〈レイドボス、番いのミュータントの討伐に成功しているんですが……〉
ちなみに、以上のことからアッシラさんは実はかなり優秀はハンターとしての資質を持っているのだけれど、すっかりものぐさになっているためその力が発揮されたことは数えることができるくらいしかなかったりします。
「アッシラさんもああ言っていることだし、皆さん『ミュータント』との戦いで疲れているはずです。とりあえず砦に戻って休息をとりましょう!」
どことなく釈然とはしないという表情を浮かべながらも、疲れていることに間違いはなかったのか、全員ボクの言葉に従ってぞろぞろと砦に向かって移動し始めたのだった。
「姉御、プレイヤーの皆にだけ話しておかなくちゃいけないことがあるので、伝えておいてください」
「どういう内容なのか聞いても?」
「それを含めてその時にお話ししますので」
「……はあ、仕方がないわね。リュカリュカちゃんから話があると伝えておくだけで良いのね?」
「お願いします。ただ、今日のことになるかは分からないですけど」
「どうして?」
「だって『ミュータント』なんていう伝説の化物を倒したんですよ。この後大騒ぎの宴会になるのに決まっているじゃないですか」
正確にはそうなるように仕向けるんだけど、ね。
そのための準備は既に始めてもらっていたりします。
「ああ、そうだった……。私たち、勝ったのよね?」
「そうですよ。だからもっと胸を張ってください!皆は『ミュータント』に勝ったんです!」
わざと大声を張り上げて勝ったことを喧伝する。
ミロク君がいたから勝てた?ノンノン、それは違う。だって元々『ミュータント』の強さはミロク君込みで設定されていたのだ。だから彼が一緒に戦うのは当然であり、一番強い――それも隔絶して――ミロク君なしで二日以上も全滅することなく耐え抜いたのは、賞賛に値することだと思うのだ。
〈だから!レイドボス、番いのミュータントの討伐に成功しましたってば!!〉
「うわあ!な、何!?」
いきなり大音量でポーンという音がしたかと思うと、視界のど真ん中にでかでかとインフォメーションが表示されたのだった。
〈やっと気が付いてもらえました……(涙)〉
「なんだこりゃ!?インフォメーションログがとんでもないことになっているぞ!?」
一人のプレイヤーの叫びに確認してみると、レイドボスの討伐成功の報告でインフォメーションログが数ページに渡って埋まっていたのだった。
「気付かなかったこっちも悪いけど、これは怖えよ……」
「しかも最後の方は俺たちの気を引こうと色々と呼びかけ方が変わっているし……。芸が細かいというべきか、データ容量の無駄遣いというべきか、微妙だ……」
ボクとしては後者に一票。
運営さんや、もっとこだわるポイントは別にあるはずでしょう?
……だけど『ミュータント』に勝ったと客観的に認識させてくれた点だけは評価してあげる。プレイヤーの皆は徐々に喜びがこみあげてきたようだし。




