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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
18 神殿 対 魔族
310/574

301 時間稼ぎと一体目討伐完了

「砦にいる人々を監禁するという暴挙に出た『神殿』より派遣された者どもは全て捕らえることに成功した。後門の虎なき今こそ前門の狼を叩く絶好の好機である!スピリットドラゴン様と共に窮地に駆け付けてくれた同志と一緒にこの試練を乗り越えるのだ!」


 拡声の魔道具――形は学校行事や街頭演説で使われている手持ち型の拡声器にそっくりでした――によるファルスさんの演説を背に受けながら、体格変化で大きくなったイーノとニーノの背にまたがって、ボクとミロク君は『ミュータント』との戦いの場へと急いでいた。


「見えてきた!って、あれ?危うく倒しかけるほどの攻撃を受けた割には元気そうじゃない?」


 二体の『ミュータント』のHPを示すゲージは、どちらも三割から四割程度残っていた。


「どうも瀕死になると回復する特殊能力を持っていたみたいだな」


 うわ!もうすぐ倒せると思っていたら回復しちゃうとか、こっちの戦意を削ぐ嫌らしい特殊技能だこと!


「それでもオレが攻撃する前は六割以上のHPがあったから、実質的には大ダメージになっているけどな」


 数十人のプレイヤーが二日以上かかっても倒せない相手――しかも二体――を軽く瞬殺しかけるとか……。ボクの精神衛生上、これ以上は深く考えない方がいいのかもしれない。


「それで、どうする?このままこっそりと戦いに参加して、全員で倒すの?」

「オレも最初はそれでいいかと思っていたんだけど……」


 なにかに迷っているのか、ミロク君にしては歯切れの悪い答え方だね。


「いいよ、言って。ここまできたらどんな難題でも手伝ってあげるから」

「……オレが言うのもなんだけど、安請け合いすると後が大変だぜ?」

「大変なことならもう既に山ほど抱えているってば。今さら一つくらい増えたってどうってことないよ」


 ドラゴンであるアッシラさんやエッ君のことに、サウノーリカ大洞掘が実装されていたことのこと、さらには『神殿』の腐敗と邪神の台頭まで、どれか一つでも公表すれば大騒ぎ間違いなしの爆弾案件なのだ。

 ミロク君の悩みくらいは一緒に引き受けてあげようじゃないの!


「……あー、今のままだと魔族というか魔王のことを甘く見るようなやつもいるかもしれない。下手なちょっかいを出そうと考えることができないくらい、オレの力を見せつけてやろうと思うんだけど、どうかな?」


 十秒前のボク出てこい!


 なにが、ミロク君の悩みも一緒に引き受けてあげよう、だ!

 頭痛案件です!

 大騒ぎ案件ですよ!


 あああああ……、またみなみちゃんさんからのお説教の時間が延びちゃうよう……。


「いいんじゃない。やっちゃえ!」


 そんな内心の悲鳴を完全に隠して、ボクはニッコリ笑ってミロク君にそう答えたのでした。だって、一度任せろといったことをなしにはできないよ。

 それにプレイヤーはともかく、NPCの人たちには明確な力量差というものを教え込んでおいた方がいいことも確かだ。敵対関係ではなく共存していける相手だということは、この後の『神殿』上層部や邪神との戦いの中で触れ回る機会があるだろう。


「それじゃあ、現場に付いたら戦っている全員を蛸女の方へと誘導してくれ」


 半裸美女の下半身が蛸になっている『ミュータント』のことね。複数のたこ足が厄介だけど、囲んで数で押してやれば倒せるだろう、とのこと。

 多くの人が同時に戦うことができるので、一緒に戦っている人たち同士の連帯感が増す効果も期待できるのだとか。


「豹騎士の方はどうするの?」


 こちらは豹の背中にフルプレートの騎士の上半身がくっついている『ミュータント』になります。


「そっちはオレが相手をするよ。まあ、数合わせにリュカリュカちゃんやテイムモンスターたちにも近くにいてもらうことになるけど」


 つまり片方をボクたちが囮になって引き付けている間に、もう片方を集まっている全員で倒して!と扇動する訳か。


「了解。何とか説得してみる」


 と、相談が終わったところでちょうど戦場へと辿り着いた。


「『氷結』!」


 豹の頭を凍らせて話をする時間をつくる。


「皆さん!ここはボクたちが引き受けますから、あちらの『ミュータント』の方へ!」

「リュカリュカちゃん!?一人で抑えきれるはずがない!」

「大丈夫です!うちの子たちもいますし、それにボクにはスピリットドラゴンの加護がありますから!」


 背負った『移動ハウス』から次々にうちの子たちが飛び出して豹騎士の周囲に散開していく。一方でボクは少し離れた所からこちらを見守っているアッシラさんの方をチラリとみる。


「分かった。こちらはしばらく任せた!」

「し、しかし……」


 その動きで半数ほどの人たち納得してくれた――魔族の人たちが上手く誘導してくれたということもある――のだけど、残る半数ほどは渋る様子を見せた。

 仕方がない、奥の手を使おう。


「それじゃあ、早くそっちの『ミュータント』を倒して助けに来てください。信じていますから」


 手近にいた人たちへとキラキラした瞳を向けると、「うっ」と唸って硬直してしまう。

 しまった、耐性がない人たちだった!?


「あっはっは!そこまで言われたら気張るしかないわね!ほら、あなたたちはいつまで呆けているの!さっさと行ってさっさと倒すわよ!」


 おおう!運の良いことに気風(きっぷ)のいいお姉さまがまとめて引っ張って行ってくれたよ。

 姉御(あねご)!ありがとう!


「よし!ミロク君、これでいい?」

「お、おう!それじゃあ豹騎士の攻撃は全部オレが受けるから、リュカリュカちゃんたちは少し離れた場所から妨害や邪魔をしてくれ」

「任せて!そういうのは大の得意だから!」


 うふふ、どんな嫌がらせをしてあげようか?


 そこからはボクたちの独壇場だった。ミロク君が攻撃のターゲットとなってくれているのをいいことに、後方に回り込んで後ろ足やその周辺を水魔法や土魔法で固めたり、豹の頭の方に生活魔法で目くらましをしたりと好き勝手やらせて頂きました!


 もちろんうちの子たちもこれまでいまいち活躍できていなかった鬱憤を晴らすように思い思いに攻撃を繰り出して行っていた。

 個人的にツボだったのがビィだ。二本目の尻尾よろしく豹のお尻に噛みついてはぶらんぶらんしていた。

 ただ、定期的に毒を送り込んでいるはずなのに、一向に状態異常にならなかったあたり、豹騎士の強さの一部を垣間見た気分になったけど。


 そしてボクたちが豹騎士を相手にし始めてから十分ほど経った頃、神殿騎士と魔族――まだ秘密だけど――の連合軍は見事蛸女を撃破することに成功したのだった。


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