300 反撃の狼煙(やり過ぎ)
一度戦意を喪失したからといってそれがずっと続くかは分からない。ボクたちはイツシを気絶させると、彼の部下と同じように縄でぐるぐる巻きのミノムシにすることにしたのだった。
「よし!こいつらの無力化にも成功したし、砦の権限の証になるタグも取り返すことができた。まずは作戦成功といえるな」
「そうだね。ところで、そのタグはどちらが持つことにするの?」
イツシから取り上げたタグを指さしながら、ファルスさんとランドルさんの二人に尋ねた。
「これまで通り私が持っていても良いのですが、ここは皆に先頭に立つ人物を知らしめるという意味も込めてファルス様に持っていただくべきかと」
「私がかね?ううむ……、正直なところ柄ではないのだが、そういう事なら引き受けざるを得ないか」
確かに頭が二つあると騒動や対立の種にはなりやすい気がするから、妥当な判断のような気はする。
「それじゃあ後はこいつらの見張りを誰かに頼んで、後半戦もちゃちゃっと終わらせてしまおうか」
チュートリアル的なお使いクエスト――町中なので戦闘もなし。ゲーム内の雰囲気に慣れるためという側面が強い――でも受けるような気楽な口調でミロク君が言う。
彼にとってはレイドボス扱いの『ミュータント』の討伐であっても、全く気負うようなものではないみたいだ。心強くはあるのだけれど、余り戦闘が得意ではないボクとしてはなんだか複雑な心境です。
とりあえず皆と合流しようということになり、建物の外に出てみると、ちょうどタクローさんたちが砦の各所に押し込められていた人たちを広場へと集め終えたところだった。
「みんな、ごくろうさま!」
気配を察したのか真っ直ぐボクの側に集まって来たうちの子たちを一匹ずつ労いながら、撫でくり回していく。ボクに捕まっていない子もティンクちゃんとシュレイちゃんから撫でられている。
わきゃわきゃと楽しそうな悲鳴を上げながら身をよじるうちの子たちを見て、周囲の人たちも硬さが取れてニッコリ笑顔になっていた。
「良かった、無事だったのね。こっちには一人の部下もいなかったから心配していたのよ」
雨ー美さんたちの話によると、NPCの人たちは鍵をかけた部屋に閉じ込められていたものの、特に罠などもなくいたって簡単に助け出すことができたのだとか。
「こっちは何とか大丈夫です。それに半分は向こうの自爆のようなものでしたから」
「自爆?」
「その辺のことはまた後で。先に『ミュータント』を倒してしまいましょう」
まあ、ボクがするのはそのお手伝い程度のことになるだろうけれど。
「そうね。どうせ聞かなくちゃいけないこともあるのだし、詳しい話を聞くのは落ち着いてからの方が良さそうね」
とりあえずNPCの救出に回ってくれたタクローさんたちと先輩さんには、このまま砦に残ってイツシたちの見張りと警戒に当たってもらうことになった。
それというのも、本隊として招集された神殿騎士たち――位置的には砦から一番近い場所で固まっている――は彼の息がかかっていたようだし、トップが捕まっているとなると助けようと砦に押し寄せてくるかもしれないからだ。
そんな危険を冒してでも味方の士気を上げるために、そして割って入ってきた魔族――まだ公表はしていないけれど――は味方なのだということを知らしめるために砦を取り戻したことは周知しなくちゃいけないのだ。
それと……、あまり疑いたくはないけれど、助けたNPCの中にイツシたちと通じていた者がいないとも限らない。
ようやくこちらの有利に持ってくることができた盤面を引っ繰り返されないためにも、信頼できる人に見張りをしてもらう必要があった。
というか、本当はボクがその役に付きたかったのだけどね……。
「それじゃあ、まずオレがここの壁の上からでかいのをぶち当てて『ミュータント』どもをノックバックさせる。そして全員の注意がこちらに集まったところで、あんたたちが拡声の魔道具を使って演説、その間にオレとリュカリュカちゃんが前線に移動して向こうにいる連中と一緒に『ミュータント』を倒して万事解決っていう流れでいいか?」
なぜか前線でうちの子たちも一緒に『ミュータント』と戦うことになってしまっていました!?
「はい。ご負担をおかけしますがよろしくお願いします」
演説を行うファルスさんとランドルさんが揃って頭を下げる。
「なんのなんの。これくらいは別に何ともないさ」
ミロク君にとっては強がりでも何でもなく本当のところ、なのだろうね……。ただ、彼の正体を知らないタクローさんたちは少し心配そうな顔をしていた。
それでも騒ぎ立てたりしないのは砦の壁を一瞬で駆け上るという人間離れした能力を見せつけられていたお陰?というところかな。
「それに偏見や迫害が減っていくなら元は十二分に取れるってもんだ」
ニカッと笑うミロク君のその顔には、二心など絶対にないと思わせるだけの清々しさがあった。
はあ……。仕方がない。今回の件にミロク君や魔族たちを積極的に関わらせたのはボクだ。その責任は果たさなくちゃいけない。
「ボクは先に砦の外に出ているから」
ボクとミロク君を乗せて走るイーノとニーノだけを残して残るうちの子たちとシュレイちゃんには『移動ハウス』へと入ってもらう。
「リュカリュカちゃん、気を付けてね!」
不安そうに声をかけてきたユキさんにしっかりと頷くことで応える。笑顔の一つでも浮かべれば安心させることもできたのだろうけれど、さすがにそこまでの余裕はないです。
壁の上へと向かうミロク君たちと別れて、人一人がようやく通れるだけの隙間から門の外へ。
「閉めてください」
用心のためにすぐに閂をかけてもらう。湧き上がってくる緊張をイーノとニーノを撫でることで誤魔化しながらその時を待つ。
と、頭上でカッと赤い光が瞬いた。
「やばっ!」
思わず漏れ出たのだろう呟きが、なぜかよく聞こえた。
そして次の瞬間、ドガガン!!とものすごい音が正面、『ミュータント』との戦場の方から響いてくる!
ちょっ!?ミロク君何やったの!?
まさか味方を巻き込んだりしていないよね!?今までの苦労が水の泡になるようなことだけは勘弁してよ!?
聞こえてくるのは手前にいる本隊の連中が上げる驚きの声ばかり。ええい、うるさい!こんな時まで邪魔をしてくるなんて。おにょれ、後で嫌がらせをしてやる!
などとやきもきしていると、壁の上からミロク君が飛び降りてきた。
あの、砦の壁って五メートルくらいはあるんですけど?普通は飛び降りると落下ダメージで最悪死んじゃうんですけど?
「いやあ、やばかった。ちょっと威力が強過ぎて、危うく『ミュータント』を倒してしまうところだった」
失敗しっぱいと愛想笑いを浮かべる彼は、本当に規格外な存在だった。
※没ネタです(読まなくても問題ないです)
――――
一度戦意を喪失したからといってそれがずっと続くかは分からない。ボクたちはイツシを気絶させると、彼の部下と同じように縄でぐるぐる巻きのミノムシにすることにしたのだった。
そんな彼をファルスさんはひどく悲しそうな瞳で見つめていた。
「リュカリュカ殿、やつと私は『神殿』に入った時期がほとんど同じでな。その縁もあって若い頃は他の同年代の者を交えて色々な話をしたものだったよ……。
信じてもらえないかもしれないが、その頃の私たちは夢に燃えていた。貧しい人々を救おう、魔物の被害を減らそう、と。……一体、いつ、どこで我々は道を間違えてしまったのだろうな」
ファルスさん、はっきり言って内容が重いです。人生経験が少ない――いやだって、まだ十代ですし!――ボクとしては何と答えていいのか分からない。
そしてある程度の事情は聞いているのか、ランドルさんも悩ましい顔をするばかりで口を開けないでいるようだった。
「間違っていると思ったのなら、今からでもやり直せばいいさ」
と、そこに軽い感じでミロク君が割って入ってくる。
「そして今度は間違わなければいい」
まあ、結局はそれしかないのかもね。きっとどんな償いをしたとしても被害者の中には許せないという感情は残り続けるものなのだろうし、それを捨てさせることなんてできない。
だけどボクたちの側からすれば――言い方は悪いけれど――それにだけかかわっている訳にはいかないのだ。
――――
現実の犯罪加害者に対して社会がどう在るべきか、みたいな流れになりそうだったので没になりました。
全くもって難しい問題です。




