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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
18 神殿 対 魔族
308/574

299 魔王の秘密?

 前回のあらすじを三行で。


 イツシの部下たちと戦いになったよ。

 あっさり完全勝利!

 あ、一行余った……。


 とまあ、いざ蓋を開けてみればこのくらいの余裕をもって戦いを終わらせることができていた。

 倒した部下たちはティンクちゃんたちが縄でぐるぐる巻きにして順調に巨大ミノムシに変化させていたので放っておいても問題はないだろう。


「イツシよ、策に溺れた、いや身に余る道具の力に飲まれてしまったようだな」

「う、うるさい!我に蹴落とされた貴様が偉そうなことを言うな!」


 ファルスさんの言葉を認めたくないのか、イツシが喚いている。

 しかし過去の勝利に縋り付くことでなんとか自分の優位を保とうとしているその姿は、ひどく滑稽でありながらももの悲しいものだった。


「まあ、なにがどうあれ後はあなただけだよ。外ではまだ『ミュータント』との戦いが続いていることだし、できればさっさと降伏して」


 何度も言っているように、魔族の人たちと一応アッシラさんもいるから負けることはあり得ないけれど、はっちゃけてしまった人たちが怪我をしてしまうかもしれないのだ。

 勝てることが決まっている今、味方の被害をいかに少なくするのかも考えないといけないのです。さっさと砦を掌握して後顧の憂いをなくして、『ミュータント』を倒しに――ミロク君たちが――行かないと。


「ぬぬう……。おのれっ!」


 ここにきて圧倒的不利を悟ったのか、イツシは身をひるがえして部屋の奥、つまり彼の後方にあった上階へと続く階段へと走って行く。


「しまった!」


 もしも『魔封じの宝珠』の効果範囲がこの部屋だけだった場合、逃げた先から魔法を撃ち込んでくる可能性がある。

 それだけじゃない、精神的に追い詰められた結果、上の階から砦内にいるタクローさんたちや非戦闘員の人たちを魔法で害しようとするかもしれないのだ。

 部下たちに快勝したことですっかり油断してしまったボクたちは後を追おうとしたのだけれど、イツシが上り切る方が確実に早い。


 逃げられる!?

 そう思った次の瞬間、


「ぶへえ!?」


 一度は視界から消えたイツシが情けない悲鳴を上げながら階段を転げ落ちてきたのだった。


「おいおい、逃げるのはともかく、部下を置き去りにするっていうのはひどいんじゃないか」


 そんなことを言いながら姿を現したのは、なんと『転移門』に結界を施しているはずの魔王様ことミロク君だった。


「そしてリュカリュカちゃんはどうして俺を睨んでいるんだ?」

「……どこかで割って入る機会を見計らっていたっていう事はないよね?」


 絶妙のタイミングでの登場だったし、魔王というよりはピンチに颯爽と現れるヒーローみたいだ。

 ヒロインに憧れるピュアな女の子だったらキュン!ときたり、ころりとおちてしまうかもしれない。


「いやいやいや、オレだってそんなに暇じゃないから。……まあ、挟み撃ちにしてやろうとか、いたずら心を出したことは認めるけど」


 いたずら心って……。結果的にイツシを逃がさないで済んだのだから良かったのだけど、そんな暇があったのならさっさと加勢に来て欲しかったよ。


「ところでこの部屋、邪神から貰った『魔封じの宝珠』とかいうので、魔族は弱体化するようになっているみたいなんだけど?」

「なんだ邪神のやつそんな罠をしかけていたのか。全員『ミュータント』に当たらせておいて正解だったな」

「そうじゃなくて、ミロク君は平気なの?」

「オレ?ああ、大丈夫だいじょうぶ。だってオレ魔族じゃないし」

「ええ!?」

「なんですと!?」


 まさかの回答にその場にいた全員が驚きの声を上げた。

 え?なんで?だってグドラク君、魔王でしょう?魔族じゃないってどういうこと?


「種族的にはオレは人間ってことになるぜ。魔王は職業扱いだな」


 確かにプレイヤーは全員人間しか種族を選べないことにはなっているけれど、職業が魔王?なにそのライトノベルのタイトルみたいな状況。


「あ!もしかしてランダムメイキング!?」


 心当たりを告げるとミロク君はなぜか遠い目をしていたのだった。

 ゲームを開始する際のキャラクターメイキングでお任せにすると、時々とんでもない技能を持っていたり、レアな職業になっていたりすることがあるそうなんだけど、身近の人たちではいなかったのですっかり忘れていた。


 それにしてもゲームバランスが崩壊してしまいかねないチート級の強さを持ってしまうかもしれない職業とか実装してしまっていいものなのだろうか?

 普通はすぐに修正が入るような気がするのだけれど、どうにも運営さんの意図するところがさっぱり分からないね……。


 うん?バランスが崩れるほどの強さ……?


「今回の『ミュータント』が異常に強いのって、もしかして!?」


 ふと思い浮かんできた考えを口にしてミロク君を見ると、彼は非常に申し訳なさそうな顔をして言った。


「多分、オレが狩りまくっていたからだと思う」


 うわー、もしかしなくてもやっぱりそうだったー!?

 というか『ミュータント』が発生する内部処理が行われた際に、対峙するプレイヤーの中にミロク君も含まれていたっていうことなのだろう。


 現在トッププレイヤーと呼ばれる人たちのレベルが四十台後半だという話だ。今回集められた神殿騎士のプレイヤーの人たちの平均レベルは四十を下回るくらいじゃないかと思う。

 そこに一人だけとはいえ百レベルオーバーが混じってしまったために、彼らだけでは手も足も出ないほどの強さとなってしまったのだ。


 そうと分かればこんな所でもたもたしている場合じゃない。急いで外に戻らないと!


「砦の権限はどうすれば取り戻せるの?」

「やつが持っているはずの責任者であることを示すタグを取り戻すだけです」

「ほうほう。それじゃあ、そのタグとやらを渡してもらおうか」

「ひっ!く、来るな!」


 ボクたちの視線が集まったことを察知したイツシが部屋の隅へと逃げて行く。ああ、もう!時間がないっていうのに!

 そんな彼を追ってボクたちも部屋の隅に。


「それ以上近寄るな!こ、これがどうなってもいいのか!」


 取り出したのは金属製と思われる小さなプレートだった。話の流れから砦の責任者のタグ、というものだろう。

 イツシはそれをいつでも折り曲げることができるようにして持っていた。


「うわあ、人質ならぬ物質だよ……」


 追い詰められた悪役の定番とはいえ、いざやられると鬱陶しいことこの上ない。

 だけど彼は根本的なことを勘違いしていた。


「壊すなら壊してもいいぞ。こちらとしてはあんたが責任者でさえなくなればいいんだから」


 そう、『転移門』をミロク君の結界で使用できないようにしている今、別にボクたちの誰かが絶対に責任者にならなくてはいけないという訳ではないのだ。

 完全に詰んでしまったことが分かったのか、イツシはようやく観念したようにがっくりと項垂れたのだった。


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