298 物理で殴る!
ランドルさんと一緒に前へ進み出ると、嘲るような笑いが響いた。
「ランドルはともかく小娘が相手だと?ふん!舐められたものだな!」
倒し易いのであればそれに越したことはないだろうに、何が不満なのかイツシは不機嫌そうにそう口にする。
そんな彼を守るようにぞろぞろと居並ぶ部下たちの方はといえば、嗜虐的な妄想にでも浸っているのか、ニタニタと見ているだけで気分が害される顔をしていた。
いずれにしてもボクを侮っていることには間違いがないね。
ふみゅ。これならいけそう、だ!
手近にいた一人に向かって一気に踏み込んで距離を縮めながら体をひねる。そして、腰だめに構えていたバトルスタッフを、ねじれを解放する勢いも使いながら横一文字に振りぬいたのだった。
その際、振り回された杖の先端が顎の先、ほんのわずかにだけ触れるように的確に制御する。身体能力が向上している『アイなき世界』の中だからできることだ。リアルなら絶対に失敗する自信があるよ……。
それはともかく、その結果、
「かふっ……」
ボクの先制攻撃を受けた部下の一人は空気が抜けるような声を発したかと思うと、その場に崩れ落ちていったのだった。
「んなっ!?」
「先手必勝、大成功ー!」
あちらが驚いている間にさっさと距離を取ってランドルさんの隣に戻ると、軽やかに言い放ってやった。
「小娘め、何をした!?」
イツシが叫ぶと、部下たちもそれに同調して睨むような視線を向けてくる。
おんやあ?顎先への衝撃で脳を揺さぶって、いわゆる脳震とうを起こしただけなのだけど。荒事もこなしていたという割に知らないのかな?
もしかすると『神殿』という権力を笠に着て「おらおら!」言っていただけなのかしら?
ちらりと横目でランドルさんを見てみると、深く頷いていたので、その認識で間違いないらしい。虎の威を借る狐そのものだったという訳だ。
「そんなことを言われて素直に答えると思う?」
なので、フッと鼻で笑ってやる。
すると今度は残っている部下も含めて全員が顔を真っ赤にしていた。うわー、本気で煽られ慣れていないんだね。そのうち地団駄を踏んで「ムキーー!!」とか言い出すんじゃないだろうか。
さて、いい感じに困惑してくれているので、ここらへんでさらにだめ押しといきますか。
「ボクみたいなか弱い女の子が何の準備もしていない訳がないでしょう。このバトルスタッフはね、スピリットドラゴン様の力を受けたマジックアイテムなんだよ!」
「な、なんだとう!?」
今の話、実は本当です。アッシラさんの近くに置きっぱなしにしていたら、いつの間にか彼の加護が付いていました。
ただしその効果はというと、ものすっっっっっっごく微妙なものだった。
だって、使用した時極まれ――一パーセント以下の確率――に敏捷度が一増加する、というものだよ!?
そりゃあ、その一ポイントによって生死を分けることがあるということも起こり得るので、ないがしろにするつもりはないよ。
でもその発動確率が低過ぎない!?まあ、タダで付加効果が付いたと思えば文句を言える筋合いじゃないのだけど……。
ちなみにバトルスタッフの作成者はイーノやニーノの額当てやみんなの腹巻を作ってくれた古都ナウキの鍛冶師、クジカさんだ。
杖の本体は硬い木材で、威力を上げるためにその両先端部に金属を入れてあるのだとか。ナウキから旅立つ前にサブウェポンとして持っておけと半ば強引に手渡されたものだった。
ずっとアイテムボックスにしまったままになっていたのだけれど、サウノーリカへの樽に入っての移動中に、ボクも新しい戦闘方法を身に着けておいた方がいいと言われて、みんなと一緒に練習していたのだ。
その時に片付けを忘れてしまったことでアッシラさんの加護が付いてしまったのだから、本当に何が起こるかは分からないものだよね。
話を戻そう。バトルスタッフがマジックアイテムだと教えた結果、イツシたちは面白いくらいに挙動不審になっていた。
「ば、バカな……。『魔封じの宝珠』の影響で、他のマジックアイテムの使用もできなくなっているはず……?」
ああ、そういうこと。それなら加護の効果は発揮されていないのかもしれないね。あってもなくてもやることは変わらないからこちらとしては何の問題もないけれど。
「ふふん。邪神なんていうよく分からない存在よりもスピリットドラゴン様の力の方が勝っているということだよ!」
そんなことはおくびにも出さず、連中を追い詰めるために言い募っていく。ある町の薬師組合の組合長さんも「相手がまともに思考できない間に畳みかけてやるのがハッタリの肝だぜ」と言っていたし。
うーん、薬師組合がハッタリってどういう事なんだろうね……。きっと考えてはいけないことなんだよ……。
おっと、今はそんなことを考えている場合じゃなかった。せっかく相手が動揺してくれているのだから、その隙を突かずにいるのは失礼というものだよね!
「ランドルさん!」
「承知!」
今度はランドルさんと一緒になって部下たちに躍りかかる。ボクの術中にものの見事にはまっていた彼らは碌に反撃もできずに次々とランドルさんによって倒されていったのだった。
あ、ボクももう一人だけ倒すことができたよ。ボクだってやればできるのです!
そして倒された部下たちはティンクちゃんとシュレイちゃんによって身動きが取れなくされていった。
「そ、そんな……。神殿騎士とでも渡り合える実力を持っていた者たちが負けただと……?」
一人イツシだけがその状況についてくることができていないようだ。部下たちが負けたことが信じられないのかぶつぶつと呟いていた。
「神殿騎士と渡り合えるって、それ、魔法が使えた時の話だよね」
いくら荒事をこなしていて力があるといっても、しょせんそれは神官や司祭の中ではの話だ。本職である神殿騎士に勝てるはずがなかったのだ。
彼らの敗因は自分たちが得意とする魔法を使用できなくしてしまったこと、つまり『魔封じの宝珠』の使用にあったという訳だ。
新しい玩具を見せびらかしたい誘惑に耐えることができていれば、結果は違ったものになっていたのかもしれない。
まあ、そんなことが考えられるような人なら、そもそもこんな魔族討伐の総指揮官なんていう、失敗したら切り捨てられてもおかしくないような役回りを押し付けられてはいないだろうけれど、ね。




