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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
18 神殿 対 魔族
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297 魔封じの陣

「だが、これではっきりしたな。やはり『神殿騎士団』は我ら『神殿』に反意を持っていたのだ。反逆者をかくまっていたのだ、言い逃れはできんぞ」


 僧正の人、イツシだっけ?はニタリと嫌らしい笑みを浮かべる。だけど、こんな時ですら権力争いというか他人を蹴落とす算段をするなんて、『ミュータント』からの攻撃という危機にさらされている現状を理解しているのか心配になってくる。


「ファルスさん、あのおじさんとお知り合い?」


 どうにもよろしくない雰囲気を感じ取ったボクは、努めて気楽にそう声をかけた。


「あ、ああ。そうだ」


 場違い感すらある暢気な口調に触発されて、ファルスさんの緊張も解けていく。

 イツシの言葉通りであるなら、彼こそファルスさんを罠にはめた張本人ということになるからね、知らず知らずのうちに心と体が強張ってしまっていたのだろう。

 本当であればファルスさんやランドルさんが主体で話を進めるべきなのだろうけれど、ここは少し時間を稼いだ方がいいかもしれない。


「砦のすぐ外にまで『ミュータント』が迫って来ているというのに、おじさんたちは随分と余裕そうだね」


 なので、先程気になったことを口にしてみる。


「誰だ、この汚い小娘は?」

「無節操に光物を並べて喜んでいる悪趣味よりはマシだよ」


 悪態をバッサリ切り返してやると、顔を赤らめてわなわなと震えだす。イエスマンで周囲を固めていたのか、随分とまあ沸点が低いことで。


「あ、そうか!そうやって衣装を飾り立てでもしないと自分の貧相さが目立っちゃうんだね。でも体格は誤魔化せても、心根の貧しさは隠せないと思うよ?」


 さらに煽ると湯気が噴き出しそうなほど真っ赤になっていく。しかし、言われ慣れていないのか、怒りに言葉が出てこなくなっているようで、口をパクパクさせるだけだった。


「金魚みたいだね」


 ボクの素直な感想に、後方から耐えきれずに吹き出す声が続く。ちらりと目だけを動かしてみると、ファルスさんは口元を押さえていて、ランドルさんはバツの悪そうな顔をしていた。

 シュレイちゃんにいたってはツボにハマったらしく、蹲って片手でだんだんと床を叩いている。ティンクちゃんはそんな彼女の背中をそっと撫でていたのだけど、時折イツシに目を向けてはクスリと笑うことを繰り返していた。


「うぐぐぐぐぐ……!下賤の者ごときが僧正位を統べる大僧正たるこの我に向かって何たる無礼を!」

「大僧正?そんな役職もあるんですか?」

「いえ、慣例的に意見をまとめる者はいますが、そのような役はありませんね」

「大方、この仕事が終わればそのまとめ役を務めさせてやろうとでも(そそのか)されたのだろう」


 うわあ、単なる自称とか痛い人ですよ。


「でも命がけの任務の割に報酬が軽くないですか?普通、上の位への昇進になるものでは?」

「現在上位の枢機卿位は定員一杯になっているのですよ」


 ああ、詰まっているので上がれないと。そして交代させられるほど優秀でもないので慣例的なまとめ係にさせることにしたと。

 ……それ、使い捨てたり切り捨てたりする気満々なのでは?


「ぐぬう!我をそんな目で見るな!」


 思わず憐れむように見てしまったら途端にかんしゃくを起こし始めた。うみゅう、どうやら劣等感を刺激してしまったみたい。


「こうなったら貴様らは全員生かしては帰さんぞ!」


 ついに台詞が完全に悪役のものになってしまいましたよ!?


「やれ!」

「はっ!」


 イツシの命令にそれまで黙って佇んでいた部下たちが一斉に動き出す。うんにゃらかんにゃらと謎な呪文を唱えたかと思うと、広間の四隅に仕掛けられていた宝珠らしき物体がほのかに輝き始めた。


「ふははははは!これそ邪神様より授けられた『魔封じの陣』よ!この中にいる限り魔族の力は激減するのだ!」

「あ、魔族はいないから関係ないね」

「なんだと!?……ぬ、ぐぬぬぬぅ。そ、そうだ!それだけではないぞ!」


 と、さらに部下に指示を出すと、宝珠の輝きが増していき、うん?何か違和感が……?


「くっくっく。これで魔法を使うことができなくなったはずだ!」


 いや、「はずだ!」ってあなた、ちゃんと効果があるのか確認しておこうよ。ぶっつけ本番とか危な過ぎるよ。

 それに、


「それって、同じ部屋にいるあなたたちもじゃないの?」

「何を言うかと思えば。神々の加護を持つ我らがそんなことはあるはず――」


 いやいやいや、すっごく驚いているんですけど!?驚き過ぎて最後まで言えていないんですけど!?イツシだけではなく、部下たちもざわざわと戸惑っている。


 魔法、使えないみたいです。


 やっぱりね。敵対している相手側だけの魔法が使えなくするなんていう御都合主義満載なアイテムなんてそうそうあるはずがないのだ。

 ちなみにこちらもボクを含めて全員が魔法を使えなくなっていたので、戦力の大幅な低下になっていたことは確かだ。

 それでも神殿騎士のランドルさんがいる分、こちらの方が有利になっているのではないだろうか。


「魔法が使えない神官や司祭が何人束になったところで神殿騎士には勝てないでしょう。ささ、諦めて降伏しちゃいなさい」

「……くっくっく。こやつらをただの司祭や神官と侮っているようだな」


 まだ隠し玉があるのか、イツシはボクの降伏勧告に対して不敵な笑みを浮かべていた。見ると部下たちもニヤニヤと悪そうな顔になっている。


「あー、もしかして裏仕事とか汚れ仕事とかを請け負っていた人たちですか」

「なぜ知っている!?」


 当たりでした。

 魔法が使えなくても体術とかでまだ抵抗できると考えていたようだね。


「ランドルさん、あいつらどのくらい強いか分かる?」

「一人一人の力量は魔法が使えなくなっている分、一般的な神殿騎士よりも劣るでしょう。しかし一斉に襲いかかられるとなると、少々骨が折れそうですね……」


 それなら囲まれさえしなければボクでも時間稼ぎくらいはできるかな。

 この場にいるのはイツシを除いて七人。二人、いや三人の気を引くことができれば十分に勝目はあるだろう。


「三人引き受けます。でもそう長くは保たないので、手早くお願いします。ティンクちゃんとシュレイちゃんはファルスさんをお願い」


 指示を出しながらアイテムボックスから直接戦闘用のバトルスタッフを取り出す。


「分かりました。ですが、無茶はしないでください」

「リュカリュカ殿、気を付けてくだされよ」

「にゃ」

「にゃにゃ」


 皆の応援と心配の声を背中で受け止めながら一歩前へと踏み出す。

 それではリュカリュカちゃんの接近戦闘、本邦初公開ですよ。


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