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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
18 神殿 対 魔族
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296 いざ砦へ

 砦へと走りながら、ボクたちは内部に入ってからの行動について相談していた。


「とにかく一番まずいのは中にいる人たちを人質にされてしまうことだ。残っている連中の炙り出しと同時に非戦闘員を集めて安全を確保する必要がある」

「そうなると、手分けをした方がいいですかね?」

「でも、少ない人数での行動となると、その分危険なのでは?」

「あ、それじゃあうちの子たちを連れて行ってください。感覚が鋭いので不意打ちされる危険も減ると思いますから」


 何より体格変化があるので、建物の中のような狭い所でも動き回れるという強みがある。


「リュカリュカちゃんの方は平気なのかい?」

「たっくん、余計なことを言わないで!」

「そうよ。せっかくの提案なんだからありがたく受けさせてもらいましょう。あ、私はイーノ君と一緒がいいわね」

「雨ー美ちゃんズルい!それじゃあ、私はニーノちゃんと一緒!」

「あの、できれば私はコッカトリスのワトちゃんとビィちゃんが一緒だと嬉しいです」


 うちの子たち女性陣に大人気!

 そしてキリナさん、ちゃっかり二匹を希望しております。大人しそうに見えて、主張ははっきりするタイプのようだ。キャラの濃いタクローさんたち三人と一緒にいるのだからそれくらいはできて当然なのかもしれない。


 結局、砦の内部に詳しいタクローさんたち四人と先輩さんが『神殿』から派遣されてきた主に取り巻き連中の捜索と、閉じ込められているNPCたちの安全確保に回ることになった。

 そして彼らの相棒としてタクローさんにはエリム、先輩さんにはエッ君が、女性陣には希望通り雨ー美さんがイーノで、ユキさんがニーノ、キリナさんにはビィトが付くことになったのだった。


 アッシラさんの睨みが効いたのか、邪魔が入ることなく砦の入口の門へと辿り着く。

 だけどそこには当然のように中から鍵、というか閂がかけられて開けられなくなっていた。


「私だ!ランドルだ!中にいる者、閂を外してくれ!」


 ランドルさんが呼びかけるも無視をされているのか、それともそもそも人がいないのか応答がない。


「扉を開ける魔法でもあれば良かったんだけどな」


 ミロク君がボソッと呟く。


「なにそれ微妙!?っていうかそんな魔法があったら犯罪者が増えちゃいそうだよ!?」

「確かにMMOでは無理があるけど、一昔前のレトロRPGではあったらしいぜ」


 プレイヤーが一人だけで、しかも勝手に人の家どころかお城の宝物庫に入って宝箱を開けても問題ない、というかむしろそれをしなくちゃ話が進まなかったゲームの話を持ち出されましても……。


「冗談はさておき、時間もない。ここはオレが行ってくるから少し待っていてくれ」


 どこに?何を?と問いかける間もなく、ミロク君は一瞬で砦の壁を駆け上って行ってしまったのだった。


「か、壁を走って行った?」

「ニンジャ?じゃなくて忍者なの?」

「違う。微かな壁の凹凸を足掛かりにして登って行ったのだ」


 放っておくと「アイエエエエ!?」と奇声を上げそうなほど混乱しているタクローさんたちに先輩さんが正解を告げる。

 言われてみれば納得な内容だけど、それを実際にやるためには一体どれほどの身体能力が必要になるのやら。

 彼の非常識さにボク以外のプレイヤーだけでなくファルスさんとランドルさんのNPC二人の引きつった表情になっていた。


「ほい、お待たせ。……揃っておかしな顔をしてどうしたんだ?」


 そんなタイミングを見計らったかのように目の前の門がガコンと音を立てて開いたかと思うと、中からミロク君が現れたのだった。


「なんでもないよ。さあ、ここからが本番だから気を引き締めていこう!」


 わざと大きな声を出して皆に正気を取り戻させる。

 可愛いかわいいうちの子たちを預けるのだから、いつまでも呆けていられては困るのです。


「相手はどんな隠し玉を持っているのか分からない。くれぐれも無理はしないように。自分たちと非戦闘員たちの安全を第一に行動すること」

「はい!」


 先輩さんからの忠告に頷きあうと、タクローさんたちはそれぞれ砦の各所へと散っていった。


「それじゃあ、オレたちも行きますか!」


 一方、ボクとミロク君、そしてファルスさんにランドルさんの四人は総大将である僧正の人がいるであろう砦の奥へと向かうことになっていた。

 ちなみにティンクちゃんとシュレイちゃんのにゃんこさんコンビもこちらに付いて来てもらっている。表向きはボクたちの護衛だけど、実際のところはNPCの二人を守るため、だったり。


 ランドルさんもファルスさんもおおよその当たりは付いているのだろう、脇目も振らずにある建物へと真っ直ぐに向かっていた。

 そんな二人の背中を見ながらボクはふと気になったことをミロク君に尋ねていた。


「ねえ、あちらから『転移門』を使う場合でも、こっちの責任者の許可がいるのかな?」

「いやいや、どうやって許可を取るんだよ……、ってこのままにしておくのはまずいか」


 そう、いきなり敵の増援なんてことになったら、負けることはなくても――いや、本当のところミロク君が勝てない相手なんているのかな?――NPCの人たちに被害が出てしまうかもしれない。


「それじゃあ『結界』でも張っておくか」

「お願い。ボクは二人を追いかけるよ」


 そんな訳でミロク君と別れてボクはファルスさんたちの後を追った。

 目的の建物は砦の本体とでもいうべき一際(ひときわ)大きいものだった。そして入ってすぐの大広間でファルスさんたちはそいつらと対峙していた。


「うわあ……」


 ボクの口から何とも言えない声が漏れ出てしまったのも仕方のないことだと思う。

 だって、そこにいたのはアッシラさんの尻尾にふっ飛ばされてお星さまになったあの派手なおじさんに勝るとも劣らないほどギンギラギンな人たちだったのだから。


「ランドルさん、もしかしなくてもこの人たちが……?」

「そうです。彼らが『神殿』より派遣された、総指揮官のイツシ・キューとその部下たちです」


 あれ?運営さんのことだからてっきり『ゴー・ヨックー』とか『バリィ・ツクゴゥ』とかそういう名前でくると思ったんだけど、違っていたね……。


「ふん!下等な神殿騎士程度の分際で軽々しく我が名を口にするな」


 そう言った派手軍団の中でも一際派手な服装のおじさんは、明らかにこちらを見下した目をしていたのだった。


「そしてファルスよ、まさかお前にこんな所で会うとはな……。大人しく追い払われていればいいものを。忌々しい!」


 あ、どうやらファルスさんとも因縁がある人みたいです。


今回登場した敵役のイツシ・キューですが、名前の元は『強欲』です。


強欲 ⇒ ゴーヨク ⇒ 549 ⇒ いつつ、し、きゅう ⇒ イツシ・キュー


毎度ストレート過ぎるのもあれなので、今回はこねくり回してみました。

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