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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
18 神殿 対 魔族
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294 最悪な同盟?

 おかしな闖入者(ちんにゅうしゃ)の乱入という予想外の出来事があったものの、とりあえずボクたちは先輩なる神殿騎士のプレイヤーさんがランドルさんを連れて来るのを待つことにしたのだった。


 実はこの時点で妨害が発生して、最悪一部の『神殿』寄りの勢力を力づくで行動不能にする必要があるかもしれないと考えていた。

 そのため、アッシラさんの無垢なる尻尾の一撃――悪意がなくただの偶然の行動だったので――で謎のおじさんがお星さまになったのを見て、それ以降ボクたちの間に割って入ろうとする人がいなくなったのは想定外の幸運だった。


 ちなみに、ボクたちが立っている場所も、アッシラさんの尻尾が絶対に届かない彼の前方へと移動しておりましたとさ。


 前方ではそれまでの鬱憤を晴らすかのように、プレイヤー、NPCを問わず多くの神殿騎士さんたちが『ミュータント』へと攻撃を繰り出していた。

 時折、大爆発や氷の嵐などの魔法も乱れ飛んでいて、離れて見ている分には見ごたえのある面白い光景だった。

 ただ、


「あれだけの大魔法となると、絶対に巻き込まれている人がいるよね……」


 時々人影らしき姿が宙を舞っているのが見えていたので間違いないと思う。


「あー、でも一応巻き込む相手はちゃんと確認しているようだ。吹っ飛んでいるのは全員プレイヤー(元冒険者)ばかりみたいだな」

「え?この距離で分かるのかい!?」


 何気なく発したミロク君の言葉にタクローさんが食い付いてきた。

 やばっ!ミロク君の能力は一般のどころかトッププレイヤーと比べても段違いに高いことを忘れていたよ!


「ああ、うん、まあ……」


 曖昧に返しながらも失敗したという表情が見え隠れしている。ファルスさんは知らぬ存ぜぬで通すつもりなのか明後日の方向を向いていたけど、それ、余計に怪しいのではないでしょうか?


「すごいな、相当鍛えているんですね」


 そんなボクたちの内心を知らないタクローさんは素直に感心していた。

 うッ、その真っ直ぐな視線が痛いです!直接ではないボクですらそう感じるくらいだ、当人であるミロク君はものすっごく居心地が悪そうにしていた。


「あれ?」


 ふと、タクローさんの顔がしかめられる。

 え?今度は何?


「ええと……、君、どこかで会ったことありませんか?」


 じーっと何かを思い出すように、ミロク君に熱いまなざしを向け始めたのだった。


「たっくん!私たちだけじゃ飽き足らずに、男の人まで!?」

「ええええええ!!!?」


 ユキさんのトンデモ発言にボクとミロク君、だけでなくなぜかタクローさんとキリナさんの叫びも綺麗に重なったのだった。


「こら、ユキ!話をややこしくしないの!」

「あいた!」


 と、一人冷静に雨ー美さんが突っ込みを入れるのを見て、ようやく冗談であることに気が付くボクたち。


「でも、たっくんは無自覚に無節操だから私たちが気を付けておかないと」

「う……、それは一理あるかも」


 えーと……、冗談、だよね?


「二人とも悪ふざけが過ぎますよ」

「いい加減にしないと晩御飯抜きにするぞ」

「わっ、ごめんなさい!」

「それだけは許して!」


 そしてキリナさんのお叱りとタクローさんの脅し?に二人はすぐに謝っていた。


 なんというか、仲が良くて大変結構なことですね!

 それとタクローさん、リアルでの身バレがしそうな発言は慎みましょうね!


「この湧き上がる苛立ちと殺意をぶつけられたなら『ミュータント』程度は瞬殺できる自信があるな」


 いちゃつく四人の姿にやさぐれていると、同じくやさぐれたミロク君の呟きが聞こえてくる。ボクと彼との間に再び謎の連帯感が生まれた瞬間だった。


 彼らに任せていると一向に話が進まないので、まとめてしまいますと、ミロク君、確かにタクロー君たちと出会ったことがあったのでした。

 ちょうどラーメン騒動の頃の話で、所用――ミソとショウユの情報を売って食料を買おうとしていたそうだ――で古都ナウキを訪れたのだけど、酔っぱらったプレイヤーに絡まれてしまったのだとか。

 まあ、その酔っ払いたち自体はあっさりと退治したのだけど、その後取り締まりなどで面倒なことになりそうだったのを、タクローさんたちが助けてくれたという流れらしい。


「あの頃は神殿騎士になったばかりだったものだから、騒ぎがあるたびに首を突っ込んでいまして……」


 タクローさん的には調子に乗っちゃっていた頃のことなので、素直に喜べないみたいだ。


「だけどオレたちが助かったのは事実だ」


 うん、そこは成果としてちゃんと胸を張るべきことだとボクも思う。……まあ、本人からすれば黒歴史に近い状況を誇れと言われても、痛い子扱いされているようにしか思えないかもしれないね。


「……しかし、そう考えると、ここでオレが助けに入ったことも因果を感じるものがあるな」


 因果というか、魔王であるミロク君と接触したことが何かしらのフラグとなっていた可能性はありそうだ。


「人との出会いは一期一会だが、さらなる縁を紡ぐこともある。二人がこの場に居合わせたのは、以前の出来事がきっかけだというのは十分にありえることでしょう」


 というファルスさんの台詞から推察するに、ゲーム的には今回の件はいくつかの前提条件を満たしたことで発生した連続するイベントの一つという扱いなのかもしれない。

 そういえば、狂将軍の時にご一緒した他の神殿騎士のプレイヤーさんたちもこの場には集められていた気がする。


「ふむ、リュカリュカ殿やアッシラ様との縁もありますが、あの一件はいわば『神殿』の暗部に当たります。関係者を集めて口封じをしようと画策した者がいるとも考えられますかな」


 想像を口にしてみたら、とんでもない事実――ファルスさんの予想だけどきっと当たっていると思う――が判明してしまいました!?


「決定。『神殿』の上層部は必ず叩き潰します!ミロク君が!」

「オレかよ!?そこは自分でやろうよ、リュカリュカちゃん!?」

「もちろんボクもやるけど、ミロク君も手伝ってくれるよね」


 ニッコリと微笑みかけると、ミロク君は「はあああ……」と盛大なため息を吐いた。


「仕方がない、どうせ乗り掛かった舟だし、今の『神殿』を放っておくとまた余計なちょっかいを出されてしまいそうだしな……。分かった、やるよ。その代わり徹底的に掃除するからな」

「そうこなくっちゃ!」


 再びがっしりと握手を交わすボクたち。後にこの時のことが『最悪の同盟結成の瞬間』と呼ばれるようになる、のかもしれない。


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