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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
18 神殿 対 魔族
302/574

293 驚愕の退場

今回から再びリュカリュカちゃん視点に戻ります。


それと『びぼーろく』を除き、今話で通算300話目となりました。まだまだ終わりの見えない本作ですが、読者の皆様には引き続きお付き合いを続けて頂けたら嬉しいです。

……ここまで書いておきながら間違っていたら、僕、かなりなおバカですな(汗)。

 アッシラさんと援軍の魔族――まだ正体は秘密にしているけど――の登場に、プレイヤーを中心とした神殿騎士さんたちの士気が一気に跳ね上がったのを感じた。

 だけどまだ完全な反撃の時じゃない。居座っているお邪魔虫を排除して、砦の権限を取り返さなくちゃいけないのだ。

 魔族の人たちにもそのための時間稼ぎをしてもらえるようにお願いしてあるし、アッシラさんにもそれらしい言葉で鼓舞してもらった。

 だけど、かなりテンションが上がってしまっているから、アッシラさんの台詞の意味に気が付く人がいるのかちょっと心配になってきたよ。


「おいおい……、プレイヤーだけじゃなく、NPCまで突撃していったぞ」


 どうも防戦一方で参加者は全員かなりのストレスが溜まっていたみたいだ。ミロク君ですら心配する勢いで『ミュータント』への反撃を開始していた。


「恐らくは気持ちがはやって前線へと向かって行ってしまっただけでしょう。魔族の方々もおられることですし、それほどの無茶はしないかと」


 アッシラさんの背から降りながら、ファルスさんが答えてくれる。


「ただ、こちらの協力予定者まで戦いに行ってしまったのは少々予定外でしたが……」


 そうなのだ。砦に入るために協力してもらおうと思っていたランドルさんまでも『ミュータント』との戦いに参加してしまっていたのだった。ええ、NPCの神殿騎士さんたちの先頭に立って「今こそ好機だ!」とか言って走って行ってしまったので間違いないです。


「リュカリュカちゃん!?」


 どうしたものかと悩んでいると、聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。


「え?あ、タクローさん!?」


 振り返ると、狂将軍の怨念に止めを刺した――あの技の名前を叫んでいた人ね――タクローさんと三人の女性プレイヤーがこちらに近づいて来ているところだった。


「やっぱりリュカリュカちゃんだ!?」

「それじゃあ、こっちのドラゴンはあの時のスピリットドラゴンなの……?」

「うわあ、ユキさんに雨ー美さんもお久しぶり!あ、そちらの人は初めまして、ですよね?」


 懐かしい顔ぶれに思わず笑顔がこぼれる。


「あ、はい。神殿騎士見習いのキリナといいます。よろしくお願いします」


 強気系美少女の雨ー美さんに、おっとり系美少女のユキさん続き、清楚系美少女ですと!?


「タクローさん、なかなかやりますね」

「???ありがとう?」


 うわ、この人無自覚だ!


「無自覚ハーレム主人公を地でいく人間っているんだな。オレ、ちょっと感動したよ。……同時に殺意も芽生えたけど」


 ええ、ボクも全くの同感です!がっしり握手をしたミロク君と謎の連帯感が芽生えた瞬間でした。


「ああ、もう!話が進まないったら!『神殿』と無関係のあなたがどうやってこのサウノーリカに来たのかとか、そっちの彼らは誰なのかとか色々尋ねたいことはあるけど、とにかくこれだけは聞かせて。あなたたちや『ミュータント』と戦っている覆面の連中は味方だと思っていいのね?」

「はい。その認識で大丈夫です」

「でも、どうして「もう少し耐えろ」なの?『ミュータント』を倒すチャンスだと思うのだけれど?」


 あ、良かった。ちゃんとアッシラさんの台詞を聞いてくれていた人がいたよ。


「このまま勝ってしまうと、『神殿』に手柄を取られちゃいそうなので、先にそっちをなんとかしようと思って」

「それは助かる!実は砦の中の非戦闘員の人たちを人質に取られてしまっているんだ」

「人質ですと!?それはどういうことですか!?」


 ミロク君たちの報告になかったとんでもない事態を耳にして、ファルスさんがタクローさんに詰め寄った。


「え?あ、この人は?」

「今回の作戦のキーパーソンで、元『神殿』の司教さん。大丈夫、信頼できる人ですよ」


 目を白黒させているタクローさんに告げると、こちらにも事情があることを察してくれた雨ー美さんが説明をしてくれた。


「うぬぬ……、戦えない人間を残したまま『転移門』の使用を禁ずるなど一体何を考えているのだ!?」


 非戦闘員を巻き込むやり口にファルスさん、怒り心頭です。


「先輩の話だと、派遣されてきた責任者は邪神の影響を受けている可能性が高いらしい。最悪、全滅することも計画の内かもしれないそうだよ」

「あー……。あいつならやるかもしれないなあ」


 タクローさんの言葉にミロク君が納得顔をしている。邪神と名乗っているだけあって、どんな悪どい方法でも平気で使ってくるような相手だそうだ。


 ちなみに先輩というのは、狂将軍の怨念退治の時に色々と指示を出してくれていたプレイヤーさんの事らしい。「事情があって名乗れないので取り合えす先輩とでも呼んでくれ」ということで、他のプレイヤーからも先輩呼びが定着しているのだとか。

 NPCからも神殿騎士を意味する「テナ様」呼びで通しているとのことで、徹底したロールプレイヤーのようだ。

 ……なぜかミロク君が微妙な顔をしていたのが気にならないでもないけど。


「そうだった!その先輩が今、ランドルさんを捕まえに行っているんだった!」


 タクローさんや、そういう大事なことは最初に言ってくださいな。雨ー美さんたちも知らなかったらしく、ボクたちと同様にジト目になっていた。

 そんな訳で先輩さんとランドルさんがやって来るのを待っていたら、


「おお!これがスピリットドラゴンか!やはり神々は我らを見捨ててはいなかったのだな!」


 随分と偉そうな物言いが聞こえてきた。何様だと思い、声のする方へと顔を向けて絶句しました。そこにはギンギラギンにさりげなくない自己主張の激し過ぎるおじさんが立っていたのです。

 いや、『アイなき世界』ではフルプレートの鎧とかあるから別に全身金属で固めている姿はそれほど珍しくない――アルス君の部下の兵士さんとかね――のだけれど、彼の場合はこれでもかというほどに金銀宝石で飾り立てていたのだ。

 それがまあ、悪趣味なこと。下品な金持ちのイメージそのままといった感じとでもいえば伝わるだろうか。プレイヤーなら装備するだけで「なんの罰ゲームだ!?」と叫び出すこと請け合いな姿だった。


「貴様らはそんなところで何をしている?さっさと『ミュータント』を倒しにいげっへええええ!?」


 文句を言いながら近づいてきた悪趣味派手ハデおじさんが、アッシラさんの尻尾にびったーんと張り飛ばされた!?


「おっと、すまないな。皆の戦いを見てつい(たぎ)ってしまった。ところで我の尻尾が何かに触れたような気がしたのだが……、気のせいだったか?」


 そんなアッシラさんに対してボクらができた事といえば苦笑いを返すことだけだった。


 そしてあのおじさんが『ミュータント』の強さを測り切れずに、無謀にも本隊を突撃させたあげく半壊させた張本人の無能指揮官だったとボクが知ったのは、この一件の全てが終わった後のことになるだけど、それはまた別のお話し。


退場したのはダメ指揮官でした。

こういう勘違いした悪役があっさりやられて退場していくというパターンが好きなもので。


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