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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
2 新装備でパワーアップ!
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26 これで作ってください

 い、居心地が悪い……。


 魔獣の森から古都ナウキに帰ってきた翌日、ボクたちはクジカさんの鍛冶工房にやって来ていた。

 『超巨大デスファングの毛皮』から切り取ったデスファングの毛皮――最上質となっていた――を使って、テイムモンスターたちの武具を何か作ってもらうためだ。


 ところが、毛皮を見せた途端クジカさんは難しい顔になって黙り込んでしまった。


「嬢ちゃんよ、本当にこれだけしか手に入らなかったのか?」

「そ、それだけでしゅ……」


 おっかない顔つきと低い声で問われて、思わず噛んじゃった。

 一応ママやデカファングに遭遇する前に倒した魔物の素材も持っているけれど、クジカさんが聞いているのはそういうことじゃないよね。

 ボクでも切り取ったと分かるくらいなのだから、クジカさんからすればドロップした品のほんの一部だとすぐに気付いただろう。


「……はあー。まあ、嬢ちゃんの力量で無事に魔獣の森から帰って来ただけでも上出来か。悪かったな、つい上質の素材に我を忘れちまった」


 ガリガリと頭をかきながら謝って来るクジカさん。デカファングに止めを刺したことで、ボクのレベルは十まで上がっていたのだけれど、それでも適正レベルには到底届かない。

 そんなボクをフォローしながらあっさりと出てくる魔物たちを倒していたんだから、バックスさんはどれだけ強いの?って感じ。


「こちらこそごめんなさい。ちょっと色々と話せないようなこともありまして……」


 プレイヤーならともかく、NPC相手に魔王に遭遇したなんてことを話したら、どんな騒ぎになるか分かったものじゃないし。


「そういえばラーメンだかなんだかいう食いもんの材料探しに行ってたんだったな。でかいギルドが関わっているから情報に規制がかかっているのか?」

「えっと、そんなところです」


 上手い具合に勘違いしてくれたので、ちょっと良心が痛むけれどそれに合せておこうっと。


「それにしても随分と大袈裟なことになっちまったな」

「悪ノリしている人も結構多そうですけどね。でも、ロヴィン君と『はぐれ者』さんに会いに行った時にはこんな大事になるとは思ってもみなかったです。あ、そういえばロヴィン君は元気にしてます?」

「あいつなら自分用の装備品の素材探しのついでに、ラーメンとやらの材料集めをしているって話だ」


 聞いてみてびっくり、なんとロヴィン君はアーチャーの上位職であるハンター――つまり最低でもレベル二十っていうこと――で、かなりの腕前なのだそうだ。


「それで、この毛皮を使っておチビちゃんたちの装備を作ってやればいいんだな?」

「はい。お願いします」


 もし余るようなら、ボク用に鷹匠(たかじょう)みたいにワトがとまれるようなパーツを作ってもらうのもいいかもしれないね。


「ウリボウたちの方はこれで頭や胴体を覆ってやれば、自前の毛皮と合わせてかなりの頑丈さになるだろう。だが、攻撃となると少し物足りないな……。頭の方には金属板と角でも付けるか」


 なにそれ?

 ユニコーンならぬウリコーンになるの!?カッコカワイイかもしれない!


「ぜひそれでお願いします!」

「お、おう。しかし、片方の子は防御に回る方が多かったんだろう?どうせなら少し変えてみるか?」


 言われて見ると、確かにニーノはボクの護衛に回ってくれることが多い。


「そうですね。その辺りはお任せします」

「うむ。とりあえず在庫から使えそうな物を探しておく。……問題はそっちの新顔のおチビたちだな」


 そういってクジカさんはワトとビィを見る。当の一羽と一匹は見られていることなど気にせずにイーノとニーノと一緒になって部屋の隅の方で遊んでいた。

 そうそう、テイムして分かったことだけど、融合前のワトはコッカバードで、ビィはコッカスネークという別々の種族扱いとなっている。


 だけど、テイムモンスターの枠としてはコッカトリスとして――名前はビィトで登録――一枠しか使用していない。

 そのためレベルが十になったボクは、実は後もう一匹テイムできる状態になっていたりする。

 このことと、ボクが撮った孵化の映像が公開されたことでテイマー掲示板は大騒ぎになった。というか今も炎上状態が続いている。

 昨日なんて『聞き耳のウサギ亭』には多くのテイマーのプレイヤーが押し寄せてきて落ち着く暇もなかったよ。


 キメラとか合成獣でも同じことが起きるんじゃないかという仮説が出ているけれど、さてさて、どうなることやら。

 ママが分離して見せなかったことから、もしかすると子どもの時だけ――ゲーム的に言うと低レベルの間のみ――のボーナス的なものなのかもしれない、と予想してみたり。


「防具で体を覆っちまうと、融合する時に邪魔になるかもしれないな。……まずは頭部だけで様子を見て、それから本格的に作るか?」


 ぶつぶつと構想を練るクジカさん。


「クジカさんはワトとビィのこと驚かないんですね」


 NPCだから、という訳じゃない。実際、昨日会ったアルコースさんやプリムさん、道具屋の店員さん、そして『聞き耳のウサギ亭』の女将さんや料理長のおじさんはしっかり驚いていた。

 フミカさんだけは楽しそうにしていたけれど、あの人はテイムモンスターがいるといつも楽しそうなのでよく分からない。


「わしも若い頃は大洞掘中を歩き回っていたからな。さすがに分離した状態のコッカトリスを見たことはなかったが、知ってはいた。街の大図書館にある『魔物大全』って本にも書いてあるぞ」


 ナ、ナンダッテー!


「それ本当ですか!?」

「嘘をついて何の得になる。なんじゃ、最近の冒険者はそんなことを調べもしないで狩りに行っているのか?」

「冒険者協会の資料室にある『魔物図鑑』は見ているけど、図書館に通っている人はほとんどいないと思います」


 後はプレイヤーなら外部の攻略サイトを見ている人が多いと思う。


「これは冒険者たちと言うより『冒険者協会』の方に問題があるな」


 クジカさんは呆れたように溜め息を吐いた。


「どういうことですか?」

「最近冒険者が負傷することが続いているらしくてな。『冒険者協会』から武具をできるだけ安く販売してくれという要請があったんじゃよ。しかし情報の重要さも教えずに放りだしているようじゃあ、いくら装備を整えたところで何も変わらないだろうな。

 大方、どこかの店と通じて懐を温めている職員でもいるんだろう」


 わーお、ゲームなのになにやらドロドロとしてきましたヨ?


「えっと、とりあえず知り合いの人たちには図書館と『魔物大全』のことを話しておきます」

「それが良いだろうな。それじゃあこの毛皮は預かるぞ。案と見積もりをまとめておくから二、三日したらまた来てくれ」

「はい。よろしくお願いします。……皆、行くよ」


 遊んでいるテイムモンスターたちに呼びかけて工房から外に出る。

 すぐにイーノとニーノがやってきた。その背中にはそれぞれワトとビィが乗っている。

 くっ付いてこなくなって少し寂しいけれど、それ以上に二匹の成長が嬉しかったりする。

 でもやっぱりちょっと寂しい。


「さて、と。久しぶりにお姉さんのシチューを食べに行こうか」


 クジカさんから聞いた『魔物大全』のことを掲示板に書き込みながら、ボクたちはのんびりと屋台通りに向かって歩き始めた。


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