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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
2 新装備でパワーアップ!
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25 さらば!魔獣の森

「さすがはプレイヤー(冒険者)。食い付きが良いな」

「まさかこれほどとは……。マスターの慧眼(けいがん)、恐れ入りました」


 ボクたちの反応にグドラク君は笑い、女の人はちょっと引いていた。

 しかしこの後、ちょっとした問題があることにバックスさんが気付いた。


「俺たちがこの情報を持って帰ると、絶対に出所を聞かれることになるよな」


 必ず聞かれますね。押し寄せてくる人波……。うわー、想像しただけで人に酔いそう。


「そんなことで追いかけ回されるというのは、我々としても避けたいところですね」

「でもどうする?今更取引中止はなしだぞ」


 苦い顔をする二人。ボクとしてもせっかくの貴重な情報を無かった事にはしたくない。


「あんたたちは街に入るのは問題ないんだよな?」

「?特に問題なく入ることができるぞ」

「それなら、古都ナウキにある『料理研究会』と『美味倶楽部』という二つのギルドに情報を書いた紙を放り込んでもらえないか。」


 バックスさんの提案にグドラク君が考え込む。これはちょっと図々しいお願いだったかな?


「そのくらいなら大した手間でもないけど……。でも、あんたたちはそれでいいのか?情報を持ち帰った名誉を捨てることになるぞ?」

「騒がれて動き辛くなるから、ボクは名誉なんていらないかな」

「同感だ。ミソやショウユが大量に再現されて、安く手に入るようになるならそれで十分だ」


 そんなボクたちに「欲がないなあ」と笑うグドラク君だけど、彼も僕らと同類と見たね。

 だって名誉が欲しいなら、最初から街で情報を公開すればいいし、何よりその情報を秘匿して自分たちでミソやショウユを作って売れば簡単にお金を稼ぐことができるはずだから。


 さて、商談が成立したところで『お肉』をどんどんと渡していく。

 それにしてもこの女の人は一体何者なんだろう。

 ボクが四苦八苦して取り出した『お肉』を片手でひょいっと掴んでは自分のアイテムボックスに入れていた。


「先払いにしてもいいのか?俺たちが情報を教えずに逃げるかもしれないぞ?」

「その時はグドラクっていうプレイヤー(冒険者)がミソとショウユの在りかを知っているって掲示板に書き込むから問題ないよ」


 きっと料理ギルドの人たちが総出で地の果てまで、もとい大洞掘の壁際まで追いかけてくるだろうね。


「確かにそれやられたら洒落にならないな……」

「だからきっちりと約束を果たして下さいね」


 ニッコリ笑いながら言うと、引きつった顔で「了解……」と返してくれた。


 無事『お肉』の引き渡しも終わったことだし、これにて一件落着かな。……んー?ちょっと待って。


「バックスさん、産卵所については秘密にするだけで大丈夫なんでしょうか?」


 卵自体はコッカトリスのドロップ品だから持ち帰っても怪しまれないだろうし、ボクたちも秘密にするつもりでいる。

 だけど似たような隠しクエストを受けて、ここにやって来るプレイヤーがいないとは限らない。

 実際、グドラク君たちも来ているし。


「あー、あれを見られるのも問題だよな……」


 バックスさんの視線の先にあったのは巨大な牙と毛皮。

 ソウイエバ、ソンナモノモアリマシタネ。


 ちなみにボクのテイムモンスターたちは遊び疲れたのか、毛皮の上ですやすやと寝ていた。ママもその近くでうとうとしている。


「和む光景だなあ……」

「はい。マスター。魔物だからといって安易に狩るべきではないでしょう」


 そう言うグドラク君たちの、特に女の人の言葉にやけに深くて重たいものを感じたような気がしたんだけれど、ボクの勘違いだったのかな?


「なあ、もし良ければこの付近に『結界』を張っておこうか?」

「『結界』?」

「そう。元々は魔物が寄ってこないセーフティーエリアを作るものなんだけど、その応用で、指定した特定のものだけ行き来できるように設定できるんだ」


 なんですのん、そのとんでも技能!?


「それは特殊な技能なのか?」

「え?ただの空間魔法の一つだけど?あれ?使える人はいないのか」


 困惑するグドラク君の隣で、やれやれと深いため息を吐くお連れの方。


「マスター、いい加減に自分が特別なのだと言うことを理解して下さい。空間魔法の使い手なんて、マスターを除けば『賢人の集い』の上位数名と、『神殿』の同じく上位数名くらいなものですよ」


 NPCの中でも最強クラスの人たちがきましたー。さすがはレベル百オーバー。格が違う!


「バラしてしまったものは仕方がありません。さっさと『結界』を張って、安全を確保してあげて下さい」

「……はい」


 あはは。グドラク君、マスターのはずなのに叱られて小さくなってるよ。


「『結界』を越えられるのは、魔獣の森で生まれた魔物たち、でいいか?」

「ああ。森の魔物は外へ出ることもないから、周囲の村や町に被害が出ることもないはずだ」

「了解した」


 『結界』の魔法自体はその後すぐに完了した。あっという間過ぎて、観察もできなかったよ。

 ボクたちはあらかじめその中にいたということで、特別に行き来できるようになっているそうだ。なかなか臨機応変というかファジーなところがある魔法だね。


「それじゃあ、そろそろ帰るとしようか。『肉』助かったよ。どうもありがとう」

「こちらこそ『結界』とか色々とありがとう」

「ミソとショウユの情報は二つのギルドにきちんと伝えるよ。また会うことがあるかは分からないけど、それじゃあ」


 グドラク君はぶんぶんと手を振りながら、連れの女性は静かに一礼して去って行った。


「変わった人たちでしたね」

「ああ。変わった二人組だったな」

「グドラク君って多分あの人だと思うんですけど、どうなんでしょうか?」

「奇遇だな。俺も多分あいつなんじゃないかって思う奴がいる」


 ――魔王。

 一月ほど前に突然誕生したと告知があった謎の存在。


「考えた所でどうなる訳でもなし。俺たちもおっかさんに挨拶してそろそろ帰ろう」

「そうですね。煮玉子に焼き豚、楽しみです」


 こうして、魔獣の森での密度の濃過ぎるような一日は終わりを告げることになった。




 翌日、ボクたちが馬車で古都に帰り着くと、『謎の料理人えーっくす!』なる人物からミソとショウユらしきものが存在すること伝えられた、と二大美食ギルドが共同発表して大騒ぎになっていた。


 グドラク君、その偽名はどうかと思うよ……。


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