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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
8 新しい大地、もう一つの大地
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107 アイデアを詰め込もう

「何だ、そんなことか」


 ボクたちの話を聞き終えた師匠が発した第一声は失礼極まりないものだった。


「リュカリュカ、君は一体何者だい?」


 憮然とするボクに向かって師匠は呆れたように問いかけてくる。


「何者って……。ハイテイマーの冒険者ですけど」

「そうだね。だけどそれだけじゃない。君は錬金術師だ。しかも天才である私の弟子だ」


 ええと、つまりどういうこと……?


「丁度良いアイテムがないなら、作ってしまえばいいじゃない!ってことさ」

「はいいい!?そんなことできるんですか?」


 ボクが出した大きな声にみんなが驚いてビクンと跳ねていた。ごめんね。


「普通の錬金術師では無理だろうね。でも君はこの()()錬金術師である私の弟子だ。そのくらいはできる、いやさ、できなくちゃ困る」


 話しているうちにテンションが上がってきたのか、師匠はそんな無茶を言いだした。


「できなくちゃ困ると言われても、こっちが困るんですけど……。大体、錬金に必要な素材がどこで取れるかすら知らないんですから」


 そう言い返すと、諦めるどころかニヤリと笑った。


「そんな言い方をするということは、一度は自作を考えてみたことがあるということだね」


 うぐ……。妙なところで鋭いなあ、この人は。実は師匠の言う通り、収納ボックスについては一度自作をしようと考えたことがある。ほら、生活魔法を覚えようと図書館に通っていたことがあったでしょ。あの時に面白そうな本を見つけていたんだよね。

 タイトルは『魔物隔離論』。薬品から空間魔法まで、ありとあらゆる技術(わざ)を用いて魔物を一定区域に隔離する方法が論じられていた。


 その中に、テイムモンスター専用の収納ボックスのような持ち運びができるアイテムに魔物を隔離する研究についても書かれていたのだ。もっとも、その研究自体は当時の権力者によって中断させられてしまっていたのだけれど。

 まあ、当然だよね。想像してみて欲しい、町のど真ん中で収納ボックスのような物から次々と魔物が飛び出してくる様を。そういう事が起こりかねない危険な研究だったという訳だ。


 ちなみに現在の収納ボックスは、対象をテイムモンスターに限定していて、さらに町中では一切使用できないという制限がついている。そして、これら付加効果が付いているからお高いお値段になってしまっているのだった。


「古都ナウキの大図書館で『魔物隔離論』を読んだのかな?」

「どうしてそれを?」

「あの写本を売りつけたのは私だからだよ。『賢人の集い』から何か聞かれても誤魔化してもらえるように、持っていた数冊の写本と一緒に渡したのさ。全て暗記していて重い荷物でしかなかったから、処分できて助かったよ。もっとも、結局他のルートからバレてしまったようだけれどね」


 師匠……、あなた一体何をやったんですか?気になるけど、怖くてとても聞けないよ。そしてちゃっかり自分は記憶力が良いアピール……。


「あれを読んだということは、大まかな理論は頭に入っているのかな?」

「入っていますけど、空間魔法ありきな考え方でしたよね」


 『転移』の魔法を使って指定した空間とを繋ぎ合わせる簡易式のワープゲートのようなものと言えば分かり易いかな?


「出回っている収納ボックスだって同じようなものさ。空間魔法を使える人間自体が少ないから、大量に作ることができないんだ」


 グドラク君と一緒にいたあの女の人の話だと、確か『神殿』と『賢人の集い』のそれぞれ上位数名だけしか空間魔法の使い手はいないらしい。うん、そりゃあ値段が高いのも無理はないね。

 それにしてもどちらの組織が作っているんだろう?師匠が事情を知っているから『賢人の集い』かな?案外神のお告げ(運営の無茶振り)で、『神殿』の人たちが作っているかもしれない。

 そして収納ボックスは一体どこに繋がっているんだろう……。な、謎だ。


「だけど、ただ単に箱や袋に魔物を入れるだけであれば、そんな手間をかける必要はないはずだよね」


 にんまりと笑う師匠に、ボクはため息を吐いて答えた。


「確かに体格変化技能や大きさ自動調節の付加効果があれば入れることはできますけど、それを持ち運びするとなると、中に入っているのは大変ですよ」


 きっと乗り物酔いどころの騒ぎじゃないだろう。


「そこはさらに効果を付け足してやればいいのさ。例えば振動無効とかね」


 おおう!それなら中にいても大丈夫そうだ!


「そうなると……、押されて潰れちゃったら困るから、頑丈とか形状変化無効も必須じゃないですか?」

「おっ、良いところを突いてくるね。耐久度上昇に腐食無効も欲しいかな」

「長時間中にいてもらうことを考えると、居心地を良くしておきたいです」


 こうなると、後は坂を転げ落ちるだけといった感じで、師匠と二人して『素敵収納ボックス』の案を出していった。


「あの……、お二人の考えを全部詰め込むと、とんでもない物ができそうなのですけど……」


 せっかくだからと、使えそうな案を片っ端からメモしてくれていたティンクちゃんが、恐る恐るそのメモを差し出してきてくれた。

 ……うん。悪乗りしていたことは認める。バリア機能とか自動反撃機能ってなによ。往年のロボットアニメの秘密基地か!?


 ……秘密基地?


「師匠、これに守護石をくっ付けたらどうなりますかね?」

「どうって、それはセーフティー、エリア……に!?」


 さすがは師匠。ボクの言いたいことに気が付いたみたいだ。

 守護石が使い捨てなのは、一度設置して効果が発揮されるとその場から動かせなくなるためだ。その上、最初に範囲内にいた人にしか効果がないので、出発する時には無効果するのがマナーになっている。

 一方、連続使用に関しては最大で一週間効果があったという検証記録が掲示板に上がっているけれど、日数と出入りした回数に関係しているのではないかとも言われている。


「試してみないと分からない部分はあるけれど、普通に守護石を使用するよりは、よほど効率のいいやり方に思えるね」


 師匠と顔を突き合わせて笑う。上手くいけば持ち運び可能な拠点ができるのだから笑わない訳にはいかないよね。


「これは面白いことになりそうだ。ヒントだけ与えて後は任せるつもりだったけれど、私も手伝おう、いや、ぜひとも一枚噛ませてくれ」


 かくして、『素敵収納ボックス』改め『素敵拠点ボックス』作成のため、ボクと師匠はこの関所の町を中心に素材集めに走り回ることになるのだった。


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