105 旅の苦労
古都ナウキを出てから一週間くらいで、アルス君が領主をしているズウォー領と王弟派の本拠地であるラザリ領との境に着いた。
野宿はしないで町に泊まるようにしていたから、全ての時間を移動に使えていなかったのが響いているなあ。あ、どこかの誰かの指令で、うちの子たちもズウォー領ならどこの町でも入れるようになっていたので、一緒に宿屋に泊まっていました。
「ふう、やっと半分ってところかな。あ、ティンクちゃん。新しいローブの着心地はどうかな?」
「とてもいいですよ。……でも、本当にこんな高価な物を貰っても構わなかったんですか?」
「クジカさんも張り切って作っていたし、いいんじゃない」
今回の旅に出る前に、ティンクちゃん用の装備を作ってもらおうとクジカさんの工房を訪ねたんだけど、彼女の姿を見た瞬間「幸運の精霊猫じゃと!?」と叫んで、いきなり何かを作り始めてしまったのだ。
そしてでき上がってきたのが、今着ているローブ――もちろん錬金で付加効果も付けてある。そして物知りのティンクちゃんでもシークレットのことは分からなかった――という訳。
その時のティンクちゃんは普通のにゃんこさんモードで、ニーノの背中に座っていただけなのだけど、うーん、彼女の神々しさというか素敵成分が漏れ出していたのかな?
ちなみに、幸運の精霊猫云々はクジカさんの一族に伝わるローカルな伝承なのだと、奥さんが教えてくれた。
一応お礼として『料理研究会』が出しているラーメン屋台の無料チケット二十枚綴りをあげたら喜んでいたので、問題はないはず……?
てくてくと歩いて領境の関所へと向かう。ボクの両側を守るようにして進むイーノとニーノ背中には、それぞれビィトとティンクちゃんが乗っていた。
「冒険者だな。そこで止まりなさい」
巨大な門のような建物を潜る直前で停止を促された。領境の警備をしている兵士さんなのだろう、二人の胸には所属を示すズウォーの簡易紋章が記されていた。
「ハイテイマーのリュカリュカ・ミミルと言います。こっちはボクのテイムモンスターたちです」
この世界での身分証となっている冒険者カードを見せながら名乗る。ティンクちゃんは違うのだけど、そこまで詳しく説明する必要もないでしょう。
「リュカリュカ?……!!もしかしてあなたは!?」
「おいこら!?」
ボクの名前に何かを勘付いて叫びだしそうになった兵士さんを、もう一人の兵士さんが慌てて止める。
「どうした!?」
「いや、何でもない!驚かせてすまなかった!……不躾な質問で申し訳ありませんが、あの戦いの折にアルス様を助けて頂いたリュカリュカ様でしょうか?」
詰所に休憩室など諸々を兼ねているだろう部屋から飛んできた鋭い声に応じた後、同僚を止めた方の兵士さんが声のトーンを下げて尋ねてきた。やっぱり分かっちゃったみたいだね。
「結果としてそうなっただけの話ですよ」
「それでも助けて頂いたのは事実です。この場にいるズウォーの者を代表してお礼を申し上げます」
ここまでくる間に何度も繰り返し口にした言葉を発すると、今度はここまでくる間に何度も耳にすることになった台詞を聞くことになった。
「あの一件以来、我らとラザリの連中の仲は良くありません。ロピア大洞掘への関所の町に着くまで、身の回りには十分注意して行ってください。それでは良き旅を」
定型文ぽい言葉で送り出してくれたズウォーの兵士さんたちに感謝の言葉を述べて、足を進める。そして今度は門を潜り抜ける手前の段階で、ラザリ領の兵士たちに止められた。
「古都ナウキから来た冒険者か」
「そうですけど」
嘘をついたところでバレた時の心証が悪くなるだけなので素直に答えておく。
「どこまで行く予定だ?」
「関所を越えてロピア大洞掘に行きます」
「そんなことを言いながら帝都に向かうつもりではないだろうな?」
入領税を払いながら、これまた本当のことを話したのだけど疑われてしまった。
「本当にロピア大洞掘に行く予定ですよ」
誰がすき好んでけんぼーじゅっすー渦巻く帝都になんかに行くもんか。むっとしてそう返すと、その兵士さんはフンと鼻を鳴らした。感じ悪っ!
「そのくらいにしておけ。この後どこに行こうと関係ない。冒険者どもがここを通るごとにナウキの戦力が低下しているということなのだからな。……ふむ。愚かな冒険者どもを引き寄せるために、規制を緩めるのもいいかもしれないな。後で上申してみるか」
うっわ。部下が部下なら上司も上司だね。嫌な考え方するなあ。
だけど、残念。既に指揮権はプレイヤー側から市長さんたちNPCへと移っているし、アルス君たちとの共闘関係になったから主戦力はあちらの兵隊さんたちだ。だからボクのような一般の冒険者がナウキから外に出たとしても、戦力は落ちたりしない。
当然そのことをこの兵士たちに教えてやる義理なんてないから、口が裂けても言わないけどね。
これ以上ここにいてもストレスがたまる一方になりそうなので、ボクたちは早々に立ち去ることにした。
だけど、この先は称号も一切効果がない土地だ。ズウォーの兵士さんの言葉じゃないけれど、慎重に進むことにしよう。
そう決意してから一週間、ボクたちはやっとのことでロピア大洞掘へ向かうための関所のある町へと辿り着いた。
「みんな、大丈夫?」
尋ねるボクを含め、全員が疲れた顔をしている。原因は知らない土地を旅するということを舐めていた、ということになりそうだ。
それまでの、ズウォー領での移動が楽だったことへの反動もあって、かなりきつかった。
町に行っても胡散臭い者を見るような目で見られるし、そもそもテイムモンスターのみんなを連れていることを理由に町へ入れてもらえないことも多くて、問答していると相手が切れて矢を射かけられたり、槍を構えられたりしたことまであった。
仕方がないので町を囲む壁沿いを歩き回って、かろうじて町の安全区域の力が漏れ出している所――既に運営に報告はされているのだけれど、バグなのかそれとも仕様なのかは未だ不明――を見つけては、そこにみんなで固まって眠るということを繰り返していたのだ。
だけど、それも今日で最後だ。この町さえ抜けてしまえば帝国の力は及ばない。重い足を引きずるようにして、ボクたちは町の入口へと向かって行った。
「随分お疲れのようですが、大丈夫ですか?」
「え?神殿騎士さん?」
そこにいたのはラザリ領の兵士ではなく神殿騎士の人だった。
「そうです。現在この関所と町は我々『神殿騎士団』の管理下にあります」
そういえば、勝手に通行を規制しようとしたとか何とかで、『神殿』を怒らせちゃったんだっけ。
「あの、ロピア大洞掘に行きたいんですけど」
「それなら、このまま真っ直ぐに進んでください。しかし、テイムモンスターも一緒に泊まれる宿もありますので、そちらで体を休めてからの方が良いでしょう。そうそう、町区画に入らない限りはテイムモンスターもそのままでも構いませんので」
神殿騎士さんの勧めに従って宿屋へ。部屋に入り、久しぶりに安心して眠れる場所に着いたことで緊張の糸が切れたボクたちは、ベッドに倒れ込むようにして眠りについたのだった。
リュカリュカちゃんのフルネームを覚えていた人、いますか?
作者は危うく忘れかけていました。
そろそろ備忘録的な設定集を作らないとまずいかな……。




