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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
8 新しい大地、もう一つの大地
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104 旅立つ理由

新章開幕。

「ぶうう、もっ!」

「ゴ!……グフゥ……!」


 イーノの渾身の力を込めた突進攻撃――角付き――を受けて、英雄の森のボスであるヘルビートルが大地に沈む。ふう。ボスの名は伊達じゃなかったね。間違いなくここで一番の強さだったよ。


「まじか……。邪魔が入らないように雑魚は俺たちが引き受けていたけど、本当にテイムモンスターとだけでボスのヘルビートルを倒しちまった……」


 ふふん!ここまでやってくる間に、ボクたちだって強くなったんだから!




 さてさて、話は一か月以上前に遡る。その日、ちょうど手が空いているというので、ボクは所属している『わんダー・テイみゃー』のギルド長であるみなみちゃんさんと、副ギルド長の遥さんにある相談を持ちかけたのだった。


「えっ!?別の大洞掘へ行きたいですって!?」


 ギルド長室にみなみちゃんさんの驚いた声が響き渡る。


「リュカリュカちゃん、詳しく話を聞かせてくれないかな?」


 一方、遥さんは落ち着いている感じだね。ただ単にみなみちゃんさんに先に驚かれてしまって、タイミングを逃しただけなのかもしれないけど。


「ティンクちゃんがシュレイちゃんの気配を感じられなくなったんです」


 ボクのフレンドモンスターであるティンクちゃん――一見すると可愛い黒にゃんこさんだけど、その正体は二足歩行で、しかも言葉を話せるとっても可愛いスーパー黒にゃんこさんなのだ!――には、姉妹同然の存在のシュレイちゃんがいるのだけれど、長い長い時を一緒に生きてきた彼女たちは、互いの存在を感じ取れるというシンクロな能力を持っていた。

 だけど、それは完全なものではなくて、せいぜいが同じ大洞掘にいることが分かる――それでも十分すごいよね……――くらいのものだった。


「つまり、相手の存在を感じ取れないというのは、その相手が別の大洞掘にいるから、ということ?」

「過去の経験からも、それで間違いないだろうって言ってました」

「だから彼女を探しに別の大洞掘に行きたい、と。……ああ、びっくりした!わたしはギルドが嫌になったから辞めるっていうことなのかと思っちゃったわよ」


 ええっ!?そんな風に思っちゃったの!?


「説明不足でごめんなさい!」


 ぐでーっとギルド長用の立派な机に突っ伏すみなみちゃんさん。その姿にボクは急いで机を回り込んで彼女の側へと近寄って行――


「お姉さんを心配させた罰よ!」

「むぎゅ!?」


 ――った瞬間、みなみちゃんさんに捕まり、その大きな胸に抱きすくめられてしまった。


「いなくなっちゃうのかと思ったんだからね!」

「む、むもー!?ももー!?」


 それは包み込むような柔らかさと、押し潰すような圧迫感を併せ持つ究極の兵器だった。


「ギルマス、そのくらいにしておかないとリュカリュカちゃんが死に戻ることになるわよ」

「むう……。仕方ない。今日はこのくらいで許してあげる」

「ぶはっ!ま、まさか幸せと絶望を同時に感じることになるとは思わなかった……」


 生きているって素晴らしい!だけどこれで終わりかと、どこか残念な気持ちもあったりした。そんな魔性の兵器をお持ちのみなみちゃんさんは、小さな子どものように唇を尖らせてボクを見ていた。

 まったくこの人はもう存在自体が反則だよね。ボクが男だったら迷わずお持ち帰りしようとしている――できるかどうかは別問題だけど――ところだ。


「と、とにかく!そういう理由でしばらく別行動をさせて欲しいんですけど」


 このままだとみなみちゃんさんの女子力に絡め取られそうなので、強引に相談の方へと話を戻すことにした。


「いいわよ」

「ほえ?」

「うちは同好の士に集まってもらって、テイムモンスターを愛でたり強くしたりするのが目的だから、メンバーに義務やノルマを課したりはしていないし」


 ギルドによっては所属するメンバーに特定の行為を要求していることがある。月々いくらという会費形式が多いんだけど、ダンジョンのマップの作製や、効率よく魔物を倒すための研究を課題にしているような攻略ギルドもある。

 後、生産系のギルドだと定期的に新作を作ることが条件になっている場合もあるみたい。

 そして言われてみれば『わんダー・テイみゃー』にはそうした要求ごとが一切ないことに気付いた。


「強いて言うなら、共用餌代募金がそれに当たるかもしれないけどね」


 ボクの反応が面白かったのか、遥さんはくすくすと笑いながらそう付け足していた。


「そういえば、ギルド加入によるメリットが追加される気配が一向にないから、大規模イベント前に強引に勧誘されたプレイヤーを中心に、ギルドを止める人がそこそこ出てきているらしいわね」

「あ、その噂はボクも聞きました。メンバーが減り過ぎて、一時停止処分になったギルドもあるみたいです」


 つい先日聞いたばかりの噂話を思い出していた。「そういうギルドに限って高い会費を支払わせているもんさ」と言って肩をすくめたのは、その話をしてくれた屋台通りの焼鳥屋のおじさんだった。


「まあ、そういう訳で、リュカリュカが別の大洞掘に出かけるのをギルドとして反対するつもりはないわ」

「むしろあっちで新しい子をテイムして、連れて帰ってきてほしいくらいよ」


 テンションの下がりそうな話題を強引に打ち切って、みなみちゃんさんが結論を口にすると、遥さんがそれに続いた。


「シュレイちゃんだっけ?少しでもその子の動きを知っておかないと、とんでもないことを仕掛けてきそうだし。だけど今どこで何をしているのかっていう近況報告は欲しいかな。ほら、色々あって私たちは簡単に古都ナウキから離れられなくなっちゃったから」


 大規模イベント以降のあれこれで『わんダー・テイみゃー』は新興ながらも有力ギルドの一つとして、プレイヤーにもNPCにも認知されてしまっていた。つまりみなみちゃんさんたちギルドの幹部は、帝国に抵抗するための必須要因として数に入れられているのだ。


「分かりました!ログインした日は毎日メールを送ります。それと何か面白いものを見つけたら知らせるようにしますね」

「リュカリュカ隊員に任せた!まあ、ワト君とビィ君の誕生動画ほどの衝撃映像はそう簡単に見つからないだろうけど」


 みなみちゃんさんの言葉に「それはそうですよー」なんて返事をしながらも、とあるプレイヤーのスクリーンショットなんて撮れてしまったら、大騒ぎになってしまうんだろうなあ、なんてことを考えていた。


今章はリュカリュカちゃんメインで、新しいエリアに向かいます!

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