103 団体割引?
宴会から明けて――暗くならないから実感が薄いけれど――翌日、関所の町の入り口から少し離れた場所で、私たちは護衛に付いて来てくれたラザリ領の兵士さんたちと別れの挨拶をしていた。
町の向こう側に大洞掘の壁が延々と続いているのが見える。
「あなた方のお陰でとても助かりました」
「いえ、大見栄を切って同行させて頂いたのに碌な役にも立たず、申し訳なく思っています。しかも、昨晩のような宴を開いてもらい、しかもその料理の作り方まで教えて頂けるとは、恩を返すどころかますます増えてしまっていて、恐縮する次第です……」
根が真面目なのだろう、代表する男性の言葉に兵士さんたちは皆少し落ち込んでいるようだった。
「とんでもない!私たちだけではきっと良からぬ考えを持つ者たちを引き寄せてしまい、余計な騒動を起こしていたことでしょう」
まあ、それでも全滅して最後に立ち寄った町へと死に戻り、なんてことには絶対にならなかっただろうけれど。
ウェルサス郊外での戦い以降、私にはこの旅の仲間たちが負けるところを予想することができなくなっていた。
だけど、怪我人くらいは出ていたかもしれない。それを未然に防げたのだから、彼らの功績は大きいと言っていいはずだ。
「それに、町の人たちからも不審に思われることがなかったし。お陰でいろんな料理とか買い物を楽しむことができました」
「……そうよ。あなたたちは十二分に自分たちが課した役目を果たしているわ。だから胸を張って。そして昨日の宴会やその料理のレシピはそのお礼だから、受け取ってちょうだい」
ジュンちゃんにちょんちょんと突かれて、多恵ちゃんに続いて私はそう言った。不本意ながらも怪我を直して回った私が一番彼らから信頼を得ているからだ。
「聖女様……。もったいないお言葉です……!」
と、予想通り自分たちを責めることは止めてくれたのだけど……。なんだかその分私の心に罪悪感が積み重なっていくように思えた。
「不幸な出来事から始まってしまった私たちの関係ですが、こうして手を取り合うこともできました。この経験が、そしてそこに記された料理の数々が、私たち冒険者とあなた方を始めラザリに住む人々との友好の一助になることを願っています」
佐介さんのまとめの言葉――どこかで聞いたことのあるような言い回しなのは気にしてはいけないこと、なのだろうね。そして多恵ちゃんたちに配慮してか、こっそり料理を推していた――に、兵士さんたちは最敬礼で応えてくれた。
これで少なくともラザリ領へのプレイヤーの行き来はしやすくなるような気がする。後は領主である皇帝の弟やその取り巻きたちが、そうした移動や交流によって生まれることになる将来的な益に気が付かないほどのバカじゃないことを祈るだけかな。
多恵ちゃんいわく、私たちとは別口でこのロピア大洞掘への関所がある町を目指していたプレイヤーたちが、その辺りの身分や位の高い人たちを取り込んでいるだろうという話だったけど、さて、どこまで上手くいっていることなのやら。
「ロピア大洞掘でも皆様がさらなる躍進をお祈りしております。そして再び帰って来られた時に、良い町、良い土地、良い国であると感じてもらえるように、微力ではありますが精一杯努めてまいります!」
ほ、程々にね……。という言葉が出そうになったけれど、せっかくの決意に水を差すのも野暮というものだ。私たちは一言「頑張って」とだけ口にして、町の中へと歩き始めたのだった。
こうして、短い間だったけれど、兵士さんたちとの旅は終わりを告げた。
そしてそれは、この旅の終わりが近いことでもあった。
「えと、三週間を超える長い旅になってしまったけど、誰一人欠けることなく無事にここまで来ることができました。至らないリーダーで、何度も迷惑をかけたと思います。それでも文句を言わずに付いて来てくれてありがとう」
中央にある広場の一角に陣取ると、多恵ちゃんがそう話し始めた。だけど、修学旅行で先生が行う締めの挨拶のようなその台詞に、すぐに本人を始め全員が苦笑いをし始めた。
「あはは……。ダメだね、終わりを意識しちゃうとどうも寂しくなっちゃう。先にこれからの予定について話しておくね。最終目的地はロピア大洞掘だけど、こうやって全員で行動するのは今日まで、となります。
というのも、向こうに行くには二つの方法があるから。一つは通行料だけ払って、てくてくとトンネルの中を歩いていく方法。もう一つは追加料金を支払って転移門で向こうの関所の町に行く方法です」
「補足しておくと、トンネルにはレリーフが描かれていて、この『アイなき世界』の歴史を知ることができるようになっているそうです。なかなか見ごたえがあるようで、通ってみたプレイヤーは一見の価値ありだと掲示板やブログに書いています。ただ、暗くて狭い上にひたすら長いです。足に自信のあるうちのメンバーでも、通り抜けるまでに二時間以上かかったと言っていましたから」
佐介さんの説明に残る全員の顔が引きつっていく。素早い動きが売りである『諜報局UG』の中でも走るのが得意なプレイヤーですらそれって、普通のプレイヤーであれば数日がかりになりそうだ。
それでも、言ってみれば大陸同士を繋いでいるのだから、短い方ということになるのだろうけれど。
「よっぽどお金を節約したいか、それとも生でじっくりそのレリーフを見てみたいかでなければ、お勧めはできません。軽い気持ちで入った別のプレイヤーは、精神修行をしているようだったとも書き込んでいますので」
「ちなみにウチらは転移門を使う予定です。まとめて申請を出すと団体割引が適用されるから、どちらの場合でも明日の二十時までに連絡をください」
転移門の使用料は、一瞬歩きで頑張ってみようかという考えが頭をよぎるくらいには高いものだった。それにしても団体割引って……。そのうち深夜割引とか休日割引なども出てくるのかしらん?
「メイプルさん。ちょっとお金がかかるけど、転移門での移動でいいよね?」
ちょっとなの!?ああ、つい忘れそうになっちゃうけど、ジュンちゃんも上位職にクラスチェンジずみの中堅プレイヤーだった。
私のように未だ一桁レベルとは稼ぐことのできる金額も違っているのだろう。
「な、なに?」
思わず恨みがましい目で見てしまったけど、我慢して頂きたい。
「気にしないで。レリーフもちょっと気になるけど、さすがに何日も歩きたくはないから転移門でいいわ」
もしかするとレリーフのどこかに隠し通路を開くための仕掛けがあって……、なんてことが一瞬頭をよぎったけれど、それを数日がかりで探すなんて地味でしんどい作業をするのは御免なので、忘れることにする。
そんな訳で翌日、私たちはロピア大洞掘へと足を踏み入れることになる。
追伸。転移での移動では感動も何もなかった。
次回より新章です。




