101 旅の再開
勝ったからと言って「はい、おしまい」とはいかないのがこの世界の面倒なところだ。戦いの後は、楽しい楽しい後始末が待っていた。
しかし、捕虜の取り調べにズウォー領軍上層部への報告、ラザリ領軍への賠償の請求などなど、厄介事は全てウェルサスの常駐軍の人たちに押し付け、もとい引き受けてもらい、私たちは手が足りなくなった周囲の警戒や魔物退治をしていた。
さすがに多恵ちゃんや佐介さんたちはそれに付いて回っていたけれど、その間他のメンバーは基本的にごく一般的な冒険者とほぼ変わらない生活を送っていた。
実はこれ、称号『ウェルサスの英雄』がどれくらい便利で有利に働くかの検証も兼ねていた。
そして、その検証結果として出たのが、「ダメ、もうウェルサスから離れられない!!――個人の感想です――」だった。
さすがに常闇の洞窟まで遠出はできなかったけれど、それでも町の近くの魔物を倒して回っているだけで、どんどんと軍資金が貯まっていく有様だ。
その結果、約半数のメンバーが武器や防具を新調することができていた。しかもこの時も交渉――ヨイショともいう――で一割前後値引いてもらったというツワモノもいたりした。
そんなとても便利な称号を手に入れた私たちだけど、本来の目的はロピア大洞掘へと行くことだ。全員での話し合いの結果、ここを拠点にして活動しようと考えている人も、一旦はロピア大洞掘へと向かう、ということになった。
帝国のこの動乱がいつまで続くのか分からないので、行ける時に行っておいた方が良い、という共通認識があったので、この相談自体は特に紛糾するようなこともなく、和やかに終わった。
どちらかというと、その後の多恵ちゃんと佐介さん二人による愚痴大会の方が精神的にきついものがあった。
そうそう、この時の愚痴で明らかになったことをいくつか記しておくと、まず事件の首謀者はラザリ領軍ではなく、敵軍の指揮官だったオルオットなる人物だった。
彼はラザリ側の領境付近の警備を担当する役人の一人だったのだけど、帝国の分裂騒動によって中央から人材が流れてきたことで、自分の出世に不安を覚えるようになっていた。
そこで分かり易い実績を作るため、強引な手を使ってウェルサスを奪うことを思い付いたのだそうだ。イベントタイトルが『オルオットの争乱』だったのはそういう理由かららしい。
だからと言って、ラザリ領軍や治めている王弟派のお偉いさん方に過失がない訳じゃない。オルオットが率いていたのは、半分は子飼いの私兵だったけれど、もう半分はれっきとしたラザリ領の軍人たちだったからだ。
多恵ちゃんたちは向こうが言い逃れできないように、この点をチクチク突いていたのだとか。
余談だけど、オルオットの私兵と正規軍との混合部隊だったことで士気の上りが悪く、私たちに有利に働いたという部分があったそうだ。まあ、半分は負けた言い訳のだろうけれど。
一番対処に困ったのが、避難民の人たちをどうするかということだった。あちらとしては自領の民であるため当然のように返せと主張してきた。
こちらとしても保護するのにそれなりの物資や人手がかかる。まして受け入れるとなるとその分の雇用が必要となってくる。
こうした観点から返したいというのが本音なのだけれど、そうはできなかった。無断で領境を越境したことを、そして今回の事件の発端となったことを理由に、避難民たちが処罰されるという可能性を否定できないからだ。
一応、希望者から順次帰領させていくという流れとなっているそうだけど、それも今後の話し合い次第というところのようだ。
ちなみにオルオットはというと、ウェルサスを占領するどさくさに紛れて皆殺しにするつもりだった。そしてそれをウェルサスに擦り付けようとしていたというのだから始末が悪い。
さて、いつまでもここで足止めを食っている訳にはいかない。後始末を始めてから一週間、ウェルサスに到着してからだとなんと十日の後に、ついに私たちはロピア大洞掘に向けての旅を再開することになった。
「俺、この旅が終わったらあの町を拠点にして冒険をするんだ」
「ちょっと、変なフラグを立てようとするのは止めてよ!?」
大勢の町の人たちから見送られるという展開に、私たちは一様に浮足立っていた。
「皆、水を差すようで悪いですが、これから向かうのは敵として戦ったラザリ領だから、浮かれ過ぎないように注意してください」
「言いたくはないけど、報復をしてくるかもしれないよ。いつでも戦えるように準備だけはしておいて」
そんな私たちに佐介さんと多恵ちゃんが真剣な顔で注意を促していく。そして街道に作られている領境の関を越えた先で、その一団は待ち受けていた。
「全員ラザリの軍人のようですね。揃いの鎧を身に着けています。何人か見覚えのある顔がいますね……。先日進軍してきた兵士たちで間違いないと思います」
捕虜にした兵士たちは首謀者であるオルオットを除いて全員、賠償金が支払われたと同時に開放、つまりはラザリ領へと帰還していたのだ。
それにしても、技能を使って遠距離から様子をうかがっておいて正解だった。行くという選択肢しかないとしても、心構えができているのとそうでないのでは雲泥の差があるからだ。
「覚悟はいいですか?伏兵はいないようですが、どんな手を使ってくるか分かりません。くれぐれも用心だけは怠らないようにお願いします」
ピリピリと張り詰めた空気をまといながら、私たちは関所へ向かって歩き始めた。関所と言っても簡易なもので、街道に大きめの門のようなものがあり、その両側数百メートルにわたって、木の柵が伸びているだけの代物だ。
「連絡は受けております。この度はウェルサスを守って頂きありがとうございました。
……何かあればすぐに戻ってきてください。この通り少ない人数ですが、皆様がこの場を離れる時間を稼ぐことくらいははできると思いますので」
いや、そんな悲壮な覚悟を聞かされたら、かえって戻れなくなるんですけど……。他の皆も微妙な顔でお礼を言っていた。
そして門の反対側、すなわちラザリ領側へとあっという間に辿り着く。
古都ナウキでの戦いの顛末を知っているのか、それとも先日の事件のことを耳にしているのか、門番の兵士たちはさっきの私たちと同じくらいかそれ以上に微妙な――もう微妙じゃなくて、はっきり複雑な顔といった方が良いかもしれない――表情を浮かべていた。
門を越えたところで、例の一団がこちらに近寄って来始めた。再び空気が張り詰めていく。
互いにあと数歩というところで立ち止まる。
そしておもむろにその一団が跪いた。
「聖女様を始め皆様がロピア大洞掘へと向かっているとお聞きしました。先日の償いではありませんが、どうか我らにロピアへの関までの護衛をさせてはいただけないでしょうか」
呆気にとられる私たちを前にして、先頭の男性はそう言ったのだった。




