100 新しい称号
両軍はウェルサスの手前数キロの場所で対峙したのだけれど、その様子は対極的と言ってもいいほどだった。
一方のラザリ軍は、重症兵を置き去りにしたことにより士気は低下し、さらに強行軍によって疲労困憊していた。
もう一方のウェルサス常駐軍は、わずか数十の寡兵で痛撃を与えた冒険者たちに続けとばかりに高い士気を保っていたのだ。
この始まる前から結果が見えているような戦いは、想定外の大どんでん返しが起きることもなく、ウェルサス側の圧勝に終わった。
特に、ウチらからの攻撃がよほどトラウマになっていたのか、潜ませていたウェルサスの伏兵が背後を突いたと同時に、ラザリ軍は瓦解していったのだった。
結局、大将であるオルオットなる人物を筆頭に、敵軍五百五名全てが捕虜となった。このあたりは一応全年齢対象――ただし、十二歳以上推奨ともなっている――のゲームということで、運営さんの手が入っていたような気はする。
そして今、ウチらプレイヤーの前にはインフォメーションが流れていた。
〈イベント『オルオットの争乱』をS評価でクリアしました。報酬として任意の技能レベルを上げることのできるアイテムを二個進呈いたします〉
「思っていたよりも報酬が少ないですね」
「ある意味ローカルなイベントだし、参加人数が少なかったから仕方がないんじゃないですか」
喜びに沸くウェルサス軍の後方で、ウチは佐介さんとインフォについて話し合っていた。特に称号を期待していたプレイヤーはかなり残念そうにしている。
いや、この報酬のアイテムもかなりすごいのよ。技能はレベルが上がれば上がるほど強化されていくけれど、当然その分どんどんと上がり難くなっていく。
それを「アイテムを使用する」という項目をポチリとするだけで問答無用で上げてしまうのだ。
これからプレイヤーのレベルが上がっていき、それに伴って技能のレベルも高くなっていくことで、このアイテムの価値はぐんぐんと鰻登りに高まっていく――現物のウナギさんも希少価値が高まって値段が上がっちゃったよね……。リアルで調理できる機会はないけど、この『アイなき世界』でならきっとそんな機会もあるはず!――だろう。
そんなことを考えていると、司令官さんがやってきた。
「無事に勝てて良かったですね」
「ありがとうございます。しかしこれも、あなた方冒険者の皆様が危険を顧みずに敵軍に大打撃を与えてくれていたお陰です。あなた方は我が軍の、いえ、ウェルサスの英雄です!」
〈S評価特別報酬、称号『ウェルサスの英雄』を手に入れました〉
「うおおおおお!!!?」
「やったーーー!!」
プレイヤーたちの歓声が上がる。これは……、やられた。ないと思っていたから、余計に嬉しい!
そんなウチらに司令官さんは驚き戸惑っていた。
「ど、どうかなされましたか?」
「ああ、驚かせてしまってすみません。皆、自分たちの働きを評価してもらえて喜んでいるようです」
佐介さん、ナイスフォロー!まあ、本当は運営さんからの評価に対する喜びだから、そこのところ司令官さんには少し申し訳なく思うけど。
そうこうしているうちに実働部隊の面々も帰還してきて、プレイヤーとNPC一緒になってさらなる歓声が巻き起こった。
お互いの無事と勝利を喜び合う光景を見ていると、なかなかに得難い経験ができたような、そんな気持ちになってくる。
「多恵ちゃん、お疲れさま」
「メイプルさん!ジュンさん!二人ともお帰りなさい!」
二人の無事な姿を見て、思わず飛び付いてしまった。あらら、自分で思っていた以上に心配だったみたい。そんなウチの背中をメイプルさんはぽんぽんと軽く叩いてくれた。
そういえばマイっちもこんな風に励ましてくれていたっけ。元気にしているかな?
「聞きましたよ。二人とも大活躍だったそうですね」
そんなホームシックにも似た気持ちを隠すように茶化して言うと、二人は苦笑いを浮かべていた。
あー、これはやらかしちゃったという自覚があるみたいだ。まあ、大まかなところは分かっているし、これ以上蒸し返すつもりはないけど。
「そ、そういえば今回貰えた称号の効果、結構便利そうよね!」
だから、メイプルさんのわざとらしい話題転換にもすぐに乗ることにした。
「そうですね。あれ?二人とも大規模イベントの時に称号を貰っていませんでしたか?」
「貰っているけど……。『耐プレイヤー』だから。基本PvPもPKにも参加しない私たちには無用の長物だよ」
それもそうか。『闇ギルド』という厄介な連中もいるけれど、無視を決め込むなら『プレイヤー同士の攻撃判定有無の設定』をオフにすることで事足りる。
対して『ウェルサスの英雄』は破格と言っていいほどの効果を持っていた。
「ウェルサスでの宿代や消耗品を購入する時に二割の値引きアリに始まって、素材等の売却時は一割アップ。クエストの優遇もしてくれて、なんといっても転移門の使用料が一割減というのが大きいですよ!これで、近くにいい狩場があったら、ここを拠点にしようという人も出てくるでしょうね」
「それなんだけど、ここから常闇の洞窟って案外近くないかな?」
ジュンさんに言われてマップを確認してみると、確かに近い。
常闇の洞窟というのは、ナウキを中心とした特別自治区内にあるダンジョンで、強めの魔物が出ることでも知られている。そして正確には洞窟群というべきところで、今後も新たなダンジョンが追加されていくのではないかと噂されている狩場だ。
行ったことがなくて、キョトンとしているメイプルさんに説明すると、彼女は「なるほど」と頷いて、ある持論を展開し始めた。
「もしかすると今回のイベントって、プレイヤーの居場所を分散させるためのものだったのかもしれないわね」
第三陣が加入したことで、ナウキは過密状態になっているのであり得る話ではある。
「だとすると、他の町でも似たようなイベントが起きる可能性がある?」
「どこまで似たものになるのかは分からないけどね。帝国の混乱に乗じてやってきた盗賊から町を守れーとか、大量発生した魔物をやっつけろーとかはありそうじゃない?」
それが本当だとすれば朗報だ。主に便利な称号を貰ったウチらが恨まれないですむという点で。
「すぐに佐介さんたちと相談して、事の詳細を掲示板にアップすることにします!」
その後、ナウキから周囲の町――主に協力関係となっている三つの領にある町――へとプレイヤーたちが大量に散っていくことになるのだけど、それはまた別のお話。
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称号『ウェルサスの英雄』について。
効果
一、ウェルサスでの宿泊費と消耗品――低価格の物に限る――の購入時の金額が二割減。ただし、武器や防具を始めとした高価な商品については交渉次第となる。
二、ウェルサスの冒険者協会で素材等の売却をする際、価格が一割上昇。また、場合によるがクエストの優遇措置もある。
三、転移門の使用料が一割低下。これは他の町からウェルサスへと移動してくる時にも適用される。
注意点
行動内容によっては剥奪されることもある。
〈例〉称号を笠に着て、町の住人に高圧的な態度をとる。




