98 戦闘開始!
祝!百話!!
まだまだ続きますので、よろしくお願いします!
「斥候部隊のアルファチームから入電!「〈我ラ敵ヲ発見セリ〉」繰り返します!「〈我ラ敵ヲ発見セリ〉」!!」
領境ギリギリのラインで待ち伏せしていた仲間たちからの連絡が入った。
「敵の人数は分かるか?」
「はい。おおよそですが、全軍で五百。騎兵百五十、歩兵三百、弓兵五十です。それと、指揮官らしき者の側に、数名魔法使いと思われる者たちがいるようです」
敵の数が伝えられ、臨時の司令部となった部屋に動揺とどよめきが走る。何せ、ウェルサスに常時詰めているズウォー領の兵団は全軍合わせても四百人に満たないからだ。
今、大急ぎでこの地方の中心都市に応援を要請しに行っているけど、とてもではないけど、開戦までには間に合わないだろう。
だけど、そんな切迫した状況にありながら、どうしてそんなにノリノリでやがりますか、あなたたちは!?
ここは戦艦か移動要塞の艦橋かい!?
「強襲部隊のブラボーチームより入電!「〈コチラデモ敵ヲ発見。後方ヨリ痛撃ヲ与エタ後ニ離脱スル〉」とのこと。繰り返します!「〈コチラデモ敵ヲ発見。後方ヨリ痛撃ヲ与エタ後ニ離脱スル〉」とのことです!」
「うむ。通信士、魔法使いには注意し、見事任務を遂行するようにと伝えよ」
いや、連絡係だから。
そして佐介さん、役目を取られた本当の司令官――ウェルサスの常駐軍の一番偉い人――が、あなたの後ろで涙目になってますよ。
「了解!作戦名『後ろの正面だーれだ!?』開始します」
うわー、もう雰囲気台すら無しだー。誰よ、作戦名考えたのは!?
ジムさんから避難民の状況を聞いた後、ウチらは佐介さんたちを呼び戻して全員で緊急会議を開いた。
「つまり、リーダーはズウォー軍にさらわれた民衆を助けるという筋書きで、ラザリ領の軍が進軍してきているのではないか、と考えているんですね」
「そう。荒唐無稽なように感じるかもしれないけれど、これなら顔を隠していたことも、村から追い立てただけで死者がいないことも説明できるよ」
労働力として使うつもりだったから殺すことはなく、それを取り戻すためには敵の領内へと入り込むより他はなかった。あちらの言い分としてはこんなところじゃないかと予想している。
「でも、それらしい敵の姿は見えませんでしたけど?」
「それは多分、ギリギリまで自領を移動しているからだと思います。この周辺は平地が続いているので、多少魔物が出るのを覚悟しさえすれば、街道でなくても移動は可能でしょう」
町の外で偵察をしていた人からの疑問に、ジュンさんが答えていく。それはとても説得力のあるもので、ウチも「なるほど」と納得してしまっていた。
「佐介さん、どうかな?かなりあり得そうに思うんだけど」
「ええ。十中八九その線で決まりでしょう」
残念。やっぱり当たってしまっていたようだ。そうなると、あれについても考えなくちゃいけない。
「皆注目!これからウチたちは、ウェルサスにラザリ軍からの攻撃があるという前提で動くことにします。現状、ウチらが取れる行動は二つ。ウェルサスにこのことを報告して協力してラザリ軍と戦う、これが一つ。もう一つはロピア大洞掘へと向かうという本来の目的を達成するために、戦渦に巻き込まれないうちにこの町を出て行くこと。
まあ、細かく言うなら、情報を伝えるかどうか、という点もあるけれど、基本はその二つ。要するに参戦するか、しないかです」
ウチの言葉に、旅の仲間たちがざわつき始める。いきなりNPCたちとの戦闘に巻き込まれそうになっているのだから、それも無理もないことだ。
最悪、戦う派と先を急ぐ派の二つに分けなくてはいけないかもしれない。
「プチイベント状態!対軍団戦か!燃えてくるな!」
「俺、ナウキのイベント戦の時には少し離れた所にいたから、参加できなかったんだよ。今度はやってやるぜ!」
「確か大規模イベントの時って称号を貰えたのよね?今回も何かあるのかな?」
「そ、それはもう張り切らざるを得ない!」
……あれ?戦いには参加したくないという声が全く聞こえてこないんですが?
あ、もしかしたらこの空気に流されてしまって、言い出し難くなっている?
「えっと、一応言っておくけど、ウチはできれば戦いたくない方だから」
不参加側の口火を切っておく必要がありそうだったので、胸の内を伝えると……、なんですか皆さん、全員揃いも揃ってその驚愕に見開いた「信じられない!?」という顔は。
「え?リーダー、大規模イベントの時に皇帝に啖呵切って盛り上げていましたよね?」
「あれは相当に勝てる見込みがあったからと、言い返さないとあちらの雰囲気に呑まれそうだったからだよ。ウチ料理人だからね!元々戦闘は苦手なのよ!?」
「そ、それじゃあ、リーダーは不参加なんですか?」
不安そうに聞いてくるプレイヤーに向かって、ウチは首を横に振った。
「戦いは苦手だけど、一度関わった人たちを放っていくようなことはしたくない。それに、ウチらの予想した通りだとしたら、やり口が気に食わない。だからウチは参加するよ。とはいっても後方支援になるけどね。
ただ、本心から戦いたくないって思っている人がいるなら、ちゃんと言ってほしい。嫌々やるのはもったいないよ。これはゲームなんだから、楽しまなくちゃ」
そして一拍の間の後、
「うおおおお!!」
「リーダー、カッコいい!!」
と、歓声が上がっていた。うん、皆ちょっと落ち着こうか。
「えっと、それじゃあ改めて聞くけど、戦いたくないという人はいませんか?」
しー……ん。
「それじゃあ、ラザリのやつらをぶっ飛ばしてやりたい人!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
その日一番の歓声が上がる。そして盛り上がるウチらは避難民の人たちや、門番さんたちから白い目で見られていたのだけど、誰一人気付くことはなかった。
「入電来ました!ブラボーチーム、後方からの攻撃に成功!敵は混乱している模様です!それと、指揮官を始め複数名が、こちらの覆面に反応したとのことです!」
顔を隠していたのはこちらの正体がバレないようにするためでもあるけど、「お前たちがやったことは知っているぞ!」という意味も込められている。そしてそれに反応したということは、
「ウチらの予想は正しかったみたいね」
ということだった。
「まさか、ラザリの者たちがそこまで堕ちていたとは……」
一方、NPCの人たちは複雑な表情を浮かべていた。今でこそ反目しているけれど、ほんの半月ほど前までは、彼らもあの連中も帝国の軍人という同じ括りの中にいたのだ。
そんな元同僚たちが卑怯で非道な行いをしていたことに、やるせない気持ちになってしまっても仕方がないことではある。
「しっかりしてください!あなたたちがそんなことでは兵士たちに悪影響が及びます!」
しかし、今は非常時であり、彼らは上に立つ者たちなのだ。ほんの少しの采配ミスで多くの人間が損害を受けることになってしまう。
「申し訳ない。目が覚めた思いだ」
司令官さんが一礼して一歩前に出る。
「思いは様々だろうが、今は切り換えるのだ!我らの肩にはこのウェルサスに住む者たちの命がかかっている!不逞な逆賊どもを蹴散らしてくれようぞ!」
「おお!」
持ち直したみたいだ。後はこの先制攻撃でどれだけ敵の数を減らすことができるかが鍵となる。ウチは心の中で前線にいる仲間たちの無事と活躍を祈っていた。




